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論文

 先月26日に「国際連合人口基金」が発表した2011年版の『世界人口白書』によると、今週の月曜日31日に世界の人口が70億人になったらしいということです。
 この数字の意味を実感していただくために、人口が2倍になるまでの年数を歴史的に振り返ってみると、西暦1年の約2000年前に3億人程度であった世界の人口が2倍の6億人になったのは西暦1650年頃でしたから、1650年間で2倍になりました。
 さらに2倍の12億人強になったのが1850年頃でしたから、200年間で2倍になり、その2倍の25億人を突破したのが1950年頃でしたから、わずか100年間で2倍になりました。
 そして50億人になったのが1988年前後ですから40年弱で2倍になり、そこから23年で1・4倍にも増えたのです。
 これからは増加の勢いがやや緩やかになり、100億人になるのは80年ほど後と予測されていますが、改めて思い出すのがロバート・マルサスの『人口論』です。

 1798年に匿名で初版を出版しますが、かなりの反響を呼び、1803年には実名で第二版を出版しています。
 その主要な内容は「異性間の欲情(passion)は必ず存在する」ので、これに制約を加えなければ「人口は幾何級数(等比級数)的に増加する、すなわち1、2、4、8と増えていくが、人間が生存するのに必須の食糧の生産は算術級数(等差級数)的にしか増加しない、すなわち1、2、3、4としか増えない」ので、いずれは破綻するという理論でした。

 確かに人口の増加は、最初にご紹介したように幾何級数的に増加してきましたが、食料についてみるとマルサスの予測のようにはなっていません。
 比較的正確な統計のある1950年から2005年までの55年間について、人口の増加を調べてみると、26億人から65億人と2.5倍増えています。
 これは毎年1・67%の等比級数で増えたことになります。
 ところが同じ期間に穀物の生産は3・2倍、食肉の生産は6倍、魚の漁獲は6・9倍に増え、人口の増加以上に増えています。
 例えば、食肉の生産について計算してみると、毎年3・32%の比率で増えてきたことになりますから、人口以上の増え方です。
 マルサスの予測は当らなかったことになるのですが、それは技術革新が進み、食糧の生産効率が大幅に向上してきたことと、森林を伐採して農地や牧場にし、海を埋立ててエビの養殖場にし、諫早湾の干拓のように海面を田畑に変えてきた成果です。

 この状況には3つの問題が含まれています。
 人口が2・5倍しか増えなかったのに、食糧は穀物も肉も魚も、それ以上の勢いで増えたけれども、食糧が手に入らない飢餓状態の人数は増え、現状では10億人以上が飢餓状態に直面しています。
 それはどこに原因があるかといえば、配分の不平等が存在しているからです。
 アメリカでは一日に13万トンの食糧が手付かずのまま廃棄され、日本でも5万トンが毎日廃棄されています。
 ところがアフリカなどへの食糧支援は1日に換算すると3万トン程度です。単純に計算すれば、アメリカ人が捨てる食糧を4分の1減らすだけで、世界各地で飢えに直面している人々は無くなるということです。

 第二の問題は技術革新にも限界があるということです。遺伝子組換え作物の開発や効率的な農薬の開発も進んでいますし、植物工場も少しずつ増えていますが、一気に食糧が増産されるわけではありません。

 第三が最も重要ですが、農地や牧場を開拓していくことは環境破壊と裏腹だということです。
 これを気付いてもらうために考え出されたのが「エコロジカル・フットプリント」という数字です。
 エコロジカルは環境、フットプリントは足跡ですが、人間が生活するために踏みつけている自然の面積という意味です。
 例えば、人間が食べる食糧を生産するためには森林や原野を開拓して田畑に変えますが、それが1人1年の食糧を生産するために、どれだけの面積が必要かを計算します。
 同様に、石油や石炭や天然ガスなどのエネルギーを消費しますが、それも森林を伐採して石炭を採掘したり、原野を切り開いて石油や天然ガスを採掘したりしますから、これも1人1年について計算します。
 さらに住宅、オフィス、工場を建設し、道路、鉄道、空港なども必要ですから、これも1人1年の必要量を計算し、それらの合計をエコロジカル・フットプリントとします。

 2009年に発表された2006年の数値を見ると、日本人は1人1年あたり4・1ヘクタールの土地や水面を踏みつけて生活していますが、日本の国土や領海が供給できる利用可能な面積は0・6ヘクタールでしかありません。
 お分かりのように、海外の田畑で収穫された穀物や外国の海で獲れた魚を大量に輸入しているということです。

 これも問題ですが、さらに深刻なのは世界全体の数字です。
 平均すると1人1年に2・6ヘクタールの土地や水面を使っていますが、地球の利用可能な面積は1・8ヘクタールしかありません。
 すなわち地球が1・4個ないと70億人近い人間は養えないという意味です。
 この不足の0・4個分は世界各地で十分に食べ物が手に入らないために飢餓状態にある10億人以上の人々や、安全な飲み水を飲むことができずに疫病にかかって死んでいる数百万人人々が穴埋めして何とか辻褄が合っているということになります。
 ほんの25年前までは世界の人口は地球が養うことのできる以下でしたが、わずか4分の1世紀で、人口の増加と環境の破壊の相乗効果で、ここまで来てしまったということを改めて見つめ直し、これから世界や日本の方向を考える必要があると思います。





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