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論文

 今日は冬至です。言うまでもありませんが、北半球では昼の時間がもっとも短くなる日です。
 例えば、東京では昼の時間がもっとも長い夏至のときは14時間35分ですが、冬至になると9時間45分ですから、4時間50分も昼の時間が短いことになります。
 東京は緯度が低いので、この程度の差ですが、緯度が高くなるほど差は大きくなり、北緯66・5度以上の北極圏になると、夏至のときは一日中、太陽が沈まない白夜になる一方、冬至のときは一日中、太陽が顔を出さない夜のままということになります。

 「一陽来復」という言葉があります。これは逆境や不運が続いていた後に幸運が向いてくるという意味ですが、冬至もひたすら太陽の出ている時間が減っていく時期から増えていく時期に逆転する境目になりますので、「来復」という言葉は冬至の代名詞としても使われています。

 この「来復」という言葉が象徴するように、衰えてきた太陽の力が最低のところまで来て、明日からは甦るという特別の日ですから、冬至の翌日から新年になるという国はいくつもありましたし、そうでなくても冬至の日には世界各地で儀式が行われます。

 巨石を円形に並べたストーンヘンジはヨーロッパの北部には数多く残されていますが、これは冬至や夏至のときに太陽が出る方向に隙間があるように石が配置されており、そこでは冬至だけではなく、春分、夏至、秋分などにも儀式が行われていたと推察されています。
 2年前にカナダ北部のバフィン島の北緯73度の人口1000人程度の集落に行きましたが、冬至の日には暗闇の中で1日中、酒を飲んで踊ってお祝いする風習が残っているということを聞きました。
 中国では天子が城壁から郊外に出て、天や地の神を祀る「郊祀(こうし)」という儀式が行われていましたし、日本でも中国の影響を受け、奈良時代の西暦725年に、聖武天皇が大安殿で日本最初の冬至祭を行ったそうです。

 しかし、今日、ご紹介したいのは冬至に関係する儀式ではなく、冬至に関係する食べ物です。
 日本では現在でも「冬至カボチャ」という風習があり、この日に炊いたカボチャを食べると風邪をひかない、長生きする、お金に困らないなどと伝えられています。
 なぜカボチャを食べると健康に良くて、しかも金運にも恵まれるかということですが、いくつか理由があります。
 まず単純な理由は名前に「ん」が付く食べ物を食べると「運」が良くなるという訳です。
 カボチャは「ん」が付かないではないかと思われるかも知れませんが、カボチャは17世紀にポルトガル人がカンボジアから日本に持込んだ植物で、それが訛ってカボチャになったとか、ボルトガル語の「アボボラ(abobora)」が訛ったとか言われますが、日本では南方からもたらされた瓜ということで「なんきん」と呼ばれ、「ん」が付いている訳です。

 「なんきん」もそうですが、「ん」が2つ付くと、さらに幸運ということで、冬至には「ん」が2つ付く7種類の食べ物を食べるという風習もあります。
 何かというと「なんきん」「にんじん」「れんこん」「ぎんなん」「きんかん」「かんてん」「うんどん」です。
 もう一つ、「なんきん」は黄色をしていますが、この色は魔除けになるという理由で中国で食べられていますし、韓国では「小豆かゆ」を食べますが、これは疫病神が赤い豆を嫌うからだと伝えられています。
 また「こんにゃく」を食べる風習もありますが、「こんにゃく」は別名「砂払い」と呼ばれるように、身体の内部の毒物など不要なものを吸着して体外に排出する効果があるので、1年の終わりに煩悩を体外に押し出すためと言われています。

 以上は、どちらかというと文化的な理由ですが、科学的な理由もあります。
 冬至は太陽の出る時間が最短になる日ですが、気温は最低の時期ではなく、約1ヶ月半後の立春まで気温は下がり続けます。
 しかも高緯度地方では野菜だけではなく、食料全体が不足気味になりますから、クマの冬眠と同じように、人間も栄養を蓄えておく必要があり、そのために役立つ食べ物を食べておくという訳です。

 先程、ご紹介した「ん」の付く食べ物は、そのような種類の食べ物ですが、もうひとつ風邪をひかない、長生きをするための風習があります。
 冬至には柚子風呂に入るという風習です。
 これは冬至と、温泉に入って療養するという「湯治」を掛け、柚子は身体を「融通」にする、すなわち、どのような状況にも対応できるようにするという意味を掛けた行事といわれます。
 さらに「桃栗3年、柿8年、柚子は9年」と言われるように、長年の風雪に耐えて実を付けるところから、寒い冬に耐えて成功するという意味もあるという風習と解説されています。

 しかし、そのような風習だけではなく、柚子の油分にはピネン、シトラール、リモネンなど、血管を拡張させて血行を良くする物質や、ノミリンなど鎮痛、殺菌効果のある物質が含まれ、風邪を防ぐ効果があると言われています。
 日本には「季節湯」という言葉があり、1月は松の葉を入れる「松湯」、2月は「大根湯」、3月は「蓬湯」、4月は「桜湯」など、薬効のある風呂に入る習慣があります。
 最近では、化学物質を入れる薬剤が売られていますが、伝統文化を思い出し、今晩は柚子湯に入っていただくのも結構ではないかと思います。





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