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論文

 今年3月にはロシアの大統領選挙、5月にはフランスの大統領選挙、10月には中国共産党大会で新しい総書記の決定、11月にはアメリカの大統領選挙など大国の首脳が新しく選ばれますし、それ以外にも、1月にはフィンランドの大統領選挙、2月にはギリシャの総選挙、12月には韓国の大統領選挙なども行われ、今年は世界の国々の将来の方向を決める重要な年になると思います。

 日本でも予算案が成立しなければ、選挙に突入する可能性を野田総理が示唆しており、日本にとっても3年続いた民主党政権の政治に転換が発生するかもしれない年です。
 そのような中で、維新という言葉がときどき使われるようになってきました。もともとは3年前の2009年10月に鳩山総理大臣が所信表明演説で、無血の平成維新という言葉を使ったのが最初ですが、翌年の2010年にはNHKが大河ドラマ『竜馬伝』で明治維新を採り上げ、昨年には大阪府知事であった橋下徹市長が「大阪維新の会」を設立して、地方から日本を変える動きが始まっています。

 維新と言えば、だれもが思い浮べるのは明治維新ですが、平成維新が明治維新のように日本を大転換させるかどうかを検討する上で、明治維新にあって平成維新にない重要な精神を考えてみたいと思います。

 明治維新で日本が近代社会を目指すときに、重要な貢献をしたのが「お雇い外国人」でした。
 1900年までに8000人以上の外国人が日本に招かれましたが、半分以上がスコットランド人なども含めた広い意味でのイギリス人でした。
 その一人にヘンリー・ダイアーというスコットランド人がいます。
 1873年に来日し、1882年まで、ほぼ10年間、日本に滞在したのですが、最大の功績は東京大学工学部の前身である「工部省工学寮」の初代校長として日本の工学教育の基礎を作ったことです。
 当時の工学技術教育では世界の最高水準であったグラスゴー大学を24歳で卒業し、その直後に、熱力学の基礎を作ったことで高名な恩師のウィリアム・ランキン教授の推薦で日本に派遣されました。
 わずか24歳で一国の工学教育を立ち上げ、しかも成功させた能力には感心しますが、ダイアーは複雑な心境だったと思います。

 後に工部卿となり工部省工学寮の創設に尽力する山尾庸三がグラスゴー大学の同級生として留学してきていたので、日本人の優秀さは一応理解していたとは思いますが、地球の裏側にある東洋の僻地に赴くという心境ではなかったかと思います。
 ところが、工学寮で教育を始めてみると、東京駅や日本銀行を設計した辰野金吾、タカジアスターゼを発明した高峰譲吉、琵琶湖疎水を完成させた田辺朔郎をはじめとして優秀な生徒が多く、日本を見直しはじめます。
 そしてヨーロッパでは100年以上が必要であった産業革命を、わずか30年程で実現した日本人に感心し、帰国後、なぜ日本がこのような発展を成し遂げたかを研究し、1904年に『Dai Nippon:The Britain of the East(大日本:東洋のイギリス)』という本を出版し、ヨーロッパにおける大英帝国のように、日本が東洋の中心となる国に発展することを期待します。

 その中で、日本人が欧米の制度・文化・技術を導入しようとした動機を考え、結論として新渡戸稲造の『武士道』(1900)に答えを発見します。
 ダイアーが引用している部分を紹介しますと
 「西洋の政治と科学を研究しはじめた動機は、資源の開発や富の増進ではなく、ましてや西洋の習慣を闇雲に模倣することでもなかった。何よりも劣等国として見下されることに耐え難いという名誉を重んじる気持こそが最大の動機であった」という訳です。
 そして、この『大日本』が出版された1904年は日露戦争が始まった年ですが、出版の直前に日本海海戦の勝利の情報が届きます。
 そこで急遽、一章を追加して、日本は必ずロシアに勝利するが、その理由として、再び『武士道』から「日本人を導いて心を奮い立たせているのは、勇敢な父祖の精神のなせるもので、その精神は今も死に絶えていない」という言葉を引用しています。

 このダイアーの『大日本』から42年後、もう一つの有名な日本の分析が登場します。1946年に出版されたアメリカの文化人類学者ルース・ベネディクトの『菊と刀』です。
 この内容は有名ですが、西欧の文化は「罪の文化」であるのに対し、日本は「恥の文化」であり、世界に類例がない文化だとしていますが、名誉を失うことが恥と考えれば、同じような分析だと思います。
 そこで明治維新と平成維新を比較してみると、平成維新に欠けているものがはっきりします。
 「名誉」とか「恥」の概念が日本社会や日本人の心から欠落してしまったのではないかということです。
 問責決議を受けた政治家が適当な言訳をして居座ったり、懲戒処分を受けた官僚がしばらくして復職したり、大金を蕩尽した実業家が悪びれずに人前に登場したりという最近の風潮は「名誉」という概念が社会から消滅したのではないかという気分にさせられます。

 ぜひ日本を日本たらしめてきた「名誉」が復権し、新しい日本に再生することを期待して、トム・クルーズが主演した『ラスト・サムライ』の冒頭のナレーションを紹介したいと思います。
 「日本を創ったのは、一握りの勇者たちである。彼らが命懸けで守ったものは、今や忘れられつつある言葉「名誉」であった」





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