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論文

 今年は何の年をご紹介したいと思います。
 今年は昨年12月18日の国際連合総会で採択された「国際協同組合年」なのです。
 国際連合は1957年を「国際地球観測年」にして以来、ほぼ毎年、国際年を定めてきました。
 ここ最近ですと、2009年が「国際天文年」、2010年が「国際生物多様性年」、昨年が「国際森林年」など、世界全体で検討しなければならない課題を採り上げてきましたが、「国際協同組合年」というと、何故だと思われる方も多いと思います。
 しかし、これは世界全体にとって非常に重要な意味をもっているのです。

 その理由をご説明する前に、協同組合の定義と歴史を紹介したいと思います。協同組合には国際組織として1895年にロンドンに設立された「国際協同組合同盟」が存在していますが、その同盟によると「人々が自発的に共同で設立した自治組織で、民主的に管理しながら、参加する人々に共通する経済的、社会的、文化的な要求を実現する」組織と定義されています。
 要約すれば、不特定多数の人々から資金を集めて利益を上げるために活動する株式会社ではなく、参加する人々が充実した生活を送るために活動する非営利の組織ということになります。

 その歴史は古く1498年にスコットランドのアバディーンに設立された「ショア・ポーターズ・ソサエティ」に遡りますから、500年以上の歴史があることになります。
 これはアバディーンの港湾荷役で働いていた人々が相互扶助のために設立した組織で、引越、輸送、倉庫業などを仕事とし、現在も存続しています。
 現在の協同組合に近い組織は、1844年にイギリスのマンチェスター郊外に設立された「ロッチデール・パイオニア協同組合」で、食品や衣料品などの生活用品の品質の悪化や不当な値上げなどに対抗する目的で住民が作った生活協同組合です。
 そこでは参加者が一人一票を行使する民主的な運営、剰余金は取引高に応じて公平な分配を実現し、現在の協同組合の元祖とされています。

 現在の世界では、どのような状況になっているかといいますと、先程登場した協同組合の国際組織である「国際協同組合同盟」には、世界89カ国の249の協同組合が参加し、それに参加している組合員の数は8億人、その家族などを加えると30億人にもなる組織で、世界の人口の4割以上が関係する世界最大のNGO(非政府組織)になっています。
 日本で国際協同組合同盟に参加しているのは「全国農業協同組合中央会(JA全中)」、「全国農業協同組合連合会(全農)」、「日本生活協同組合連合会」、「日本労働者協同組合連合会」など12団体ですが、その傘下の組合数は3860で、組合員数は4300万人にもなります。

 日本の世帯数が約4900万ですから、9割近くが関係していることになります。
 そこで、何故、このような組織が国際連合の国際年に関係するかという最初の疑問に戻りたいと思います。
 一般に経済という言葉が意味しているのは「マネタリー経済」、すなわちモノやサービスをマネー、すなわち通貨を媒介として交換する仕組です。
 手に入れた通貨は、どのようなモノやサービスとも再度交換できますから「マネタリー経済」は大変に便利なのですが、大きな問題があります。
 マネタリー経済では、マネーがマネーを生むという投機が発生するからです。これは「仮想経済」とか「カジノ経済」といわれ、問題はマネーが見かけ上増大しても、それはモノやサービスを増やすことにはならないので、社会や個人の生活は豊かにならないだけではなく、現在では「実体経済」の何十倍とか何百倍といわれる規模になっていますから、サブプライムローン問題やリーマンショックのように、仮想経済が破綻すると、実体経済までも破壊されてしまうことになります。
 もう一つの問題は、昨年の世界10大ニュースにも選ばれた「ウォールストリートデモ」が象徴するように、この経済はジャングルの掟、すなわち弱肉強食の掟が支配し、投機に成功した人と投機をできない人との格差が拡大して社会問題になることです。

 この「マネタリー経済」の横暴を阻止する方法は昔から検討され、一定の地域でしか通用しない貨幣を導入して大規模な投機を防ぐ地域通貨、貯蓄している通貨に利子がつかないイスラム経済などが登場していますが、まだまだ大きな勢力にはなっていません。
 そこでもう一つ登場したのが「ボランタリー経済」です。これはモノやサービスを提供したことに対価を要求しない経済です。
 分かりやすい例は「ウィキペディア」です。この原稿もウィキペディアが存在しなければ、書き上げるのに大変な時間を必要としたと思いますが、ウィキペディアのおかげで、端末装置から膨大な知識を無償で入手できるようになっています。

 それは多数の人々がボランティアとして資金を援助し、知識を提供しているからです。
 協同組合も非営利を前提としていますから、一種の「ボランタリー経済」の代表です。
 国際連合も世界全体がアングロサクソン思考のカジノ経済を加速して行くことを危惧し、その歯止めとしてボランタリー経済を実施している協同組合の役割を世界規模で見直そうと、今年を「国際協同組合年」にし、
 1)協同組合の社会での認知度をあげる
 2)協同組合の設立や発展を促進する
 3)そのための政策の策定を政府や関係機関に働きかける
ことを目指しています。
 残念ながら、日本のマスメディアは「国際協同組合年」の意味の重要さを理解できず、どこも報道しませんが、現在の経済や社会の問題点を多くの人々に気付かせるため、今年の話題として広く報道して欲しいと思います。





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