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論文

 先週の27日に国際連合の大陸棚限界委員会によって、日本が申請していた大陸棚の拡大について、一部が認められたというニュースがありました。
 日本は2008年に大陸棚限界委員会に、7カ所の海域、面積にすると日本の国土面積の約2倍に当る74万平方kmを日本の大陸棚と認めるように申請していましたが、そのうち4カ所が認められ、2カ所が却下され、1カ所が認定先送りになったという内容です。

 これは日本にとって、どのような意味があるかをご説明したいと思いますが、まず大陸棚とは何かということです。
 大陸棚は地理学的な定義と法的な定義がありますが、最初に国際測地学・地球物理学連合(IUGG)による地理学的な定義を御紹介します。
 海岸から海の中に進んでいくと、岸から70kmから80kmまでは傾斜が3度くらいと緩やかで、世界の平均で水深130mの地点に到達します。
 ところが、そこから角度が一気に急になり、深海に急降下していくのですが、この緩やかな部分が大陸棚とされています。

 法的には1958年に開かれた第一次国際連合海洋法会議で「ジュネーブ海洋法4条約」が成立したのですが、その一つが「大陸棚に関する条約」で、大陸棚は、海岸線から(1)水深200mまで、もしくは(2)天然資源の開発が可能な水深まで、と定義され、そこには沿岸の国の管轄権が及ぶとされました。
 なぜ2番目の定義があるかについては、背景があります。
 太平洋戦争が終結した直後の1945年9月に、アメリカのトルーマン大統領が「トルーマン宣言」を発表します。
 その内容は「アメリカ合衆国の沿岸に接続する大陸棚の海底と地下の資源をアメリカ合衆国の管轄権が及ぶ」というものです。
 非常に唐突な宣言でしたが、その意図はカリフォルニア沖の海底に油田があるということが分かったので、それを確保しようということでした。
 この宣言の影響で、多くの国が大陸棚の権利を主張するようになったので、それらを調整するために「大陸棚に関する条約」が成立したという訳です。

 ところが、天然資源の開発が可能な水深といっても、1950年代にはせいぜい数百mでしたが、技術革新が進み、海底油田では深さ2500m以上の海底でも掘削できるようになり、太平洋の深さ4000m以上の海底に散乱しているマンガンノジュールという鉱物の塊を拾い上げる技術も開発され、2番目の定義では、世界中の海底のほとんどが大陸棚になりかねないという状況になってきました。
 そこで条約の見直しが始まり、1973年から10年がかりの第3次海洋法会議で延々と議論され「海洋法に関する国際連合条約が1994年に発効となり、以下のような定義に変わりました。
 細かい付則は省略しますが(1)海岸の基線から350海里(約650km)以内、もしくは(2)水深2500mの等深線から100海里(約185km)以内を大陸棚にするということになったのです。

 問題は2番目の条件で大陸棚を主張するためには水深2500mの位置がどこにあるかなどを明確にしなければならないのですが、それは主張する各国が自分で調査して明確な海底の地図を作成し、2009年5月15日までに大陸棚限界委員会に提出することが義務付けられました。
 海の上から点ではなく広大な面で測定しなければならず、精度も要求されますので国家を挙げての大作業です。
 実際、ロシアの提出した資料は精度が十分ではないという理由で一度は却下されていますが、日本の資料は受理されて今回の結果になったわけです。

 なぜ大陸棚が注目されるかというと、日本のように陸上の資源が豊富ではない島国にとっては重要な場所になるからです。
 例えば、世界の海に棲む魚類で人間が知っている種類は1万8000種類ほどですが、その7割の1万2600種類は大陸棚に棲んでいます。
 太平洋などの中心部分の大海原は海の砂漠と言われることもあるほどで、漁業の対象になるほど大量の魚は棲んでいないのです。
 また、地球全体の鉱物資源の4割も大陸棚にあると推定され、日本の現在のエネルギー使用量の数百倍に相当するメタンハイドレートや、レアメタルも大陸棚の海底に大量に存在しています。
 そういう意味で大陸棚の拡大は日本にとって朗報ですが、安泰というわけでもありません。

 太平洋側のように沖合650kmまで他国の領海がない海域は問題ありませんが、日本海や東シナ海のように韓国、中国、台湾などが対岸にあると、両者の主張する範囲が衝突します。
 これをどのように処理するかということについては「衡平の原則」で解決するということになっています。
 二国以上の権利が重複する地域については、それぞれの国から等距離になる中間線を境界と定めるのが一般ですが、このような物理的な原則で決めるのではなく、それぞれの国の漁場としての価値などを反映して、関係国が納得できる境界を国際司法裁判所で決めるという方法です。
 簡単に言えば、地理学的な境界や法的な境界ではなく、経済的な境界を決めるのが衡平の原則ということになります。
 この原則を背景にすると、話題の尖閣諸島にも影響が出てきます。

 尖閣諸島は日本の領土ですが、周囲の海底は中国の大陸棚です。
 中国が大陸棚の権利を強硬に主張すれば、尖閣諸島の島々は日本領でも、周囲の海底はすべて中国の大陸棚ということになります。
 実際、「英仏大陸棚事件」と言われる1978年の判例があります。
 イギリスとフランスの間に幅150kmほどのイギリス海峡がありますが、これは全域が大陸棚です。
 そしてイギリス海峡に突き出ているフランスのコタンタン半島から30kmほどの海上にチャネル諸島がありますが、これはイギリス領です。
 もし領土の中間で分けるということになると、フランスの大陸棚は陸地から15km程度で、イギリスは135kmということになってしまうのですが、国際司法裁判所は衡平の原則を適用し、イギリス海峡のほぼ中間を大陸棚の境界線に設定したという判例です。
 このような判例を参照しながら、日本は国土面積の12倍近くになる大陸棚を守る努力をするべきだと思います。





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