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論文

 今日は「自給できない日本」という日本の課題を考えてみたいと思います。
 1週間前になりましたが、6月13日にホルムズ海峡で2隻のタンカーが攻撃され、そのうちの一隻が日本の会社が運航するタンカーという事件がありました。
 私は2008年にドバイからアラビア半島を回ってスエズ運河を通行するためにホルムズ海峡を客船で通行したことがありますが、もっとも狭い場所では幅が30キロメートル程度しかなく、しかも何隻もの大型貨物船とすれ違い、世界の重要な航路だということを実感しました。
 世界の海を航行している商船のすべてをリアルタイムで表示するウエブサイトを見てみますと、常時、何十隻もの大型船が往来していることが分かります。
 ここが世界でも注目されているのは、世界全体で生産される原油の3割がこの海峡を通過するからです。
 その中でも日本が輸入している原油の8割以上がホルムズ海峡を通過して日本まで輸送されてくるので、アメリカのイラン政策の影響で、このような事件が頻繁に発生するようになれば、1973年以来の石油危機のように、本当に「油断」が発生しかねず、重大な事態になります。
 その経験から、日本は官民で石油の備蓄を開始し、現状では日本で消費する原油の220日分が全国22ケ所のタンクに貯蔵されていますが、それでも原油確保は綱渡りの状態です。

 その原因はどなたもご存知のように、日本が資源を自給できない国土に存在することです。
 エネルギーの自給率は8%で、OECDに加盟している36カ国でルクセンブルグに次いで下から2番目です。
 鉱物資源も鉄鉱石、銅鉱石は100%輸入していますし、アルミニウムの原石になるボーキサイトも同様で、かろうじて鉛と亜鉛が10%程度の自給率です。
 最近の米中戦争で、中国が対抗策として輸出の制限を検討しているレアメタルやレアアースも100%近くを輸入しています。
 さらに食料はカロリー換算で自給率は40%ですから、60%は世界から輸入していることになります。
 その中でも魚は、1965年くらいまでは世界最大の漁業国として輸出するほどでしたが、現在では世界7位くらいになり、自給率は60%という状態です。
 日本は一定以上の面積のある国の中では、国土の森林面積の比率が世界2位か3位の森林大国ですが、木材の自給率は36%で、3分の2は輸入しています。
 これは世界に資源の余裕がある時代には利点でした。良質で安価な資源を選んで輸入すればよかったのですが、世界の人口が急激に増え、資源の限界が明らかになってくると確保するのが困難な状況になってきました。

 残念な数字ばかり紹介してきましたが、どうすれば良いかを検討してみたいと思います。
 大別すると「技術革新」と「節約」と「新規開発」という3つの方法があります。
 エネルギーについては自動車、家電製品など効率のいい製品が急速に開発されており、それを使うことです、
 一例として、自動車の燃費は1995年にはリッターあたり12キロ程度でしたが、最近では20キロ程度になっています。
 しかし、だからと言って乗り回せばエネルギー消費は増えるから、公共交通機関を使うなど節約をするべきです。
 新規開発は日本の場合、海底にあるメタンハイドレートが期待されます。まだまだ採掘までには時間がかかりますが、領海内にあるので掘削方法を開発すれば有望です。
 レアアースについても同様で、4月にもご紹介しましたが、南鳥島の周辺の海底には中国の砂漠のレアアースより含有率の高い資源が発見されており、資源量も世界の需要の数百年分が存在すると推定されていますから、採掘方法を開発すれば、日本はレアアース大国になれます。
 食料についても戦略は同様です。生産効率のいい作物を開発し、節約としては最近、話題になっているフードロスを減らすことです。
 世界でも日本でも供給食料の3分の1は消費されないまま廃棄されており、日本の廃棄量だけでも、国連機関の行なっている食料援助の5倍にもなるという驚くべき数字です。
 そして最後が新規開発ですが、これまで人間が食料としてこなかった対象を食料にすることで、代表が昆虫です。
 これは国連の食料農業期間が2013年に報告書を発表し、人口が急速に増加していくと蛋白源が不足するので、育成効率の悪い、牛肉、豚肉、鶏肉などを減らして、効率のいい昆虫を蛋白源にすることだと提言しています。
 私の国内外で味わった経験からすると、馴れないために最初は違和感があるとしても、食べてみるとなかなか味わい深い食料です。

 もう一つ、日本が自給できていない重要な資源があります。人材です。
 子供を産みたいと思っている人がすべて産んだとした場合の出生率を希望出生率と言い、現在の推計では1.8人になっています。
 安倍首相は2015年に、この数字を目指すと明言していましたが、実際は1.42人にしかなっていません。
 このままでは2050年には現在よりも2400万人減って、1億人前後になってしまいます。
 しかも現在28%の65歳以上の人口の比率が38%に増えます。
 そこで外国人労働者の受入制度が4月から始まりましたが、今後、5年間で約35万人ですから、わずかな影響しかありません。
 その結果、これからの重要な産業分野であるIT産業では3K(きつい/厳しい/帰れない)との評価も広まって大幅な人手不足になります。
 自前で育成しようにも、アメリカでは2009年から本格的に始まったSTEM教育が日本では10年遅れで来年から始まるという状態です。
 世界の人口が20年後には現在よりも22億人増えて98億人になると予測されていますが、そうなると食料だけではなく、あらゆる資源が不足していきますから、自給戦略はますます重要になり、本格的な対策が必要になります。





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