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論文

 ようやく17日間のお祭りが終わって静かになりましたが、多くの国の国民の関心はメダルをいくつ獲ったかということだと思います。
 新聞などで発表されているのは、各国の金・銀・銅メダルがいくつで、合計いくつという数字です。
 ご存知のように、金メダルの順位ではアメリカ、中国、イギリスの順番で、合計ではアメリカ、中国、ロシアとなり、世界の大国が順当に上位を占めました。
 日本の金メダルは7個で10位、合計では38個で7位と妥当な位置だったと思います。
 しかし、オリンピックは個人や団体の戦いでもありますが、やはり国家対抗戦の意味もありますから、やや斜めに見てみると、人口が多い国は有利ですからメダル獲得数も多いだろうし、今回、躍進したイギリスが証明したように、8年間、大金を投入して選手を育成すれば結果もついてくるという感じもしますので、経済力もメダル獲得数に影響する、つまり国力が勝敗に左右するというわけです。

 そこでいくつかの計算をしてみました。
 第一の国力は人口で、国民何人で1個のメダルを獲得したかの計算です。メダルの色は極端な場合、100分の1秒単位で変わってしまいますし、良く言われるように、銀は金より良いと書く、銅は金と同じと書くということですからメダルの合計数で計算しています。
 まず人口当たりもっとも効率よくメダルを獲得したのがジャマイカです。
 ジャマイカは人口276万人の小国ですが、今回、ウサイン・ボルト選手の大活躍もあり、4個の金メダルを含む12個のメダルを獲得し、人口23万人当たり1個のメダルです。
 以下、ベスト5は2位がニュージーランドで34万人(13個)、3位がハンガリーで59万人(17個)、4位がデンマークで62万人(9個)、5位がグルジアで62万人(7個)でした。

 一方、人口が多い割にはメダルが少ないワースト5は1位がメキシコで、サッカーの金メダルは輝いているものの、全体では7個で1620万人あたり1個のメダルしか獲れませんでした。
 以下、中国は87個のメダルを獲得しましたが、なにしろ人口が多いので1542万人に1個で2位、3位はトルコで1455万人(5個)、4位はエチオピアで1185万人(7個)、5位はブラジルで1147万人(17個)です。
 そこで気になる日本ですが、7個の金メダルを含む38個を獲得しましたが、人口を割算すると337万人に1個で28位ということです。
 人口を国力の指標の一つとすれば、もう少し増える必要があるというところです。

 もうひとつの国力は経済力です。そこで国民総所得(GDI)をメダル獲得数で割算して、効率よくメダルを獲得した順位を調べてみますと、これも1位はジャマイカで10億ドル(12個)で1個、以下、グルジアが15億ドル(7個)、ケニアが27億ドル(11個)、ベラルーシが37億ドル(13個)、アゼルバイジャンが39億ドル(10個)です。
 それでは経済大国の割にはメダルが少ないワースト5はどこかというと、残念ながら1位は日本で1370億ドルの国民所得でメダル1個を獲得し、ジャマイカの14倍も効率が悪いということになります。
 日本の財政は逼迫していますから、現在以上にスポーツ振興に国家予算を投入することが適切かどうかは議論が分かれると思いますが、経済力の割にはメダル数が少ない国というのが現実です。
 以下、ワースト2はアメリカで1147億ドル(104個)、3位はスイスで1281億ドル(4個)、4位がメキシコで1227億ドル。4位がトルコで1223億ドル(5個)でした。

 今回のオリンピックで話題になったのが、イスラム教国の人々が断食をするラマダンの期間と大会の開催期間が重なって、イスラム教国に不利という状況でした。
 日本の男子サッカーがエジプトを破ったのは、その影響があるという説もありました。
 そこで、メダル数と国民に1人1日供給される栄養量との関係を調べてみると、メダル数1位のアメリカは供給栄養量も1位ですから納得ですが、2位の中国は59位、3位のロシアは43位、4位のイギリスは17位で、それほど関係なさそうです。
 問題は日本の順位が85位ということです。
 もちろん、本格的にスポーツをする選手は一般国民とは関係ない食事をし、特別の訓練をしていますが、底辺の国民の体力が向上しないと優秀な選手が登場する割合も低下する可能性があり、食事は重要な要素です。

 それに関連して日本の子供の体力が年々低下しているという問題があります。
 文部科学省が行っている「体力・運動能力調査」によると、7歳の男子の立ち幅跳びの距離が1983年の140cmから2006年には128cmと12cm低下し、女子も130cmから116cmと14cmも低下しています。
 ソフトボール投げも10歳の男子で3・8m、女子で1・7m短くなり、50m走でも男子で0・21秒、女子で0・22秒ほど遅くなっています。

 話題が飛ぶようですが、今回、中国、韓国、インドネシアのバドミントン選手が無気力試合で失格しましたが、インドネシアと韓国が強硬に抗議をしたにもかかわらず、中国はオリンピック精神に背いていたと認め、抗議をしなかったことが話題になりました。
 これまで中国は、金メダルの獲得数がシドニーオリンピックで3位、アテネで2位、北京で1位と躍進してきたように、メダル至上主義で国を挙げて選手を育成してきましたが、その期間に国民の心肺能力や運動能力が急速に低下しはじめ、メダル至上主義から転換を始めていることの反映といわれています。
 日本は人口や経済力の割にはメダル数が少ないのですが、そうだからと言って一部の選手にさらに税金を投入して選手を育成し、一時の気勢が上がっても、国民の体力というピラミッドの底辺が拡大しなければ、元も子もありません。
 中国でさえ転換をはじめていることを考え、国家の総力が向上する政策を考える必要があると思います。





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