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論文

 今年も新米が出回る季節になっていますが、最近、このコメの分野で異変が発生しています。
 まず作付面積ですが、2010年までの過去5年間、順位は新潟、北海道、秋田、福島、茨城と不動でしたが、昨年は福島第一原子力発電所の事故の影響で、残念ながら福島の作付面積が7位に落ちました。
 次に収穫量についてみると、これも作付面積に比例して、新潟、北海道、秋田、福島、山形が不動の順位でしたが、昨年はやはり福島が7位に落ちました。
 さらなる異変は昨年、北海道が収穫量で新潟を抜いて1位に躍り出たことです。63万5000トンと63万2000トンという、わずか3000トンの差ですが、寒冷な北海道で亜熱帯の作物であるコメの生産が増加してきたのです。

 しかし、日本人にとってコメは量ではなく味だろうということですが、ここでも異変が発生しています。
 味というのは好みもあり、評価はなかなか難しいのですが、日本穀物検定協会という一般社団法人がおよそ40年前の1971年から毎年、コメの味を評価して発表しています。
 これはいくつかの産地のコシヒカリを混ぜた米を基準として「A'」とし、それより美味しいコメを「A」、さらに美味しいものを「特A」、やや劣るものを「B」、さらに劣るものを「B'」という5段階の評価をするものです。
 これは生産者が評価してほしいコメを送って依頼する仕組ですから、すべてのコメを対象としているわけではありませんが、昨年では129の産地のコメが対象になっています。

 結果に興味がおありになると思いますが、まず17年前の1995年には「特A」は日本全体で9種類しかありませんでした。
 岩手と宮城の「ひとめぼれ」、福島、新潟、富山の「コシヒカリ」、宮城の「ササニシキ」、秋田の「あきたこまち」、山形の「はえぬき」、岐阜の「ハツシモ」です。
 ところが昨年は26種類に増えました。そのなかでも1995年から17年間連続して「特A」を維持しているのが、山形の「はえぬき」と新潟県魚沼産の「コシヒカリ」ですが、9種類から26種類に増加したということは、新顔が多数登場したということです。

 新顔を大別すると2系統になり、ひとつは福岡の「元気つくし」、佐賀の「さがびより」、長崎県南の「にこまる」、熊本の「ヒノヒカリ」と「森のくまさん」という九州のコメが5種類と、もうひとつが北海道の「ななつぼし」と「ゆめぴりか」の2種類です。
 「にこまる」と「ヒノヒカリ」は過去4年「特A」になっていますが、「ななつぼし」「さがびより」「森のくまさん」は過去2年、「ゆめぴりか」と「元気つくし」は昨年初めて「特A」に評価された新顔です。
 北海道が質量とも日本一になってきた一方、宮城の「ササニシキ」や秋田の「あきたこまち」が「特A」から落ちるなど、一種の下克上の様子を呈してきました。

 この下克上の原因は各地が品種改良の努力をしてきたことです。
 戦後の食料不足の時代には、とにかく「質より量」でしたが、1960年代になると、コメの消費が減少しはじめるとともに、1969年に生産者が消費者に直接販売することを可能にする「自主流通米制度」が登場し、美味しいコメでなければ売れないという状況になり、「量より質」を目指した品種が開発されるようになりました。
 そのような時代を反映して登場したのが、1956年に登録された「コシヒカリ」や1963年に誕生した「ササニシキ」です。
 しかし、北海道は本州よりも気温が低いので、なかなか美味しいコメが生産できず、1980年代には「やっかいどう米」と揶揄されるほど不評でした。
 そこで、北海道の農業試験場が、そのような条件でも「ササニシキ」や「コシヒカリ」に対抗できる品種を開発する努力をした結果、1988年に「きらら397」、1996年に「ほしのゆめ」、1997年に「ゆめぴりか」、2001年に「ななつぼし」が誕生したというわけです。
 その結果、2009年のコメの品種別収穫量は「コシヒカリ」「ひとめぼれ」などには敵いませんが、「ななつぼし」が7位、「きらら397」が8位と、ベストテンに北海道の2品種が入っているほどです。

 もう一点、「量より質」を加速させている原因が、バブル経済の時代が終了し、景気低迷の時代となった結果、かつてのように毎晩、宴会で外食という状態から自宅で夕食という人々が増え、それに合わせて家庭電化製品のメーカーが美味しく御飯が炊ける高級な電気炊飯器を開発しはじめたことです。
 かつて電気炊飯器は1万円以下が普通でしたが、最近では各社が10万円程度の高級な電気炊飯器を発売していますが、これが人気で売れているという状況です。

 このようにコメの見直しが始まっていますが、問題もあります。
 コメの消費が減少していることです。1960年には1人1日315グラムを消費していましたが、半世紀経過した現在では160グラムと半減しました結果、同じ期間にコメの作付け面積は331万ヘクタールから163万ヘクタールと半減し、収穫量も1286万トンから848万トンと3分の2に減っています。
 コメは炭水化物だけではなく、蛋白質、カルシウム、マグネシウム、ビタミンB1、B2などを含んだ優良食品ですし、単位面積当たり収量も大きく、しかも何千年間も連作可能な作物です。
 ぜひ新米の季節に美味しいコメを食べて、日本の伝統の主食の良さを味わっていただければと思います。





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