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論文

 今日は「ゆるい」話題ですが、今週の日曜日の25日に埼玉県の羽生市で「ゆるキャラグランプリ2012」が開催されました。
 これは全国の都道府県や市町村が自分の郷土を宣伝するために作っているマスコットのコンテストで、今年が第3回になります。
 全国で865が登録されており、そのうち実際に実物が参加したのが225という盛況でした。
 選定方法はインターネットによる投票で、今年は659万票が投じられ、1位は約57万票を集めた愛媛県今治市の「バリィさん」、2位が約46万票の山口県の「ちょるる」、3位が約26万票の群馬県の「ぐんまちゃん」でした。
 ちなみに最下位の865位は大阪府堺市の都市緑化センターのマスコット「ポピアン」で4票、864位が大阪府堺市の浜寺公園のマスコット「浜寺ローズちゃん」で10票、863位が大阪府の「フルル」で12票と、なぜか大阪のゆるキャラの人気がありませんでした。

 マスコットはプロ野球の各球団も作っていますし、最近では大学も明治大学の「めいじろう」、静岡大学の「しずっぴー」、山口大学の「ヤマミィ」など続々とマスコットを発表していますが、実はゆるキャラには厳密な定義があります。
 ゆるキャラの生みの親は漫画家でエッセイストでもある「みうらじゅん」さんで、2002年に後楽園遊園地で「第1回みうらじゅんのゆるキャラショー」が開かれ、2004年に扶桑社とみうらじゅんさんによって名前が商標登録されたという経緯があります。
 そのみうらじゅんさんが「ゆるキャラ3か条」を挙げており、
  1)郷土愛に満ちあふれた強いメッセージがあること
  2)立ち居振る舞いが不安定でユニークなこと
  3)愛すべくゆるさをもっていること
で、さらに原則として人間が中に入る「着ぐるみ」になっていることを追加しています。
 したがって、地域おこしのためのマスコットを対象としており、最近では境界がゆるくなっていますが、企業のマスコットは排除しています。

 2008年には「新語・流行語大賞」にノミネートされ、NHKの「クローズアップ現代」でも採り上げられ、話題になってきましたが、なぜこのような流行になるのかを考えてみたいと思います。
 第一は、郷土を有名にし、多くの人を呼び寄せたいという気持です。
 2010年に開催された「ゆるキャラグランプリ2010」は携帯電話の投票と会場での記名投票の2部門がありましたが、記名投票は彦根市の「ひこにゃん」が356票で、2位の同じく彦根市の「ぎんにゃん」を271票も引き離して断突の1位でした。
 「ひこにゃん」のキャラクターをデザインした原案者と彦根市の間のトラブルで話題になったこともありますが、「ひこにゃん」が誕生した翌年の2007年には、彦根城の入場者数が前年より61%も増加し、ゆるキャラ効果を実証しています。

 第二は経済的利益です。
 2005年に愛知県で開催された「愛・地球博覧会」では公式キャラクターとして「モリゾー」と「キッコロ」が作られました。
 これを使用したグッズの売上の目標は600億円でしたが、開幕から半年後の9月の閉幕時点で800億円に到達し、これだけの人気であれば、閉幕後も使用しようということになり、さらに半年後の2006年の2月末には000億円を突破しました。
 その当時の日本のキャラクタービジネスの市場規模は1兆6400億円で、「くまのプーさん」「ハローキティ」「ミッキーマウス」が3大人気商品で、それぞれ1000億円規模の売上ですが、登場してから1年足らずで、匹敵する売上を達成する偉業でした。
 また両者が登場する絵本『もりのこえ』が20万部、『モリゾーとキッコロ』が5万部という絵本としては異例の売上も達成しました。
 さらにNHK教育テレビで環境教育番組「モリゾー・キッコロ 森へ行こうよ!」が2007年から作られ、現在でも続いている長寿番組になっています。
 会場の瀬戸市では、2人を瀬戸市民として登録し、希望者には1通300円で住民票を送付するサービスも行っています。
 当たれば、観光客誘致以外の経済効果も期待できるというわけです。

 第三は日本独特の文化が影響しているという分析です。
 オリンピックに公式マスコットキャラクターが登場したのは1972年のミュンヘン大会からですが、ダックスフンドをデザインしたもので、以後も76年のモントリオールがビーバー、80年のモスクワがヒグマなど、すべて動物で、今年のロンドン大会で、初めて動物以外の「鉄骨のしずく」をマスコットにしました。
 しかし、今年のグランプリで2位に入った山口県の「ちょるる」は山を擬人化したものですし、16位の千葉県成田市の「うなりくん」は飛行機、38位の宮城県の「むすび丸」はおむすび、44位の東京都の西国分寺駅の「にしこくん」は国分寺跡から発掘された瓦、46位の千葉県の「チーバくん」は千葉県の形など、無機物を素材にしたキャラクターが数多くあります。
 これについて、みうらじゅんさんは「目と口さえ付ければ魂が宿るという多神教ならではの文化。まさに八百万の神だ。将来は民俗学の対象になるかもしれない」と発言しています。

 日本のアニメーションやマンガによるコスプレが世界の若者に影響しているように、ゆるキャラはアニミズムが現代社会に生きている日本が創り出した独自の文化になりつつあります。
 ミッキーマウスやドナルドダックがアメリカを世界に広めるのに役立ったように、ゆるキャラが日本を広める役者になることを期待したいと思います。





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