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論文

 昨年、日本は31年ぶりに貿易収支がマイナスに転落し、最終的に2兆5000億円の赤字になりました。
 今年もその傾向は続き、すでに1月から6月の前期だけでも2兆9000億円の赤字になっており、今週月曜日の10日に発表された11月1日から20日の数字でも、輸出が昨年同期より7・5%減り、輸入は2・5%増え、7200億円の赤字になっていますから、年間を通じて2012年は史上最大の赤字になりそうです。
 それだけに止まらず、12月8日に日本貿易会が発表した来年度の予測によると、赤字は6兆7900億円と今年を上回る過去最大になりそうで、このままでは3年連続の赤字になります。
 2004年には7兆5000億円の黒字、2010年も6兆円の黒字でしたから、この数年で大逆転になったのです。

 これは円高の影響で輸出が不振ということも影響していますが、やはり福島第一原子力発電所の事故の影響で原子力発電所の大半が停止し、それを補うために火力発電所の稼動が増加し、燃料の液化天然ガスなどの輸入が急増していることが効いています。
 さらに今月10日には原子力規制委員会が敦賀原子力発電所の下部の断層が活断層の可能性が高いと判断し、2号機は廃炉になる可能性も出てきましたので、燃料の輸入は増え、貿易赤字も増えていくことになりそうです。

 今後を見通すと、これは一時の現象として楽観的に考える訳にはいかないことです。
 日本の2010年の輸出は1位が自動車で13・6%、2位が電子部品で6・2%、3位が鉄鋼で5・5%など、工業製品の輸出が84%を占めています。
 これは原油や天然ガスなどの原材料という工業製品の輸出で稼いでいる国を除けば世界一の数字です。
 しかし、工業製品分野は台湾、韓国、中国などの安価な製品に追い上げられて、ここ数年の電気機器メーカーの巨額の赤字が象徴するように、安価な労働力で競争してくる国々と闘うことは大変です。
 そこで、これまでの先進工業国の多くはサービス産業の輸出へ方向を転換しています。
 例えば、2010年の数字で、イギリスは38%、アメリカは29%、フランスは22%などがサービス産業の輸出ですが、日本は15%でしかありません。

 そこで、日本も新しいサービス産業を開拓する必要がありますが、最近、興味深い芽が出始めておりますので、それを紹介したいと思います。
 最初は小物ですが「盆栽」が新しい輸出商品になりはじめています。
 盆栽は中国の唐の時代に始まった「盆景」が平安時代に日本に輸入され、江戸時代に武士の副業として盛んになった文化ですが、韓国の初代文化大臣に就任した李御寧(イオリョン)さんが、日本に留学中の1982年に書かれた『縮み志向の日本人』に日本文化の代表として紹介されているように狭い国土の日本が創り出した芸術文化です。
 ここ数年、急速に海外の人が関心を持つようになり、昨年11月に高松で開かれた世界大会では、海外から1000人の人が参加し、作品が飛ぶように売れたそうです。
 ミラノでは年商が3億円の業者も登場し、「盆栽大学」という市民講座まで開かれていますし、先週、パリのルーブル美術館別館で開かれた工芸品の展覧会では「大宮盆栽」が展示されました。
 2007年には約21億円の輸出でしたが、昨年は80億円以上に急増しています。

 次はヤクルトレディの輸出です、といっても日本の女性が直接海外に出て行くのではなく、住宅やオフィスを訪問する販売方式が海外で注目されているのです。
 ブラジルのサンパウロの住宅街では、ヤクルトのポルトガル語の名前「ヤクーチ」を連呼しながら販売する女性がいますし、それ以外にも台湾、韓国、メキシコ、ベトナムなど31カ国に展開し、ついに今年、海外のヤクルトレディが4万人を越え、日本以上になるという逆転が発生しました。
 2010年の数字ですが、韓国には1万3000人、メキシコには7400人、ブラジルには6000人のヤクルトレディが存在しています。
 最近では、バングラディッシュでグラミン銀行とフランスの食品メーカーのダノンが組んで、同じ方式でヨーグルトを販売するなど、日本のビジネス様式が輸出される状態になっています。

 もう少し大型では、日本の都市計画を丸ごと輸出する事業が始まっています。
 東急電鉄は田園都市線の沿線で住宅地開発を手掛けてきましたが、その経験を生かして、ベトナムのホーチーミン市の近くで、ベトナムの企業との合弁会社を設立し、7500戸の住宅やオフィス、娯楽施設を一体とした人口12万人の都市建設に着手しています。
 建物だけではなく、ホーチーミンと新都市を結ぶ路線バス事業も引き受け、まさに都市を丸ごと輸出することになります。

 このようなサービス産業や文化産業の輸出は経済的利益以外の利益をもたらすという意味で重要です。
 かつてアメリカは「貿易は映画に続け」というキャッチフレーズで、アメリカ映画を通じて、まずアメリカの生活文化を相手国に浸透させ、その影響でアメリカ製品を販売するという国家戦略を展開しました。
 それを真似しているのが韓国で、日本のテレビジョン番組の輸出は2010年に63億円でしたが、韓国は165億円と2・5倍にもなっています。
 その結果、ベトナムではアメリカとともにベトナム戦争を戦った韓国がもっとも嫌いな国だったのですが、現在ではもっとも好きな国に変わっています。
 また、ブータンで中学生の女子に生活の満足度を訪ねたところ、10点満点で8点という答えでした。
 そこで不満の2点は何かと尋ねると、韓国に生まれなかったことという答えでした。
 サービス産業の輸出を増やすということは、頭打ちになりつつある工業製品の輸出を代替するという意味もありますが、日本の民間外交の役割としても重要だということです。





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