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論文

 今年はヘリウムが戦略物資になるという話を紹介させていただきます。
 一昨年から昨年にかけて、レアメタルやレアアースが話題になりました。
 世界の先端技術製品は、これらの資源がないと製造できませんが、中国など少数の国が独占しており、とりわけレアアースについては世界の産出量の96%を独占している中国がレアアース輸出を政治カードとして使用し、各国が対応に苦慮しました。
 しかし、日本がレアメタルを使用しなくても製造できる技術を開発したり、中国の輸出制限で値段が高騰した結果、これまで価格競争に勝てないと休業していたアメリカやオーストラリアの鉱山が再稼動したりする対策を加速し、一段落しました。
 また、東京大学などが探査した結果、南鳥島付近の日本の排他的経済水域内の海底でレアアースの鉱床が発見され、さらに、太平洋中央部分でも3500mから6000mの海底の泥の中にレアアースが大量に含まれていることも発見され、長期的にも安定供給が可能という見通しがでてきました。
 ところが一難さってまた一難、今度はヘリウムが大変という事態が発生してきてきたのです。

 ヘリウムは元素記号2の元素で、水素に次いで軽い物質です。
 1868年に太陽光線を分光分析していたフランスやイギリスの学者が発見し、ギリシャ語で太陽を意味するヘリウムと名付けたことが名前の由来です。
 私たちがヘリウムと聞いて思い浮べるのは、風船や飛行船を浮き上がらせるために使われている気体ですが、それは日本の場合、使用量の4%程度でしかなく、ほとんどは産業用に使われています。
 ヘリウムは何物とも反応しないという性質や、マイナス269度という低い温度で沸騰するという性質のため、非常に低い温度を必要とする分野で使われています。
 日本の場合、液体のヘリウムの80%は医療機器のMRIの超伝導電磁石を冷やすために使われていますし、気体のヘリウムは25%が光ファイバーを作るときの冷却媒体、22%が半導体を製造するときの冷却媒体として使われています。

 ところが、昨年後半からヘリウムが市場で不足しはじめ、値段も日本の輸入単価が2000年頃には立方メートルあたり200円程度であったものが、昨年後半には一時600円と3倍近くになりました。
 その影響で、これまで日本は毎月100万立方メートルほど輸入していましたが、昨年6月には90万立方メートル、9月には80万立方メートルと減少してきました。
 原因はいくつかありますが、まず新興工業国が先端産業に進出しはじめ、需要が増加していることです。
 例えばアジア諸国の消費が2000年から2007年で2倍も増加しています。
 さらに、それらの国々の所得水準が向上し、液体ヘリウムを使用するMRIが急速に普及しはじめたことです。
 例えば、日本から中国へのMRIの輸出額は2006年から2011年の5年間で4倍にも増えています。
 当然、今後も使用量は増えるので、逼迫していくことになります。
 第二の要因は理由が明確ではありませんが、世界最大の生産国アメリカで生産量が減少していることです。

 資源としてのヘリウムの問題は、レアアースが中国独占であったと同様に、世界でアメリカ、アルジェリア、カタール、ロシアなど6カ国しか生産しておらず、なかでもアメリカが世界の76%を生産しているので、この影響は大きいのです。
 しかも日本は輸入の95%をアメリカに依存しているという脆弱な構造にあります。
 この背景にはヘリウムの生産方法が関係しています。
 実はヘリウムは宇宙全体では水素に次いで2番目に大量に存在している元素ですが、地球にはわずかしかなく、大気の0・00052%というわずかな量しか存在しません。
 それを分離して集めるのはとても採算がとれませんので、実際は天然ガスの中にわずかに含まれているヘリウムを採集しているのです。
 しかもどの天然ガスにもヘリウムが含まれているわけではなく、0・5%から1%程度を含む比較的ヘリウムが豊かな天然ガスから分離しています。

 ところが、ここに新たな問題が発生しました。シェールガスという新しい天然ガスが登場したのです。
 アメリカでは天然ガスからシェールガスへの転換が急速に始まっていますが、残念なことにシェールガスにはヘリウムが含まれていないので、シェールガスへ移行するとヘリウムの生産に影響するという因果関係が登場しました。

 その影響で、東京ディズニーランドでは昨年11月21日からミッキーマウスなどの形をした風船の販売を中止しています。
 失礼ながら風船の販売中止は、それほど生活に影響がありませんが、病院の一部ではMRIの撮影を中止したり減らしたりしはじめたという影響も登場しています。
 今後、この傾向が続くと、先端技術産業分野の操業にも影響する深刻な問題になる可能性があります。

 しかし、これは天然資源のない日本に何度も降り掛かってきた試練と考えると、1970年代の石油危機のときには産業界が同じ量の製品を生産するのに必要なエネルギー消費を大幅に減らして、逆に生産効率を向上させて発展しましたし、最近のレアメタル危機では、廃棄物から効率よく回収する技術を開発したり、レアメタルやレアアースを使用しないで同等以上の効果を持つ製品を開発したりすることに成功しています。
 「艱難汝を玉にす」という言葉もあるように、今回のヘリウム危機も乗切って産業が発展することを期待したいと思います。





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