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論文

 現在から約44時間後の16日(土)朝4時24分頃、インドネシアのスマトラ島沖の赤道上空2万7700kmを「2012DA14」と名付けられた小惑星が通過していきます。
 気象衛星や放送衛星は上空3万6000kmに打上げられていますから、それよりも地表に近い部分を通過していくことになります。
 今回の小惑星は直系約45m、重さ約13万トンの物体で、それが秒速7・8kmで通過していくと計算されています。
 中空の飛行機と金属の塊である小惑星を比較するのは正確ではありませんが、現在、問題が発生して飛行を中断しているボーイング787−8型機の最大離陸重量は220トンで、巡航速度がマッハ0・85、すなわち秒速約290mですから、その飛行機が590機ほど塊になって27倍の速度で飛んでいくという感じです。
 スーパーマンのキャッチフレーズは「弾よりも速く、力は機関車よりも強く」でしたが、高性能ライフルの弾の速度は秒速800m程度ですから、小惑星はその約10倍、機関車は80トン程度ですから、その1600倍の重量ということで、まさにスーパーマンのキャッチフレーズそのものです。

 この小惑星というのは、約46億年前に宇宙空間に漂っていたガスやチリが集まって微惑星と呼ばれる小さな岩石となり、それらが衝突を繰り返して一体となって水星から海王星まで8個の惑星が誕生したのですが、惑星になりきれなかった岩石が火星と木星の間に残され、それが小惑星と呼ばれる物体で、約60万個存在していると推定されています。
 大きなものでは直系数百キロメートルの小惑星もありますし、探査衛星「はやぶさ」が到達して有名になった「イトカワ」は長さが約500mですが、今回は、それらよりはるかに小さなものが地球の軌道と交差していくということです。

 今回のように通過するだけではなく、ときには大気中で燃え尽きずに地上に落下することがあります。
 小さい場合は隕石として落下し被害はなく、これまで6万個ほど発見されていますが、大きな場合には地表にクレーターと呼ばれる噴火口のような穴を開け、被害が及ぶこともあります。
 有名な例はメキシコのユカタン半島の地下に6500万年前にできた直系150kmにもなるクレーターで、これは直系10から15kmの小惑星が衝突したものと推定され、その衝撃で恐竜をはじめ、当時の地球の生物の75%が絶滅したとされています。
 この衝突で発生したエネルギーは、現在、世界全体が消費しているエネルギーの100年分程度と計算されています。
 一昨年の東日本大震災をもたらした地震のエネルギーも相当なものですが、それでも世界で1年に消費されるエネルギーの0・4%程度ですから、小惑星の衝突がいかに巨大かが分かると思います。
 これほどの規模ではないにしても、これまで発見された隕石の衝突によるクレーターは180ほどで、今後も有り得ないことではありません。

 このような小惑星の接近はアメリカ航空宇宙局(NASA)などが観測しており、昨年5月に発表された情報では、直系100m以上で地球から800万km以内に位置し、地球に衝突、落下する可能性がある小惑星が約4700個存在するとされています。
 今回のような小惑星の接近は40年に1度程度は発生し、地球に衝突する可能性は1200年に1回程度と推計されていますし、どこに落ちるかの予測もされており、1位が中国、2位がインドネシア、3位がインド、何と4位が日本となっています。
 もちろん、これらが衝突した場所が都市であれば、都市が消滅するほどの被害になります。

 小惑星の落下は自然現象の天変地異ですが、もうひとつ宇宙から落ちてくる人為的な物体があります。
 宇宙ゴミ(スペース・デブリ)と言われる、人間が宇宙にまき散らしたゴミです。
 例えば、不要になった人工衛星の残骸や、2009年に実際発生しましたが、アメリカとロシアの人工衛星が衝突した残骸、2007年に中国が人工衛星を破壊する実験をした残骸などで、地上から800kmほどの低い高度に、1cm以上のデブリだけでも60万個、1mm以下のデブリまで含めると数兆個も飛んでおり、重量にして4500トン以上が散らばっています。
 これらはライフル銃の弾丸の10倍位以上の秒速8kmで飛んでいますから、宇宙ステーションなどに衝突すると宇宙飛行士の生命に危険をもたらす可能性もあります。
 実際、1992年から2005年までに54回、宇宙へ飛んだスペースシャトルにデブリが当たった事故は1634回発生しており、そのうち92回は窓を交換しています。
 デブリの大半は次第に落下して大気圏内で燃え尽きますが、大きなものは地上に落下してくることがあり、2011年9月には、アメリカが20年前に打上げた上層大気観測衛星(UARS)が落下し、合計532kgの合計26個の破片が地上に落下し、人に当たる確率は3200分の1という予測が発表されたことがあります。

 対策の第一は観測して情報を集積することで、日本では岡山県井原市の美星(びせい)スペースガードセンターが光学望遠鏡でデブリや小惑星を観測し、同じく岡山県鏡野町上斎原(かみさいばら)スペースガードセンターでレーダーによって低軌道のデブリを観測しています。
 さらに前向きには宇宙航空研究開発機構(JAXA)が「お掃除衛星」を検討しています。
 これは人工衛星でデブリに接近し、針金を取り付けて電気を流し、デブリを減速させて大気圏に突入させて燃え尽きさせるという構想です。
 「杞憂」という言葉は、中国古代の「杞」という国の人が天が落ちて来ないかと憂えたという故事に由来し、有り得ないことを無用の心配をするという意味ですが、いまや有り得ないことではなくなり、「杞憂」という言葉が現実になりつつあります。





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