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論文

 明日3月22日は国際連合が定めた「世界水の日(ワールド・ウォーター・デイ)」です。
 1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた「地球サミット」で提案され、翌年の国際連合総会で決議された日なので、今年は20周年に当たります。
 それを記念し、国際連合が今年を「国際水協力年」にしていますし、2005年から2015年までを「命のための水:国際行動10年」にもしており、いくつかの意味で「水」に関係深い年になっています。
 いうまでもありませんが、人間も含めた大半の地球の生物にとって、水は空気に次いで重要な物質です。
 人間は息を止めていることの出来る時間は、世界記録でも1161秒、20分弱ですが、普通の人では数分が限度です。
 水も3日間飲まないと脱水症状になりますし、1週間、1滴も飲まなければ衰弱して死亡するというほど必須の物質です。

 その貴重な空気は最近のPM2・5問題が象徴するように汚染が顕著になっていますが、水についても危険が迫っており、そのような水について考える日や年を国際連合が定めるという事態になってきたということです。
 それを象徴する数字が、毎日、安全な飲み水を入手できない人口の割合です。
 世界全体では、現在、20%弱の12億人が安全な水を入手できない状態で生活しています。
 先進諸国ではほぼゼロですが、サハラ砂漠より南のアフリカでは40%以上、東アジアでは約25%が安全な水を手に入れられない状態です。
 例えば、バングラディシュでは国土全体の地下水が砒素に汚染されており、人口の15%に相当する2000万人が、そのような水を飲まざるを得ない状態で、その結果、6万人近くが砒素中毒に罹っています。

 それを裏付ける調査が、先週、アジア開発銀行によって発表されました。
 これは「生活用水」「工業・農業用水」「上下水道など都市基盤」「河川環境」「災害対策」の5項目について、それぞれ5点満点でアジアの40カ国を対象に採点した調査ですが、合格点を獲得したのはオーストラリアとニュージーランドだけで、インドやパキスタンは最低の1点です。
 日本はどうかというと、意外にも総合評価は3点と低くなっています。
 内訳を見ると、生活用水は5点で合格ですが、河川環境は汚染した河川が多いと判断され2点、災害対策は毎年何処かで河川の氾濫が発生するということで3点となっています。

 そこで日本の水について、問題点を検討してみたいと思います。
 日本の年間降水量は屋久島の4360mmから網走の800mmまで幅広いのですが、平均すれば1700mmで世界平均の880mmの約2倍ですから、十分のようです。
 ところが国土面積が狭い上に人口が多いので、一人あたりで調べると十分とは言えません。
 国土に降ってくる水と雪のうち、人間が利用可能な量を人口で割算した一人あたり利用可能な量を水資源量といいます。
 世界平均では7000立方メートルですが、日本は3300立方メートルで世界平均の半分以下です。
 ニュージーランドは日本の27倍、スウェーデンは6倍、オーストラリアは5・6倍ですから、一人あたりでは、決して潤沢とは言えない状態です。
 その利用可能な量のうち現在、使用しているのはどの程度かというと、世界平均で18%、スウェーデンは8%、オーストラリアは7%、アメリカが28%ですが、日本はそれを大きく上回る35%、1150立方メートルですから、それほど水資源に余裕があるというわけではありません。

 さらに日本には重要な問題があります。
 日本は食糧の輸入大国で、カロリー換算では60%、金額換算では30%を輸入していますが、例えば、小麦を輸入すると、その小麦はアメリカやオーストラリアで水を使って生産された食糧ですから、小麦に形を変えた水を輸入していると考えることができます。
 これは意外に大きな数字で、小麦の場合、1トンにつき2000トン、コメの場合3600トン、牛肉では2万1000トンにもなります。
 また、原油や鉱石を輸入しても、その採掘には大量の水を使いますから、これも鉱物に形を変えた水を輸入しているとも言えます。
 このような水は「仮想水(バーチャル・ウォーター)」と名付けられていますが、日本は食料品だけで一人あたり614立方メートルを輸入しており、世界第17位の仮想水輸入国になります。
 これは国内の水使用量の1150立方メートルの半分に相当し、日本は水の豊かな国とは言えなくなっているのです。

 日本は「水と安全は無料」の国と言われてきました。
 しかし、都会の大きなオフィスビルやマンションの入口にはガードマンが増え、すでに安全は無料ではなくなりつつありますが、水も無料ではなくなりつつあります。
 最近では多くの人がペットボトルに入ったミネラルウォーターを持ち歩いているように、その需要が急増しています。
 2000年には一人一年にペットボトルで17本程度でしたが、2005年には29本、2010年には40本と増えてきました。
 それでもフランスの6分の1、アメリカの5分の1ですから、まだまだ増えていくと思います。
 ちなみに日本のミネラルウォーターはガソリンのほぼ2倍、水道水の1000倍もする高価な商品ですが、それを平気で買っているのが現状です。

 世界では不衛生な水を飲んで死ぬ人が年間180万人は存在し、水を巡る紛争が過去20年で4倍に増えて年間200件にもなるという危機が迫っていますが、今のところ安泰そうな日本にも危機は忍び寄っているということを、世界水の日を契機に考えてみてはどうかと思います。





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