TOPページへ論文ページへ
論文

 先週、アメリカの競売会社サザビーズがニューヨークで開いたオークションで、ニューヨークの一般市民が6年前にガレージセールで3ドルで買った中国の陶磁器が222万5000ドル(約2億円)で落札されたというニュースが話題になりました。
 北宋時代の本物の白磁で、類似のものは大英博物館に1個あるだけと判明したからですが、値段が74万倍になったわけですから、売った人は地団駄踏む悔しさで、買った人はやったーという気持だと思います。
 日本でもテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」が大人気ですし、その元祖であるBBCの「アンティーク・ロード・ショウ」が長寿番組として放送され、アメリカでもヒストリーチャンネルで、ラスベガスの親子三代で経営する老舗の質店を舞台にしした「お宝鑑定団ポーンスターズ」が人気番組になり、世界規模で骨董品プームになっています。
 その人気の秘密は意外なものに法外な値段がつくことですが、その値段を決める基本は、古いというだけではなく、いかに希少かということです。
 そこで今日は、いろいろな分野のお宝の物語を御紹介したいと思います。

 まず切手ですが、オードリー・ヘップバーンとケーリー・グラントが主演したスタンリー・ドーネン監督の『シャレード』(1963)はお宝切手を小道具として上手く使った映画です。
 ヘップバーンの夫が25万ドルの金塊を持ち逃げして殺されますが、その25万ドルは夫の遺品として警察からヘップバーンに渡された封筒に貼られた3枚の切手になっていたという物語です。
 映画で使われている切手は架空のものですが、3枚ともモデルがあり、1枚はスウェーデンで1854年に発行された3シリングの印刷ミスの切手、2枚目は1851年にハワイ王朝が最初に発行した2セントの切手で、宣教師がアメリカ本土に出す郵便によく使われたことから「ハワイアン・ミッショナリー」とか、青色一色の印刷なので「ハワイアンブルー」と呼ばれる切手で現存は、28枚といわれています。
 3枚目はモルドバで1858年に発行された切手です。
 いずれも現在では億円単位だそうです。

 しかし、収集家の間で、さらに価値があるとされているのは通称「ブルーモーリシャス」と言われる、1874年に発行された切手です。
 当時、モーリシャス島はイギリスの植民地でしたが、その提督がパーティの案内用に100枚だけ発行した切手で、支払済を意味する「ポストペイド」印刷するところを「ポストオフィス」としてしまった間違い切手で、現存するのは27枚、完全なものは3枚という貴重品です。
 さらに世界に1枚しかない切手も存在します。
 南米のイギリス植民地であったギアナで1856年に発行された1セント切手で、1873年に15歳の少年が自宅で古い封筒に貼ってあった切手を発見し、切手商に6シリングで買ってもらいました。
 当時の価値は正確にはわかりませんが、100円程度ではないかと思います。
 ところが、それ以後、様々な人手に渡り、1940年に4000ドル(1600万円)で取引されて以後、消息を絶っていますが、噂では、その後、アメリカの収集家が1億円で購入したとされています。
 これらは市場に出回ることはないので、本当の値段は分かりませんが、数平方センチメートルの紙が何億円にもなるという、一般には理解し難い世界です。

 次は古書です。
 三上延(えん)さんの「ビブリア古書堂の事件手帖」は、古書を小道具とした探偵物語りですが、累計380万部以上が出版され、2012年の年間ベストセラー文庫総合1位、本の雑誌が選ぶ2011年度文庫ベストテンの第1位など輝かしい記録を持ち、フジテレビで番組として毎週放送もされています。
 最近では電子書籍が急速に普及し、紙の本は劣勢で、神田の古書店街でも店仕舞する古書店が増え、寂しい気もしますが、やはり古書には時代を越えた魅力があるということを証明していると思います。
 版木で印刷した最古の書類は天平時代の764年に日本で印刷された「百万塔陀羅尼経」とされていますが、活字を組合せて印刷した書物は、有名なグーテンベルクが1455年頃から印刷した「聖書」です。

 これは180部から200部ほど印刷されたようですが、完全な形で現存するのは48部で、アメリカに12部、ドイツに12部、イギリスに8部などで、日本にも1部存在します。
 マイクロソフトのビル・ゲーツが唯一個人で所蔵している以外は図書館が保管していますので、流通することはありませんが、慶応義塾大学図書館が上巻のみ所蔵している本は、過去の経緯と大凡の値段が分かっています。
 そもそもグーテンベルクが印刷したときから大変に高価で、紙に印刷したものが現在の価格で400万円、羊皮紙に印刷したものが1000万円でした。
 慶応義塾大学が所蔵している聖書は、もともとドイツのマインツの修道院に保管されていたのですが、何人かの所有者を経て、1950年に個人が7万ドル強、現在では3000万円程度で入手し、それが1987年にクリスティの競売に出されたときに、日本の丸善が7億8000万円で落札し、印刷した書籍の落札価格としては世界最高記録となりました。
 それを1996年に慶応義塾大学が丸善から購入し、値段は明らかにされていませんが、想像がつくと思います。

 しかし、ビル・ゲーツは、それをはるかに上回る値段の本を持っています。レオナルド・ダ・ヴィンチの世界に1冊しかない『レスター手稿本』で、約30億円で購入しています。
 これは72ページの書籍ですが、ミラノの図書館には1119ページの『アトランティコ手稿本』があり、売るに出されることはありませんが、仮にページあたりで換算すれば500億円近い値段になります。
 骨董収集の分野では掘り出し物を発掘する夢に取り憑かれて大金を注ぎ込んでおられる方が数多く居られますが、「開運なんでも鑑定団」を見ていますと、大金をはたいて贋作を買ったという方が圧倒的多数です。
 金儲けとしてではなく、歴史を味わうという気持で骨董に興味をもたれることが重要ではないかと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.