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論文

 今日は旅の日です。
 理由は芭蕉が「行く春や/鳥啼き魚の/目は涙」という句を詠んで、千住から奥の細道を目指して出発したのが元禄2(1689)年3月27日ですが、現在の暦に換算すると5月16日になるからということです。
 たまたま今年の4月に、スイスにある世界経済フォーラム(WEF)という組織が「観光競争力報告書」の2013年版を発行し、世界の140カ国の比較をしていますので、それを参考にしながら、日本の国際観光について調べてみたいと思います。

 まず世界全体の国際観光については、世界観光機関(UNWTO)が数字を発表していますが、1985年には国際観光旅行をした人は3億3000万人でしたが、2000年には6億9000万人に増え、2010年には10億1000万人、2020年には15億6000万人になると推計しています。年率4・5%の増加ですから相当の勢いです。
 世界全体で人口あたり何%の人が国際観光旅行に出掛けるかを計算すると、1985年の6・8%から、11・3%、14・6%と増加し、2020年には20・4%になりますから、5人に1人の比率になります。

 当然、それに応じて国際観光のための消費額も増加し、1985年には1180億ドル、2000年には4700億ドル、2010年には8700億ドルと順調に増加し、2020年には2兆ドルになると予想されています。こちらは年率8・4%の成長です。
 これも世界の国内総生産に対する比率を計算してみると、1985年の1%から、2000年には1・4%、2010年も1・4%と推移し、2020年には1・7%に増えています。
 さらに観光産業に従事する雇用者は2億3400万人で全雇用者の8・7%に相当し、観光を外貨を稼ぐ輸出産業と理解すると世界の輸出額の10%にもなり、自動車や食糧を大幅に上回り、オフィス機器・通信機器に次ぐ第二位の輸出品目になります。

 当然、世界各国は重要な経済分野として成長させようと努力するわけですが、残念なことに、日本は観光後進国なのです。
 2010年で日本を訪問した外国人観光客数は861万人でしたが、これは世界全体の0・85%です。
 日本の人口は世界全体の1・86%ですから、人口あたりの国際観光客は世界最小の国です。
 国際観光収入は132億ドルですが、これは世界全体の1・5%でしかなく、日本のGDPが世界全体に占める比率が少なくなったとはいえ、8・8%ですから、あまりにも小さい数字です。
 実際、各国のGDPあたりの国際観光収入を調べると、日本は0・24%で世界最下位です。
 クロアチアの14%は異例としても、スペインの3・8%、フランスの1・8%、イギリスの1・3%と比較しても、1桁少ないことになります。

 そこで世界の観光潜在力を示すWEFの報告書を調べてみたいと思います。
 これは観光に関係する14の項目を調べ、それを1)制度や体制がどうなっているか、2)社会基盤やビジネス環境がどうなっているか、3)観光資源となる文化や自然がどうなっているか、という3分野に要約して採点して合計した点数で評価しています。
 上位5位はスイス、ドイツ、オーストリア、スペイン、イギリスで日本は14位で、アジア太平洋地域ではシンガポール(10位)、オーストラリア(11位)、ニュージーランド(12位)に次いで4位になっています。
 一昨年は東日本大震災が発生したため22位に後退しましたが、今年は復活したといえます。

 問題はどこにあるかを調べてみると、3分野のうち制度や体制が140カ国中24位、社会基盤が24位、観光資源が10位になっています。
 さらに個別に、日本の優れた点を調べてみると、社会基盤の分野では、御客本位のもてなし精神は世界1位、陸上交通の整備は新幹線が貢献して7位、携帯電話などの通信基盤の整備も7位です。
 観光資源では文化や伝統の存在と世界遺産が16個所もある自然資源も評価され11位です。
 これだけ高く評価されているのに、なぜ順位が上がらないかという最大の障壁が旅行するための値段の高さで、140ケ国中130位の評価になっています。

 確かに、世界の主要都市の生活費を比べると、東京は世界一生活費がかかる都市になっており、普通、我々が高いと想像するニューヨークと比較しても1・3倍ですし、観光には直接関係しませんが、オフィス賃料も世界一高い都市です。
 もっとも安いリトアニアと比較すると13倍にもなります。
 携帯電話の料金も世界一高い国で、単位時間あたりもっとも安いインドの52倍ですし、物価が高いと思われているデンマークと比べても11倍です。

 これが観光サービスにも波及し、端的に現れているのが大型客船で旅行するクルーズです。
 やや古い2008年の数字ですが、人口あたりクルーズを楽しむ人の割合はアメリカが3%、カナダが2%、ドイツが1%であるのに、日本は0・1%でしかありません。
 もちろんアメリカやカナダはすぐ近くにカリブ海、ヨーロッパは地中海というクルーズに適した場所があるという差もありますし、日本の客船は船内での金銭を掛けるカジノが禁止されていることもあります。
 ここしばらくは円高の影響もありましたが、とにかく日本のクルーズ料金は外国船によるクルーズに比べて1日あたり4倍もしており、気軽に楽しめない状況です。

 現在、家庭電化製品や自動車など、これまで輸出の主役であった工業製品が低迷しつつある日本にとって、国際観光は今後の有力な輸出商品になりますし、何よりも多くの外国人が来日して日本の文化や自然を理解してもらうことが、日本の国際社会での地位を向上させることにもなるので、国際観光を発展させる政策を官民協力で推進してほしいと思います。





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