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論文

 丁度1ヶ月前に国際連合食料農業機関(FAO)が「食用昆虫:食料および飼料の安全保障についての将来展望」という報告書を発表しました。
 現在、世界の人口70億人のうち、10億人以上が満足に食料を入手できない状態で、年間1000万人近くが餓死していますが、2050年には90億人に増加すると予測されている人々を養うためには昆虫が重要な食料源になるというわけです。
 とりわけタンパク質の不足が問題で、現在、家畜や魚類から得られる蛋白質は年間1億5000万トンですが、すでに5000万トン不足していますし、社会全体が豊かになると、肉や魚などの蛋白質の消費が増えるので、ますます不足することになります。それを補うには昆虫は最適と考えられているのです。
 報告書によると、現状でも、20億人以上が日常的に昆虫を食べ、食用としている昆虫は1900種類以上で、消費量では31%がカブトムシ、18%がチョウやガの幼虫、14%がハチやアリ、13%がイナゴやコオロギだそうです。
 この報告書の作成に協力したオランダの大学の調査では、メキシコでは500種、アフリカでは250種、アジア諸国では180種が食用とされているそうです。

 なぜ昆虫を食用にすることが将来重要かという理由はいくつかあります。
 第一は種類が多く、それらが様々な環境に生育していることです。
 地球に生育している生物のうち80%は昆虫ですから、どのような環境にも存在しているので、それぞれの地域に生息している昆虫を食材にすれば、地産地消になり、遠方から食料を輸入するという問題の解決にも貢献します。
 第二は繁殖力が旺盛なことです。
 例えば1対のイエバエは4ヶ月で15X10の18乗に繁殖しますから、量の確保は問題ないということになります。
 第三は蛋白質への変換効率が良いということです。
 昆虫は変温動物なので、哺乳類のように体温を一定に保つためにエネルギーを消費しないという特徴があります。
 ウシから1kgの肉を得るためには20kgのエサが必要ですが、コオロギであれば2kgで十分ということになります。
 しかも家畜はトウモロコシやマメなど人間の食料になる食材を消費しますが、多くの昆虫は木の葉や糞など人間が食用にしないもので生育できます。
 第四は環境への負荷が少ないということです。
 家畜になっている哺乳類は二酸化炭素を出しますし、ウシのようにゲップでメタンガスを出すと、温暖化に影響します。
 産業活動で排出されるメタンガスは年間1億1000万トンですが、ウシなどの出すメタンガスは1億1500万トンで、産業活動以上です。
 それに比べて昆虫の排出する二酸化炭素やメタンガスは大変にわずかです。

 このような利点があると言っても、問題は慣れないと味見さえ難しいということです。
 私が世界の先住民族を訪ねて旅行したときに、何種類かの昆虫を味見したことがあります。
 アマゾン川の源流地域に出掛けたときは、熱帯雨林に住むボラ族がイモムシの煮付けを出してくれましたし、オーストラリアの先住民族アボリジニの人たちは地中から探し出したミツアリを食べろと出してくれました。
 もちろん最初は躊躇しましたが、食べてみるとイモムシはチーズと同じ食感でしたし、ミツアリの蜜はハチミツよりも甘く、良い味でした。
 問題は慣れですが、既存の食料が供給されている間は、積極的に食べる人は少ないと思います。
 しかし、将来、ウシやブタの肉が高価になった状態を予想すると、仕方がないということになる可能性はあります。
 報告書作成に協力したオランダの学者が、やがて牛肉のハンバーガーが1万円を超える時代が到来するが、昆虫バーガーであれば現在の値段程度に維持できる可能性がある。そうなれば多くの人が昆虫バーガーを選ぶだろうと言っています。

 それでも納得しない方のために、もう一つ推薦の根拠があります。
 1980年から85年には沖縄の男性の平均寿命は日本一だったのですが、2000年には26位に急落し、「26ショック」が発生しました。その後も低下し、2010年には29位にまで下がっています。
 その原因の一つが、戦後にアメリカの影響で食事が西欧風になって肥満が増加したことが影響していると推定されています。
 一方、沖縄に代わって躍進したのが長野で、1990年以来、男性は1位を維持していますし、女性も2010年には1位になっています。
 これは長野県の医療行政が努力し、住民の健康意識が向上しているからとか、多くの人が退職後も働き、高齢者の就業率が高いことが影響していると言われますが、もう一つ、長野は古くからハチノコ、ザサムシ、カイコなどを食べる昆虫食の伝統があるからだという見解もあります。
 つまり低脂肪の昆虫食は健康に良いというわけです。

 長生きできても見た目で嫌だという方のためには、食料を捨てなければ、昆虫を頼りにしなくても大丈夫という数字を示したいと思います。
 供給された食料と摂取された食料の差は廃棄された食料になります。
 1965年にはその差は1人1日300キロカロリー程度でしたが、年毎に廃棄食料が増え、1995年には680キロカロリー、2005年には720キロカロリーに増えています。
 これは供給された食料の3分の1が捨てられていることになるのですが、その廃棄されている食料の28%が食べ残し、11%が手付かずのまま捨てられている食品です。
 これを努力して減らしていけば、昆虫食に頼らざるを得なくなる年が遠離ることにはなります。





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