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論文

 今日は廃棄物の再利用の最近の興味ある事例を紹介したいと思います。
 2010年の1年間で日本社会に投入された物質の量は約16億トンですが、そのほぼ半分の7億8000万トンは海外から輸入した物質です。
 日本がいかに海外の資源に依存している国かが分かると思います。
 ところが、16億トンの35%に相当する5億7000万トンは廃棄物ですが、廃棄されたうち43%は再利用されているものの、40%は焼却や埋立処理されています。

 そこで、廃棄物を再利用する様々な試みが始まっていますが、それらのなかで興味ある事例をいくつか紹介したいと思います。
 第一が使用済みの「紙おむつ」の再利用です。
 紙おむつというと、乳幼児が使用するという印象がありますが、過去10年で高齢者が使用する紙おむつの生産が1・6倍にも増え、2009年には乳幼児の紙おむつの生産を追い抜きました。
 当然ですが、使用済みの紙おむつ、すなわち廃棄物の量も大人用が乳児用を大きく上回り、2011年には1・6倍にもなっています。
 これは悪臭もともかく、ゴミとして見ると水分が多いので焼却しにくいし、焼却炉の温度を上げると焼却炉が傷むため、修繕費用が嵩むことになります。
 そこで、この紙おむつを再処理して燃料用のペレットや建設資材の原料とする自治体が増加してきました。
 鳥取県の伯耆町(ほうきちょう)では可燃ゴミのうち6分の1が使用済みの紙おむつで、これを丸1日かけて燃料ペレットにし、温泉の燃料に使用しています。
 福岡県の大木町(おおきまち)では専用の回収箱を各地に置いて回収し、建築資材の原料となる再生パルプにしています。

 日本だけではありませんが、先進諸国で廃棄される食料が増加しています。
 日本では年間8500万トンの食料が供給されていますが、そのうち70%に相当する5800万トンが輸入品です。
 食料安全保障の観点からも問題ですが、さらなる問題は4分の1近い2000万トンが廃棄され、金額にすると11兆円にもなることです。
 その廃棄されているうち40%に相当する800万トンは「食品ロス」と言われますが、大半は賞味期限切れが間近になった食品や、包装がわずかに破れて売物にならないという未利用の食品です。
 この返品処理にかかる費用は年間75億円にもなっていますし、世界全体が行っている食料援助に匹敵する量です。
 そこで食品ロスを支援に回そうという国際組織の日本支部であるNPO法人セカンドハーベスト・ジャパンという組織が、企業から食品ロスになりそうな食品を賞味期限切れ前に無償で提供してもらい、福祉施設や東日本大震災の被災地に送るという仕事をしています。

 2005年に愛知県で開かれた「愛地球博覧会」は環境問題を主題にしていましたので、廃棄物の再利用によって建設された施設も数多く存在していました。
 例えば、イタリア館では割れたガラスの鏡をポリエステル繊維などと混ぜた床材を使っていました。
 強度は十分ありますし、床面がキラキラと輝きデザインとしても好評でした。
 会場への道路は不要になったゴムタイヤを細かく粉砕した材料で舗装していましたが、これは透水性があるうえに、走行時の騒音が10デシベル近く低くなり、冬期の凍結防止にもなり、一石数鳥の効果を発揮しました。

 現在、日本でもっとも廃棄物が存在しているのが東日本大震災の被災地ですが、それを再利用しようという努力も始まっています。
 南三陸町で災害の廃棄物処理をおこなっている清水建設は焼却された廃棄物の灰などを細かく砕いてセメントと混ぜ合わせて人工砕石に再生させる技術を開発し、現場での舗装に使用しています。
 これによって不足している埋立用地という問題と、不足している復興に使用する資材という問題を一石二鳥で解決することに役立っています。

 量的には無視できる程度ですが、精神的に役立っている再利用もあります。
 7月7日に東京で開催された学習院0B管弦楽団の演奏会で、皇太子殿下が通称「震災津波ビオラ」と呼ばれる楽器を演奏され話題になりました。
 これはバイオリンドクターと呼ばれる中澤宗幸さんが陸前高田の瓦礫の中から弦楽器を作るのに適したカエデと松の木材を探し出し、それを使って4丁のバイオリンと1丁のビオラを制作され、その表板と裏板とを繋ぐ「魂柱(こんちゅう)」には奇跡の一本松の木材を使用したものです。
 この弦楽器は「千の音色でつなぐ絆プロジェクト」として、1000人の演奏家が全国各地で次々とリレー演奏していますが、皇太子殿下はビオラの最初の演奏者になられたという次第です。
 使用された材料は微々たるものですが、被災地の方々だけではなく、日本各地の人々が被災地の方々のことを想う大きな力になっていると思います。

 しかし東日本大震災のもっとも厄介な廃棄物は核廃棄物です。
 多くの物質の放射線レベルが半分の水準になる半減期は何百万年から何十万年かかる厄介な存在です。
 この半減期を科学技術の力で大幅に減らそうという研究が始まっています。
 例えばネプツニウム237という半減期214万年という放射性物質に加速した中性子を衝突させると、半減期11分のモリブデン102と21時間のヨウ素133に変わり、さらに崩壊が続いて最後は放射性をなくしたルテニウム102とセシウム133に変わって安定するということが分かっています。
 そこで高速増殖原型炉の「もんじゅ」が当初の目的で利用することが困難になってきたので、核廃棄物対策の研究用に使用しようという構想が登場してきたのです。
 もちろん直ちに実現する訳ではなく、何十年という研究と膨大な時間がかかりますし、費用対効果も明確ではありませんが、興味ある廃棄物の処理方法だと思います。





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