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論文

 最近、電力料金の請求金額を見て驚かれる家庭が多いと思います。
 一例として、東京電力管内の平均的な家庭の電力料金を計算してみると、昨年の8月は7200円程度でしたが、今年は8000円程度になり800円の値上げになっています。
 どの電力会社管内でも金額の大小はあるものの値上げになっていますが、理由は3つあります。
 1)発電単価がキロワット時あたり5円から6円の原子力発電所が停止を余儀なくされているため、
   14円から17円の石油火力で代替している比率が大きくなっている
 2)アベノミクス効果で円安になったため、原油の購入費用が割高になっている
 3)猛暑のためクーラーの使用時間が増え、3段階の単価のうち最も高い料金の部分が増えている

 電力価格は総括原価方式という、かかった費用を上乗せできる仕組で決まっていますから、このような理由で原価が上がれば、ほぼ自動的に家庭が購入する料金も上がることになります。
 このような状態が続くと、家庭の負担も大変ですが、別体系で決められている産業用電力の価格も上がって行き、現状でもイタリアに次いで世界で2番目に高い産業用電力の単価もさらに上がり、産業競争力にも影響することになります。
 この問題を突き詰めて行くと、エネルギー自給率4%という、天然資源に恵まれない国土の宿命になってしまいますが、それを打破するための技術開発が進んでいます。

 今日は新しいエネルギー資源の可能性について御紹介したいと思います。
 電力については、自然エネルギーと総称される太陽光発電、風力発電、地熱発電などが推進されていますが、現状では石油火力と比較しても2倍から3倍の単価になり、自然エネルギーの固定価格買取制度で消費者が負担しないかぎり拡大は困難です。
 実際に、この制度を推進したドイツでは10年間で家庭の電力料金が1・8倍に値上がりしています。

 これは価格の問題があるにしても、太陽、風、地熱などエネルギー資源は国内に存在するので、技術開発の努力で原価が下がって行く可能性はありますが、石油や天然ガスなど可搬エネルギーといわれる持ち運びできるエネルギー資源は国内にはほとんど存在しないので、これを自給する努力が重要になります。
 そこで注目されているのが植物から石油を作る技術です。
 焚火で松を燃やすと、スギやナラなどよりも勢い良く燃えますが、理由は油分が含まれているからです。
 さらに松よりも大量に油分を含んでいるユーカリやアオサンゴなどの草木は1年に数10cmから1m近く成長しますので、それらを育てて油を採集することも有望ですが、なかなか手間がかかります。

 そこで注目されてきたのが植物の一種である藻から石油を作ろうという技術です。
 これまでの調査で「ポトリオコッカス」と「オーランチオキトリウム」という藻が油分を含んでいる比率が高いということで研究が進んでいます。
 従来は「ポトリオコッカス」が有望とされていましたが、新たに発見された「オーランチオキトリウム」は生産効率が10倍以上と期待され、筑波大学などで研究されています。
 これは直径10マイクロメートル(髪の毛の10分の1以下)程度の球形の藻ですが、1ヘクタール(100m四方)のプールで培養すると、1年間で50トンから140トンの油を生産できるそうで、これはアブラヤシの20倍以上になります。
 日本の石油輸入量は2012年で1億8000万トンですから、そのようなプールが130万ヘクタールあれば、同じ量を生産できることになります。

 日本の耕作放棄地の面積は約40万ヘクタールありますから、すべてを藻の繁殖池にすれば、輸入石油の30%は自給できることになります。
 課題は価格ですが、筑波大学の渡辺教授によれば、大規模なプラントで処理すればリットルあたり50円で供給できるということですから、石油から生産するガソリンの3分の1以下になります。
 このような利点があるので、アメリカでは1970年代の石油危機以来、研究をしてきましたが、価格が低下したので下火になっていました。
 しかし、21世紀に入って石油価格が高騰してきたので、再度研究が活発になり、エネルギー省は2009年から50億円の予算を確保して研究を開始していますし、石油会社エクソンモービルも600億円の投資をするようになっています。

 もうひとつ注目されている藻類が「ミドリムシ」です。
 これは「オーランチオキトリウム」の10倍ほどの大きさの藻類で、健康食品にもなるということで話題になりましたが、最近ではジェット燃料を生産できるということでも注目されています。
 これについては、ミドリムシの培養技術で実績のあるベンチャー企業「ユーグレナ」と、JX日鉱日石エネルギー、日立プラントテクノロジーが2018年の実用を目指して会社を立ち上げています。

 これらの技術が優れているのは、藻を育てるのには太陽光とともに栄養となる有機物が必要ですが、生活排水を利用すれば、その浄化にもなるという一石二鳥が効果もあることです。
 この燃料も燃やせば二酸化炭素が排出されますが、もともとは水中に溶け込んでいた二酸化炭素ですから、カーボンニュートラル、すなわち二酸化炭素は増えないという意味もあります。
 これまで日本の国土には化石燃料が乏しいということで苦労してきましたが、科学技術を駆使して、日本にも豊富にある水と太陽を利用してエネルギー自給の方向が見えてきたと思います。





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