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論文

 若山牧水の名歌「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒は静かに飲むべかりけり」の季節になってきました。
 そこで日本酒の最近の事情を御紹介したいと思います。
 最初に残念な数字ですが、日本酒のみならず酒類の国内での生産が急速に低下しているという現実です。
 日本酒については、最高が1975年の135万キロリットル、一升瓶にして7億5000万本でしたが、80年に119万キロリットル、90年に106万キロリットル、2000年に72万キロリットルと次第に減少し、2011年には44万キロリットルとなり、最大であった1975年の3分の1以下になってしまいました。

 それでは焼酎やビールに人気が移ったのかということですが、確かに焼酎は1970年の22万キロリットルから次第に増加し、2000年以後の第三次(本格)焼酎ブームによって2004年には104万キロリットルと5倍近くに増えましたが、残念ながら流行が過ぎ去り、2011年には88万キロリットルと最盛期の8割程度にまで低下してしまいました。
 強い酒が敬遠されてビールのような軽い酒に移っているのではないかと推測されますが、頼みのビールも1970年300万キロリットルから1994年には710万キロリットルと2.4倍にもなりましたが、2011年には290万キロリットルと最盛期の4割に低下しています。
 それは税金の安い発泡酒に移ったからではないかと推測されますが、確かに発泡酒が注目され出した1995年の21万キロリットルから2002年には262万キロリットルと12倍に躍進しましたが、2011年には77万キロリットルと最盛期の3割になり、流行が去ったという印象です。

 日本で生産されている酒類すべてを合計してみると、最大は1999年の960万キロリットルでしたが、2011年位は814万キロリットルと15%も減少した状態です。
 それでは増えている酒はないのかと探してみると、ありました。輸入ワインです。
 1980年には1万2000キロリットルでしたが、順調に増え、1990年には6万5000キロリットル、2000年には16万6000キロリットル、2010年には18万6000キロリットルと30年間で16倍に飛躍しています。
 さらに酒ではありませんが、躍進しているのが清涼飲料で、1980年の590万キロリットルから、年々増加し、2011年には1900万リットルと30年間で3・2倍に増えています。

 まとめてみると、日本酒を筆頭に日本の酒類は輸入ワインと清涼飲料に地位を奪われてきたことになります。
 そこで国内では、旅行社が日本酒コンサルタントの解説付きの「蔵元を訪れ美食を楽しむ日本酒の旅」を企画したり、女性向けのカクテルを開発したりして人気回復を図っていますが、本格的に消費量を増やすため輸出に活路を見いだし、地位奪回をしようという努力がはじまりました。
 実際、日本酒の輸出量は2000年の7400キロリットルから2009年には1万1950キロリットルと1.6倍に増え、特にアメリカへは1760キロリットルから3575キロリットルと2倍に増えています。
 それでも輸入ワインに比べれば輸出日本酒は容積で6%でしかありませんし、金額で比較しても2011年にワインの輸入金額1067億円に対して日本酒の輸出金額は88億円で8%にしかなりません。

 そこで輸出振興の努力が始まっていますが、まず政府の支援として、昨年の民主党政権時代に「エンジョイ・ジャパニーズ・コクシュ(国酒)」というプロジェクトが発足し、国家戦略室に推進協議会を設置していましたし、自由民主党政権になってからは稲田朋美内閣府特命担当大臣が「日本が誇る文化の国際展開を図るための企画立案及び行政各部の所管する事務の調整」通称「クールジャパン戦略担当大臣」に任命され、その戦略の一環として日本食とともに日本酒も海外に広めようということになっています。
 また業界も努力を開始し、日本酒造組合中央会は2009年から海外市場の調査、現地での広報活動に取組んできましたが、なかなか成果がでないため、ジェトロ(日本貿易振興機構)が支援を開始し、各地でセミナーを開催するなどの活動をしています。
 もちろん個別の酒造会社も乗出しています。
 山口県岩国市にある旭酒造(株)は世界で通用する日本酒を作ろうと決意し、自社の水田で育てた酒米「山田錦」を7日間かけて玄米の23%まで精白した米で「獺祭(だっさい)」という大吟醸酒を生産し、世界の本場で認められなければ価値がないと世界でもっとも権威のあるコンテスト「モンドセレクション」に出品し、2002年には金賞を受賞しています。
 さらにアメリカでは力をもつユダヤ人社会で認知されるために、2年かけてユダヤ教徒が口にして良い食べ物を認定する「コーシャー」という資格も取得しています。
 旭酒造のウェブサイトを見ると、日本語以外に、英語、フランス語、中国語で内容が表示されており、実際、世界の16カ国に輸出されています。
 また世界最大のワイン品評会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」には2007年から日本酒部門が設置され、昨年のロンドンで開催された品評会には292蔵元が689銘柄の日本酒を出品し、秋田県湯沢市の木村酒造の「大吟醸福小町」が最優秀の「チャンピオン・サケ」に選ばれています。
 私も若い頃はフランス映画などの影響でワインを飲みながらフランス料理を食べることに憧れたりしていましたが、それがフランスに好意を抱くことに繋がってもいます。
 単に日本酒という製品を輸出するという経済的利益だけではなく、一種の文化外交として国益を増すためにも日本酒に頑張ってほしいと思います。





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