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論文

 年末も近付き、故郷へ帰る準備を検討しておられる方々も多いと思います。
 今年の年末年始の旅行客数は3000万人を突破すると予測されています。
 すべてが帰省客ではないにしても、相当の人数が故郷に戻ることを示しています。
 しかし、その故郷の多くは人口も企業も減少して地方自治体の財政も逼迫しており、必要とする資金を税収などの収入が上回っている地方自治体は数えるほどしか存在しないのが現状です。
 そこで登場したのが「ふるさと納税制度」です。
 これは個人が自分の故郷でも、色々な関係のある自治体でも構わないので寄付をすると、一定の金額が税額控除になる制度で、これによって寄付を増やし、少しでも格差是正をしようという目的です。

 この制度は2008年から始まり、次第に浸透し、現在では47都道府県のすべて、市町村では東京の特別区を含めて1741で、これもほぼすべてが窓口を開いております。
 制度の概要は自分の関心のある自治体に寄付すると、5000円を差引いた金額が個人住民税の1割を上限として、住民税と所得税が控除されるという制度です。
 一例を紹介しますと、夫婦と子供2人の4人家族で年収が700万円の人が4万円を寄付すると、住民税と所得税の合計で3万5300円が控除され、結果として自己負担は4700円にしかならないということになります。

 これは個人の利益というだけではなく、寄付を使ってほしい目的を指定することの出来る自治体もありますので、自分の税金が不要な公共事業に使われたくないという人にはお勧めになります。
 しかし、問題は財政難の自治体は人口が少なく、出身者も少ないのでなかなか寄付が集まらないということです。
 そこで登場したのが、寄付をされた方には故郷の名産を送るという制度です。
 数えてみますと全体の15%に相当する272自治体が実施しています。
 エサに釣られて寄付をするのもどうかと思う面もありますが、自分の出身の故郷以外であれば、美味しいエサに食いつくのも仕方がないことかという気もします。

 まず、どのような記念品があるか各自治体のホームページを探して調べてみたのですが、肉類が約100種類、魚類が約70種類、米やパンが約155種類、野菜が約115種類、ワインなどが約40種類と選取り見取りの状態です。
 それらの中でも、神奈川県三浦市では15種類のマグロの刺身、神戸市では5種類の神戸ビーフが用意され、ネットショップ顔負けです。
 個別の自治体で記念品が多い一例として、岐阜県各務原市では1万円以上の寄付をしますと、B級グルメで有名になった「各務原キムチ」、「焼肉セット」「地酒4合瓶2本」などの食料のほか、プレイステーションのゲームソフト、ぬいぐるみセット、水族館の入場券5枚など、63種類の記念品から選ぶことができ、人気のために品切れ記念品が現れるほどです。
 ちなみに記念品は定価送料込みで6000円程度だそうですから、お得であることは間違いないと思います。
 さらにお得な情報は佐賀県玄海町に「プレミアム玄海」という制度があり、10万円以上の寄付をすると、毎月1回1年間、地域の名産が送られてきます。

 別の興味がある例は群馬県中之条町です。
 まず5000円以上の寄付をすると、特産品とともに「ふるさと納税額」の半額相当の感謝券がもらえます。
 例えば3万円を寄付すると、特産品と1万5000円の感謝券が送られてきますが、この感謝券は中之条町にある四万(しま)温泉などでの宿泊や町内での買物や飲食に利用できます。
 さらに100万円以上の寄付をすると、「一日町長」に就任できるのです。何が出来るかというと、1)町役場職員全員への訓示、2)町議会全員協議会での挨拶、3)町内視察、4)広報誌に掲載などが可能とのことです。
 いずれのサービスも変更されたり制約がありますので、事前に確認していただきたいのですが、興味深い制度です。
 この制度は、前にご説明しましたように、自分の関心がある地域に、地域の環境保全や観光推進など目的を限定した行政を進めてもらうのに効果がありますし、地域格差、とくに大都市と、それ以外の地域との格差是正に貢献するという利点があります。
 地域には、成人までの教育を地域が負担したのに、就職すると大都市に行ってしまい、育ての親に恩恵がないという不満がありますが、故郷を出て行った人々が納税してくれれば、少しは元が取れるというわけです。

 しかし良いこと尽くめではなく、問題もあります。
 まず地方税は地域に居住している住民がサービスを受けるために支払っているのが趣旨ですが、わずかな寄付をした外部の人が過剰なサービスを受けるのは不公平という問題。
 市町村に比べれば都道府県への愛着は薄いのが一般であるから、市町村への寄付が多くなるが、税の控除は都道府県税にも及ぶので不公平だという問題。
 また税収が少ない自治体には地方交付金で補正し、一人あたりの税収では大都市部とそれ以外の差は少ないのに、地域が優遇されすぎて不公平という問題などが挙げられています。
 また高額の「ふるさと納税」により税金が控除されると、自治体が還付する必要が発生しますので、その高額を寄付した人が居住していた自治体にとっては二重の収入減になるということも現実に発生しています。

 しかし、なかなか地域主権が進展しない現状や、不要と思われる公共投資に不満を持つ人には有効な手段になりますので、記念品だけに目を奪われずに、本来の趣旨を考え、積極的に利用されることをお薦めします。





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