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論文

 世界の水産物の生産量は1990年の9700万トンから2000年には1億2600万トン、2010年には1億7000万トンと、この20年間で1・8倍になり、着実に増えているようです。
 ところが、天然の水産物だけをみると8500万トン、9400万トン、8950万トンと横這いどころか、最近では減少傾向です。
 それを補っているのが養殖で、1300万トンから3200万トン、7900万トンと、世界全体で20年間に6・1倍にも増えており、2010年には水産物全体の47%、ほぼ半分が養殖物になっています。
 日本は養殖の生産量は漁獲量全体の重量で22%、金額で30%程度ですが、現在では世界最大の水産物生産国で、かつ水産物消費国となった中国では重量の75%が養殖物という状態にまでなっています。

 日本の場合、カキやノリはほぼ全量が養殖に依存していますし、2011年について種類別にみると、ウナギは99%が養殖、マダイは79%、クルマエビは70%、ブリは56%というように、半分以上が養殖という魚も増えてきました。
 世界の人口が当分は増加し、中国を筆頭に魚への嗜好が増加してくる一方、ウナギやクロマグロなど天然の資源の涸渇が心配される魚も増えてきましたので、養殖はますます比率を高め、重要になっていくと予測されます。
 養殖は天然資源の保護に繋がるだけではなく、安定して供給できる、天然の魚のように季節に影響されない、その結果、値段も安定するなどの利点もありますが、問題もあります。
 これまで養殖というと、抗生物質を混ぜたエサを使用するための不安、エサを与えすぎるために、余ったエサで海が富栄養状態になり赤潮の原因になるという環境問題、エサにするためのマイワシなどを大量に捕獲するための資源涸渇問題などがあるうえに、過剰に供給されるために価格が暴落するという商売としての問題もありました。

 このような問題への対策として、安全で環境にも配慮した養殖をおこなっている水産物を認定するという活動が登場しました。
 その発端は、養殖ではありませんが、天然の水産物の認証をするMSC(マリン・スチュワードシップ・カウンシル)、日本語では海洋管理協議会と訳されるNPO組織が運営している制度です。
 カナダ近海のスケトウダラが乱獲によって壊滅状態になったことに危機感を抱いた世界自然保護基金(WWF)と、そのスケトウダラの加工品を販売していたユニリーバが1997年に設立した組織です。
 これは世界の水産資源の回復を目指して、資源や環境を持続可能に維持する漁業をおこなっている団体を認証し、その団体が漁獲した水産物には「海のエコラベル」というシールを貼って流通させることを認定する制度です。
 1997年から活動を開始していますが、昨年3月の時点で世界の32カ国の198の漁業組織が認証を受け、それらの組織が水揚げする水産物は世界の天然水産物の7%になり、「海のエコラベル」を貼った水産物の製品は約2万種類にもなり、売上は3500億円になっています。

 この認証を受けようとすると、本部から派遣された審査員が実際に漁船に乗込んで長期に審査するうえ、費用負担も相当の金額になるので、日本では京都府のズワイガニとアカガレイの漁業団体が2008年、土佐のカツオ一本釣り漁業が2009年に認証を受けているだけですが、次第に関心が高まっています。
 このような苦労して認証を受ける漁業組織を支援するためには、消費者がスーパーマーケットなどで、「海のエコラベル」の貼ってある水産物を優先して買うことが重要で、そうすれば、結果として資源や環境の保護に貢献するというわけです。
 その影響で、日本でも2007年に「マリン・エコラベル・ジャパン」が設立され、鳥取県のベニズワイガニ漁、静岡県のサクラエビ漁、青森県のシジミ漁などが認証を受けています。

 これらは天然の水産物を対象とした制度ですが、養殖の水産物を対象に2010年に世界自然保護基金とオランダの貿易団体が設立したのがASC(アクアカルチャー・スチュワードシップ・カウンシル)、日本語で水産養殖管理協議会です。
 これは先にご紹介したような水面での養殖がもたらす問題に対処しながら持続可能な養殖をする漁業団体を認証し、MSCと同様にASCのエコラベルを貼って製品を流通させる仕組です。
 第一号は2012年8月に認証されたインドネシアのティラピアというスズキの一種の魚の養殖ですが、それ以外にサケ、エビ、マス、アワビ、カキ、ホタテなど12種類の水産物を対象にする計画で、すでにエコラベルの付いた商品が500種類以上流通しています。
 この1月にはノルウェイのサケの養殖が認証を受けましたが、世界でもっとも厳しい管理で養殖されていることで有名です。
 サケには「アニサキス幼虫」という寄生虫がいるので、日本では生では食べないのが常識ですが、ノルウェイでは生で食べても問題がありません。
 それは養殖場を作るときに、その海域には寄生虫や水質の汚染がないことを確認してから漁業庁に許可の申請をすることになっていますし、エサも熱処理して完全殺菌し、国の機関が検査をして合格したものだけを使っています。
 そのエサの量も食べ残しが出ないようにコンピュータが管理する自動給餌装置で与え、海が汚染されないようにしています。
 そして国立栄養水産物研究所がサケをはじめとする養殖の水産物を検査し、重金属や有毒物質が含まれていないかを検査し、もし発見されると養殖業者は操業許可を取消されるほど厳しい制度で維持されています。

 日本は水産王国、魚食王国でしたが、現在では天然の水産物の漁獲では世界6位、養殖では5位、その結果、水産物の自給率は58%にまで下がってしまいました。
 そして一人あたりの魚の消費量もアイスランド、韓国、ポルトガルに抜かれ4位になっています。
 世界が急速に魚に目覚めている時代に、生産者も消費者も海のエコラベルに注目して魚の復権に努力すべきだと思います。





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