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論文

 今日は人間社会に存在する冬眠資産について考えてみたいと思います。
 バイオミミクリーという学問分野があります。バイオは生物、ミミクリーは真似するという意味ですから、生物を真似する科学技術ということになります。
 これは20世紀の最後の頃に作られた言葉ですが、人間は古くから生物を真似してきました。
 有名な例はレオナルド・ダ・ヴィンチが鳥の飛ぶ仕組みを真似して飛行機を作ろうとしたことですが、現在の科学では三種類の真似が研究されています。
 第一は形を真似するという段階で、カワセミのクチバシの形を参考にして新幹線の先頭車両の形がデザインされ、蚊の針を真似して痛くない注射針を開発するなど数多くの例があります。
 第二は機能を真似する段階で、オオソリハシシギという渡り鳥がアラスカからニュージーランドまで1万キロメートル以上を無着陸で飛ぶ原因を調べたところ、胸肉に含まれているイミダペプチドという物質の効果だとわかり、人間の栄養剤に使われているという例があります。
 第三は生態系全体を真似するという段階で、一例は「アグロ・フォレストリー」という農業です。普通に農業というと自然を開墾して全体を田畑にして単一の作物を栽培しますが、この耕作法は自然のままの森林や湿地に作物の種を播いたり家畜を飼育したりするという方法で、その土地の自然環境を維持したまま作物も栽培する農法です。
 この第三段階で重要な特徴は、植物の枝葉は動物の餌となり、動物の排泄物は植物の栄養になって生態系を維持しているため、一切無駄がなく廃棄物が出ないという仕組みになっていることです。

 ところが人間の社会を見ると、不要になった廃棄物が大量に発生し、生態系自体を破壊しかねない状態になっています。
 最近、話題になっている例が海洋プラスチック廃棄物です。
 人間が使用するプラスチックは過去70年間で200倍にも増え、現在では1年間に4億トンのプラスチックを使用しています。
 30%は再利用されていますが、残りは埋め立てや焼却で処分されています。ところが、全体としてはわずかですが捨てられたり、埋め立てられたプラスチックが川や海へ流れ出て、最後は大海原に漂うことになります。
 これについて最近、驚くべき数字が発表されました。
 現在、海中に漂っているプラスチックは3億トン程度ですが、30年後の2050年には11億トンになり、これは海中に生息している魚の総重量と同じ量だということです。

 プラスチックだけではなく、人間が作り出す廃棄物の量は一般廃棄物と産業廃棄物を合計して2010年で105億トン、2025年には150億トン、250年には223億トンと予測されています。
 一人当たりに換算すると、2010年に1.5トン、2015年には1.9トン、2.3トンと急速に増えていくことになります。

 このような廃棄物は、生物世界では糞尿でも死骸でも生態系の循環の中に組み込まれていますが、人間の社会のゴミは循環の外側にあるため、逆に環境を汚染することになるということです。
 これを解決するために「ゼロウェイスト」運動、「ゴミゼロ」運動などが発生しています。
 例えば、スーパーマーケットなどで包装が破れたりして賞味期限前であるにもかかわらず販売できない「フードロス」が相当の量になっています。
 日本では年間640万トンのフードロスが発生していますが、国連が食糧支援をしている量が320万トンですから、その2倍が賞味期限内にもかかわらず捨てられていることになります。
 最近ではそのような食品を「フードバンク」という民間団体に寄付し、食料が満足に購入できない家庭などに配給するという方法でゴミを減らし始めています。

 さらに前向きの解決方法が情報システムを媒介として不用品を流通させるビジネスです。
 「みんなのかくれ資産委員会」が日本の家庭に眠っている不要品の価値を計算し、昨年11月に発表しました。
 それによると日本の家庭全体の隠れ資産の総額は37兆円になり、世帯あたりで70万円、成人2人と子供1人の世帯では60万円になるという結果になりました。
 これは貯金、不動産に次ぐ第三の資産と言われています。
 このような退蔵されたままの資産は休眠資産と名付けられていますが、これまでは本であれば古くは「古書店」、最近では「ブックオフ」などが循環させ、一般の雑貨であれば休日の公園などで開催される「フリーマーケット」で処理する程度でした。

 それをインターネット利用で循環させる「ネットオークション」が登場し、さらに「フリマアプリ」に発展してきました。
フリマアプリの代表である「メルカリ」は2013年に日本でサービスを開始し、以後5年間で1兆円の休眠資産を循環させ、2015年には上場に成功しています。
 このような休眠資産は物品だけではなく、利用していない住居という冬眠資産は「エアビーアンドビー」が宿泊施設に変化させ、2017年には世界全体で3000億円の売上高になっています。
 仕事をしていない時間の労働力という冬眠資産は「ウーバー」や「アマゾンフレックス」が現実の労働力に変化させました。ウーバーの2018年の売上高は1兆2000億円にもなっています。
 さらに巨大な休眠資産が休眠預金です。これは10年間、一切、取引がない預金口座で、その預金額の合計は日本では7000億円にもなり、毎年、新たに1200億円程度が増加しています。
 今年1月1日から「休眠預金等活用法」が施行され、10年以上取引のない休眠預金を、若者の支援や地域活性化の支援などに利用することになり、社会に循環することになりました。
 これら今日ご紹介した例は休眠資産が新しいビジネスの資源として利用されるという経済の視点からも重要ですが、人間社会に存在する廃棄物という膨大な無駄を社会に有効に循環させるという視点から考えると、すべてが循環して廃棄物のない生物社会に一歩近づいたということになると思います。





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