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論文

 小売業界にとっては迷惑な新しい流行がアメリカで発生しているので、今日はそれを紹介したいと思います。
 インターネットも社会に完全に定着して、ネットショッピングが次第に拡大しています。
 東京などの大都市で生活しておられる方は自宅の周辺にも仕事場の周辺にも様々な商店があるので不便はありませんが、地方都市ではそのような訳にはいきません。
 先週、北海道の山奥に行きましたが、商店が揃っている都会までは雪道を1時間以上運転していかなければならないので、ネットショッピングを利用している人が多く、雑誌以外の本はほとんどネットショップで買っているとのことでした。

 日本の年間の小売業の売上は135兆円くらいですが、日本通信販売協会の調査によると2012年の通信販売の市場規模が5兆5000億円になっており、全体の4%程度になっています。
 10年前には2兆6000億円でしたから、ほぼ2倍に増加したことになります。
 アメリカは日本よりもはるかに分散した居住形態で生活していますから、ネットショッピングの比率が5%を越えているようですが、そこに登場してきたのが「ショールーミング」という流行です。

 アメリカでは、電子機器や家庭電化製品を買おうとすると、最初に「ディサイド・コム」すなわち決定するという意味をもつウェブサイトなどにアクセスし、購入したい商品の名前やカタログ番号を入力します。
 そうすると瞬時に中央が山になって両側に裾野の広がっている正規分布のグラフに矢印とディサイド・スコアという数字が入ったグラフが画面に出てきます。
 グラフは左端の方が赤色で、中央がオレンジ色、右端が緑色になっており、矢印が左側の赤色の範囲であれば、今後、ほぼ確実に値下がりするので、今買うのは得ではないという意味で、右側の緑色の範囲にあれば、これ以上の値下がりはなさそうなので今買うのが得であり、真ん中のオレンジ色の範囲は、それほど得ではないが、すぐに必要ならば買ってもいいという表示です。
 これはビッグデータの利用の代表例ですが、このサービスを提供している会社は数百のオンラインショップから毎日10万以上の値段の情報を収集すると同時に、企業のプレスリリースや新聞記事などから新製品発売の情報も収集し、今後、価格が下がるか上がるかを高精度で予測しているのです。

 そこで買おうと決めると、次は「プライス・コム」、日本では「価格・コム」のようなウェブサイトにアクセスし、どのネットショップで購入するのがもっとも安いかを探します。
 もちろん、この段階で注文してもいいのですが、カタログの写真だけでは心配なので、実物を見てみたいというときに行うのが「ショールーミング」です。
 百貨店や量販店などに出掛けて行き、実物を確認しますが、そこでは買わずにネットショップに注文するという手順です。
 都心の土地代の高い場所に広大な面積の床面積を確保して商品を展示している百貨店は売場ではなく、ショールーム、すなわち展示場にしか過ぎないという迷惑な流行です。

 もうひとつの迷惑な流行が「ワードロービング」です。
 アメリカでは法律で義務づけられている訳ではありませんが、商習慣として購入した商品の返品はかなり受入れているそうです。
 日本で返品というと、商品に不具合があったときというのが普通ですが、アメリカでは買ってから使ってみたら気に入らなかったという程度でも返品期限以前なら返品ができるようなのです。
 そうすると「クリスマスツリーを買ってクリスマスの期間に飾った後で気に入らないから返品する」、「パーティーに出席するために高価なドレスを買って着終わった後で返品する」というような例が続出ということになります。
 商店の売場を自宅にある洋服タンス、すなわちワードローブのように利用するということで、これを「ワードロービング」という訳です。
 なかなか並の日本人にはできない芸当ですが、アメリカでは一種の商習慣なので、大型小売店には返品専用のカウンターまであります。

 アメリカで悪名高い例は2004年に制作された「マイ・デート・ウイズ・ドリュー」という90分のドキュメンタリー映画がありますが、これはサーキット・シティという家電量販店で買ったビデオカメラを30日間使って撮影し、撮影が終わってから返品して全額を払い戻してもらったそうです。
 このような返品のせいだけではありませんが、サーキット・シティは2009年に経営破綻し、アメリカ全体にあった567店舗が閉鎖されてしまいました。

 これには当然、問題があります。
 まず万引きなどで盗んだ商品を偽造のレシートで換金する、一種のマネーロンダリングに利用されるということです。
 日本では書店の万引きの被害が年間260億円になっていますが、その一部は学生などが古書店に買い取ってもらって小遣い稼ぎをするということのようですが、アメリカでは正式の返品ではない詐欺による返品が9000億円になるという数字がありますから、桁違いです。

 なぜ返品を商店が受入れているかというと、それを拒否した場合、その客は二度と店に来なくなるという機会逸失を避けるためだと説明されますが、そのような損失があっても販売店が成り立つためには、その損失が消費全体で穴埋めされているからということになり、正直者が馬鹿を見る仕組になっているという問題もあります。
 もちろん、販売店も、通常90日間程度の返品期間を、高額商品の場合は数分の1にするとか、特殊なタグを付けておいて、それを外した商品は返品を受け付けないという対策を講じていますが、なかなか長年の商習慣は変えられないようです。
 何事もアメリカを真似することの多い日本ですが、ショールーミングやワードロービングは浸透しないことを期待したいと思います。





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