TOPページへ論文ページへ
論文

 昨年12月に日本の伝統的な食事が「和食・日本人の伝統的な食文化」としてユネスコの無形文化遺産に登録されました。
 現在、無形文化遺産は世界各国から約290が登録されていますが、食事は「フランスの美食術」(2010)、地中海沿岸各国の「地中海料理」(2010)、「トルコのケシケキの伝統」(2011)、「メキシコの伝統料理」(2010)など、10にもなりませんから、日本の和食が世界で特徴ある料理だということが分かると思います。
 この和食が美味しい以上に健康に優れた食事だということは、1970年代から世界に知れ渡るようになりました。
 その契機になったのは1977年にアメリカの上院特別委員会が発表した「アメリカの食事目標」という報告書です。
 これはフォード大統領が、アメリカの医療費が増大しているのに死亡率が減らないのは肉食に偏重しているからだと考え、マクガバン上院議員を委員長とする委員会を設置して理想の食事を調査した結果です。
 この調査結果の結論は、最近では知られるようになりましたが、日本の江戸時代の庶民の食事が理想だということでした。
 当時は一般庶民には白米が行き渡らず、アワやヒエなどの雑穀を主食とし、海草の入った味噌汁と、野菜と近海の魚を副食としていたのですが、これが理想だという内容です。
 この報告書の効果は絶大で、世界各地に日本料理店が出現することになりました。

 正確な統計ではありませんが、2006年には北米に約1万店、中南米に1500店、ヨーロッパに2000店、アジアに9000店、オセアニアに1000店で、合計2万4000店程度でしたが、最近では北米に1万7000店、ヨーロッパに5500店、アジアに2万7000店などと増加し、世界に約5万3000店にもなっています。
 その味は日本料理とは思えない怪しげなものもありますが、日本国内の日本料理店は4万3000店ですから、それ以上という繁盛ぶりです。

 最近、この理由を科学的に実証された学者が居られます。
 東北大学農学研究科の都築毅准教授が、まず2008年に「日本栄養・食糧学会誌」に現代の日本の食事とアメリカの食事をネズミに与え、その結果を測定した結果を発表されました。
 これは1999年の日本人の食事と1996年のアメリカ人の食事を1週間分用意し、それを冷凍して粉末にし、3週間にわたってネズミに与えた後で、血液と肝臓の変化を調べたものです。
 その結果、例えば、肝臓の総コレステロール濃度は日本食ネズミがアメリカ食ネズミの70%であり、コレステロールを胆汁酸に変化させて排泄する能力も日本食ネズミの方が高く、脂肪が体内に蓄積されにくいことが分かりました。
 またストレスを押さえる効果も日本食が大きく、細胞の寿命も日本食ネズミのほうが長いという結果が判明しています。

 都築准教授は昨年、日本農芸化学会で講演をされたときに、その日本食も時代とともに大きく変わっているので、どの時期の日本食が理想かを研究した成果を発表され、今年になって日本栄養科学学会に、その内容を論文として投稿されました。
 日本食自体は素晴らしいものですが、例えば、糖尿病の患者の比率を2002年と2010年を比較すると、男性の50代では14%から15・6%、50代では17・5%から22・1%、女性も、それぞれ4・6%から5・6%、11・5%から13・5%と急激に増えているのは、日本食の内容が変化しているのではないかということを背景に、1960年、75年、90年、2005年の代表的な日本食を再現してネズミに8ヶ月間与え、同様の分析をしたところ、1975年頃の日本食がもっとも理想だという結論を出されたのです。

 その原因は日本人の食事内容が急速に変化してきたことで、1960年と2005年を比較すると、コメの一人あたりの消費量は半分になり、魚も野菜も減る一方、肉は6倍、油脂は3倍、乳製品は4倍に増えていることが影響していると推定しておられます。
 実際、ハワイへの日本人移民を調査すると、一世は動脈硬化が発生する年齢がアメリカ人に比べて遅かったのですが、三世四世になると同等になり、ブラジルに移民した日系人も心筋梗塞が増え、寿命も17年近く短くなっていると報告されています。主要な原因は肉食偏重です。

 最近、日本でもそれを証明する数値があります。
 日本人の平均寿命は男女とも世界一で、都道府県別では1980年に沖縄県の平均寿命は男女とも1位でした。
 ところが、2010年には約5年延びてはいますが、男性が全国で30位、女性が3位になり、一方、長野県が1980年の3位と9位から、2010年には男女とも1位になっています。
 これは離島や僻地の医療体制の影響もありますが、沖縄にはアメリカ人が多数生活している関係で、食生活がアメリカ式に変化してきたからではないかと推定されています。

 イタリアでは古代ローマからの伝統がある国民食「パスタ」の消費が急速に減っています。
 国民1人あたり、2006年は28kgでしたが、6年後の12年には25・6kgと9%も減っているそうですが、パスタを食べると太って血糖値が上がると多くのイタリア人が考えていることが原因だそうです。
 日本にはしばらく前まで世界の理想の食事が存在していたことを忘れずに、改めて日本食を見直したいと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.