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論文

 久しぶりに明日は何の日ですが、明日は日本で1921年にメートル法が公布された記念日です。
 しかし実際には、昔からの尺貫法が社会では使われ、完全に実施されたのは戦後の1959年からですが、永六輔さんなどの反対もあり、尺貫法を使用禁止にしたのは1966年からでした。
 なかなか普及しなかったのは、メートルという長さの単位が人為的に作られたもので、日常生活には馴染まない性質の単位だということが影響しています。
 例えば「尺」は親指と人差し指を広げた形から作られた文字であることからも分かるように、古代中国で手を広げたときの親指から中指までの長さを1尺としていたものです。
 また西欧で使われていたヤードは諸説がありますが、アングロサクソン人の腰回りを基準にしたとかもいわれています。

 このように身体の一部を基準にすると、現在でも指を広げて長さを測ることがあるように、物差しがなくても大凡の長さは分かるので便利ですが、困るのは、身体の大きさは地域ごとや民族ごとに違いますし、同じ地域でも時代ごとに違うので正確ではないということです。
 例えば、中国の尺は漢の時代には23・1cm、随の時代には29・4cmでしたし、日本でも平安時代には29・6cm、江戸時代には30・4cmという具合です。
 世界が地域ごとに独立していた時代には、これでも何とかなっていたかも知れませんが、15世紀に大航海時代が始まって、各国が貿易を盛んにするようになると、それぞれが独自の単位では不都合が多いということで、18世紀になってフランスが統一した単位にしようという運動を始めます。

 フランスは革命の最中の1790年に3種の提案をします。
  第一は北緯45度の地点で2分の1秒の周期で振れる振子の長さ
  第二は赤道の一周の長さの4000万分の1
  第三は子午線の一周の4000万分の1
 でした。
 第一の案は、すでに1668年にイングランドの学者ジョン・ウィルキンスが測定し、現在の長さでは99・7cmになるという結果を提案していたのですが、当時すでに場所によって重力が違うということが分かっていたので、測る場所によって長さが変わることになり却下されました。
 第二は赤道の長さを測ろうとすると熱帯雨林や海の上も測量しなければいけないので、これも却下され、第三の方法が採用されます。

 フランスが子午線の長さを基準にしようと提案した背景には、すでに1615年、1669年、1713年、1735年、1736年など何度も子午線の長さの測定の実績があったからですが、より正確に測定しようと1792年から1798年というフランス革命の最中にもかかわらず、大変な苦労をして測量を行い、北極点から赤道までの4分の1周の1000万分の1を1mと決定します。
 そして、その長さの板状のメートル原器を白金で製作してフランス国立中央文書館に保管します。
 文書館は英語のアーカイブ、フランス語でアルシーブなので、これはアルシーブ原器と名付けられます。
 ちなみにメートルという言葉はギリシャ語の「測る」という意味の「メトロン」を元に作られたフランス語です。

 フランスは国内では1837年にメートル以外の単位の使用を禁止し、次に外国に採用をするように運動を開始します。
 そして1870年に第1回の国際メートル委員会、2年後に第二回が開催され、白金90%、イリジウム10%で長さ102cmの原器を作り、両端から1cmの位置に目盛りを入れ、気温0度、1気圧の環境で測定した目盛りの間の長さを1mとすることに決定します。
 この原器は30本作成され、1889年に開催された第1回国際度量衡委員会で各国に配布され、日本にも1890年に配布され、以後、日本の長さの基準になってきました。

 ところが金属のため時間とともに変化するし、場合によっては紛失や損傷が発生するという心配がありましたし、さらにアメリカ国立標準技術研究所が精密な測定をしたところ、そもそも製作したときに誤差があることが分かってしまいました。
 そこでモノに頼らない長さを決めようという意見が登場し、1960年の第11回国際度量衡総会でクリプトン86が真空中で発する赤色の光の波長の165万763・73倍を1mとし、さらに1983年には真空中の光の速さを基準にして1mを決めることになりました。

 このように苦労して決めたメートル法ですが、世界でこれを採用していない国が3カ国あります。リベリア、ミャンマー、アメリカです。
 ミャンマーは昨年10月に、近々採用すると発表しましたので、問題はアメリカです。
 ゴルフコースの距離が一時はメートルになったことがありましたが、結局、ヤードに戻ったように、アメリカは強引にヤード・ポンド法を押し通しています。
 ゴルフ程度ならまだしも、科学技術の分野では実害があります。
 1983年にカナダの旅客機がキログラムで給油を依頼したつもりが、ポンドで給油されたために燃料切れになりそうになったことがあります。
 これは事なきを得ましたが、大被害も発生しています。
 1999年9月23日にNASAの火星気候探査機が火星の大気中で燃え尽きるという事故が発生しました。
 原因は探査機を制御プログラムがメートル法とヤード・ポンド法を混同していたという笑話のような実話ですが、これで125億円の探査機が消滅してしまったのです。
 日本でも北海道のある町が風力発電機を設置したのですが、コンサルタント会社が予測した電力の6割程度しか発電できないので調査したところ、コンサルタント会社がマイル/時で書かれていたアメリカのマニュアルをkm/時と勘違いして設計したためと分かりました。
 不器用なアメリカ国民はヤード法からメートル法に転換することは難しいのでしょうが、世界が迷惑を被っていることを自覚してほしいと思います。





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