TOPページへ論文ページへ
論文

 今年になり、ロボットが世界規模で話題になっており、先週の『ニューズウィーク』がロボット特集を掲載するほどです。
 1999年にソニーが「アイボ」を発表、2000年にホンダが「アシモ」を発表した時期は日本が話題の中心でしたが、今回はアメリカが中心です。
 その原因は情報サービス業であるグーグルがロボット関連の先端企業を8社も買収し、優秀な技術者も多数雇用しはじめていたことが、昨年12月に分かったことです。
 しかもグーグルは、その目的や目標を一切公表しないため、様々な憶測が飛び交って話題になっているのです。
 グーグルは数年前から自動車産業にも静かに進出し、短期間で自動運転の自動車で世界の先端を走るようになり、既存の自動車会社は、いずれはグーグルの下請けとなって機械の部分を生産するだけになるという見通しも語られていますが、今回も突然、表舞台に登場し、既存のロボット製造会社はグーグルの下請けになるかも分からないと警戒されているわけです。

 SF小説の世界では古くからロボットが登場していますが、実用になるロボットは1961年にアメリカで発売された「ユニメート」と「バーサトラン」が最初で、GMが組立工場に大量に導入したことで話題になりました。
 これは産業ロボットと言われ、あらかじめ与えられたプログラムの通りに繰返し作業をする機械でしたが、日本が得意とする分野になり、1985年には世界の3分の2、現在でも4分の1が日本で使われています。
 これは簡単に説明すれば、身体は機械が代替しましたが、頭脳は人間に依存しているという状態でした。

 ところが、現在では将棋電王戦でも分かるように、人工知能と言われる頭脳の部分が急速に進歩し、それと機械が一体となってロボットの新しい時代が始まり、そこへグーグルをはじめ、フェースブックやアマゾンなど情報関連企業が乗出してきたという状況です。
 先月、来日したオバマ大統領が忙しい日程をやりくりして、お台場にある「日本科学未来館」を訪問しました。
 テレビジョンのニュースでは「アシモ」とサッカーボールのやりとりをする場面ばかりが報道されていましたが、本命はシャフトという日本のベンチャー企業が開発した2本足で歩く「エス・ワン」というロボットの見学でした。
 これはアメリカの国防高等研究計画局(DARPA)が昨年行った賞金2億円のロボットコンテストの予選で圧倒的に1位となった世界で最先端のロボットで、しかも「シャフト」はグーグルに買収された会社ですから、専門家の間では背景が憶測されている訪問でした。

 どのような最先端のロボットが登場しているかを紹介しますと、すでに商品として成功しているのは、世界で1000万台以上、日本でも100万台が購入されている「ルンバ」という掃除機です。
 実験段階では、これもグーグルが買収したボストン・ダイナミックスが開発した4本足で時速45kmで走る「チーター」や2本足で歩く「アトラス」がありますし、日本では経済産業省がホンダの「アシモ」を原型に発展させた2本足で歩く「HRPシリーズ」があります。
 フランスでもアルデバラン・ロボティクスが開発した19カ国語を話す「ナオ」など、各国が挑戦しています。

 このようなロボットが急速に開発されていくと、どのような社会が登場するかが関心の的になりますが、すでに着々と利用しているのが軍事技術の分野です。
 アメリカでは空軍が無人偵察機として使用している「グローバルホーク」や、無人爆撃機「プレデター」以外に、遠隔操作で陸上の偵察に使用されている「タロン」などが実用になっています。
 これらは兵士と一般市民を区別できるか、大人と子供を区別できるかなどの技術的問題や、機械が人間を殺傷する倫理的問題などがあり、国際ロボット武器管理委員会というNGOが組織されて議論が始まっています。

 別の問題は産業革命のとき、イギリスで発生したラダイト運動ように人間の仕事を奪うという反対が発生する可能性です。
 しかし、アメリカでは3D(ダル=きつい)(ダーティ=きたない)(デンジャラス=危険)、日本では3Kといわれる仕事は人手不足ですし、原子力発電所の事故で出現したような、人間では作業ができない場所での仕事には重要な役割を果たすと期待されています。
 実際、日本では農薬を散布する仕事のために2550機の無人飛行機が使用され、水田の面積の3分の1は飛行機で農薬散布が行われています。
 さらに日本では、人口不足と高齢社会が進んでいくと、介護や配達の分野で人手不足が発生するので、その分野のロボットも開発されています。

 介護などは人間が行う方が心が通うという意見もありますが、かつて鉄道の切符が自動販売機に移行したとき、不愛想な駅員が切符を投げてよこすよりは画面に「ありがとうございます」と表示される機械の方が良いという意見がありました。
 最近では介護も問題が多発していますから、丁寧なロボットが対応してくれた方が安心で気分もいいという意見もあります。
 これに関連してロボットが期待されているのが、人間の相手をして心を癒してくれるという分野です。
 日本で開発されたタテゴトアザラシの子供の形をした「パロ」というロボットはギネスブックに世界一の癒しロボットとして記録されて世界中で使われていますし、最近では「パルロ」というダンスや会話のできるロボットも人気です。
 さらに昨年8月には国際宇宙ステーションに、日本が協力して製造した「KIROBO」というロボットが送り込まれています。
 これは「単身社会で起こる会話不足から発生する問題の緩和」を目指すために宇宙飛行士と会話をするロボットです。
 高齢者、一人暮らし、単身赴任、労働力不足が増加する先進諸国では、単純作業を代替するロボットではない、人工知能だけではなく人工感情も持った新しいロボットの時代が登場してきたのかも知れません。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.