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論文

 かなり以前から日本の森林と林業の抱える問題が指摘されています。
 2011年の国連食糧農業機関(FAO)の資料によると、世界の221の国と地域の国土面積あたり森林面積の比率を比較すると、日本は世界15位です。
 際立った順位ではないようですが、日本より上位の国は1位ミクロネシア連邦(92%)、2位スリナム(90%)、3位セイシェル(88%)など、すべて発展途上の小国で、先進工業国で最初に登場するのが日本(66%)なのです。
 日本に続く先進諸国は21位がフィンランド(65%)、24位がスウェーデン(63%)ですが、人口密度を比較してみると、日本の順位が異常ということが分かります。
 日本より上位の国々は平方キロメートルあたり1桁か2桁ですし、フィンランド16人、スウェーデン21人ですが、日本は343人です。

 そのような森林大国ですが、様々な問題を抱えています。
 第一の問題は木材の輸入大国ということです。
 住宅建設などに使用する製材用木材は50年前には100%自給していましたが、急速に比率が下がり、最近では40%以下ですし、パルプの原料のチップなどは95%から12%くらいまで低下しています。
 このような事態になった理由は、はるばる外国から運搬してきても、国産材よりも安いからという経済的理由です。

 その結果、第二の問題が日本の林業が成立しなくなるという問題です。
 日本の木材生産の金額は1980年が頂点で9674億円でしたが、2010年には1946億円と5分の1になってしまい、木材よりもシイタケなどの栽培の方が2189億円で多いという逆転まで発生しています。
 そして山林を20ヘクタール以上所有する比較的大規模な林業家の年間平均の収入は178万円ですが、経費が168万円かかり、所得は10万円しかないという経営状態となり、14万程度存在する林業経営者のうち、実際に木材を生産しているのは8%の1万強しかないという非常事態になっています。
 そのような衰退産業ですから、林業に就職する人は1965年の26万人から40年後には4万7000人になり、65歳以上の高齢者比率が4%から26%に増加するという状態です。 
 その結果、森林の価格が下がって外国資本に買収されるという問題や、山地の集落から人が撤退して限界集落が増加するなどの問題が発生しています。

 当然、対策が検討されていますが、第一が木質バイオマス発電でエネルギー資源として利用しようという戦略です。
 間伐材などをボイラーで燃やして発電する技術ですが、これまでは価格の問題でなかなか実現できませんでした。
 しかし、2012年から再生可能エネルギー固定価格買取制度が始まり、木質バイオマス発電の電気はキロワットアワーあたり34円56銭(消費税込み)で電力会社に売れることになりました。
 量的にも十分で、私の計算では北海道、岩手県、長野県など、人口の割には森林面積が広い地域では、家庭で消費する電気とガソリンの代わりに使用するエタノールは、森林の年間の成長量だけで賄えるという結果です。
 実際、岡山県真庭市では10メガワットの発電施設を建設中で、来年4月からは1万7000の全世帯の消費電力を発電する予定です。
 このような需要があれば、間伐も可能になり、林道も整備されますから森林が再生されることになります。

 第二は木材を建材として利用する技術開発です。
 日本は新規に建設される住宅の55%が木造住宅ですが、この用途だけではなく、オフィスビルなど大型の建物も木材で建設しようということです。
 今年、建築のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞した坂茂(ばんしげる)さんは、海上輸送の大型コンテナーを使った移動美術館や、紙の筒を使った教会など、珍しい材料を使った建物を設計していますが、昨年、坂さんが設計し、スイスのチューリッヒに完成したタメディアという会社の本社は7階建てですが木造の建物です。
 奈良の東大寺大仏殿などは12階建てに相当する高さ49mの木造建築ですが、現代では、そのような巨大な建物を建設する巨木は入手できません。

 そこで使われはじめたのがCLT(クロス・ラミネーテッド・ティンバー)という材料です。
 クロスは交差する、ラミネーテッドは貼り合わせる、ティンバーは木材ですから、木材の繊維の方向を縦横交互に貼り合わせた集成木材で、目的に応じて板状や柱状に成形することができます。
 これは北米やヨーロッパでは進んでおり、従来は2階建てまでであった規制が変更されて、イタリア、フランス、イギリス、オランダなどではスプリンクラー無しでも8階建てまで可能になり、それ以外のヨーロッパの国も5階建て以上は可能になりつつあります。
 実際、ウィーン郊外では面積7万平方メートルの木造のショッピングセンターが実現し、ロンドンでは1階は鉄筋コンクリートですが、2階から9階まではCLTの集合住宅も実現しています。
 ウィーン工科大学の教授は、1995年に2万立方メートルであったCLTの生産が2012年には20倍の40万立方メートルになり、2020年には75万立方メートルになると予測しています。
 これは青森県の年間の木材生産量に匹敵します。

 建築材料としては軽量で、耐震性も断熱性も高く、材料は間伐材でも利用できますし、設計図に合わせて工場で部材を生産できるために、現場の工事が簡単など数多くの利点があります。
 耐震性や耐火性も実物大の建物で実験されており、その結果、ヨーロッパではスプリンクラーなしでも8階まで許可されているわけです。
 日本では数社の企業が一昨年に日本CLT協会を設立、昨年7月には高知県が主導でCLT建築推進協議会が設立されており、農林水産省も規格を設定するなど、動きが活発になってきました。
 毎度のことながら、日本は出遅れていますが、やはり日本は森林が精神文化の骨格ですから、このような形で林業を再生し、それが国土を再生していく政策を推進することは重要だと思います。





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