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論文

 今日はXaaS(ザース)について紹介させていただこうと思います。
 それは何だと思われるかもしれませんが、MaaS(マース)であれば聞いたことがある方もおられると思います。
 このMaaSが日本で話題になったのは、昨年5月のトヨタ自動車の決算発表会で、豊田章男社長が「トヨタは自動車を作る会社からモビリティ・カンパニーにモデルチェンジすることを決断しました。それは世界中の人々の移動に関わるあらゆるサービスを提供する会社です」と宣言されました。
 この移動にかかわるサービスを、最近ではMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)と表現しているのです。

 なかなか想像しにくいかと思いますが、一例を紹介しましょう。
 私が自宅からバスで診療所まで行き、終わったら歩いて付近の調剤薬局に行って薬をもらい、そこから地下鉄でスーパーマーケットに行って買物をし、最後にはウーバーのようなライドシェアサービスで帰宅するとします。
 現在ではバスの時刻表や地下鉄の時刻表を自分で調べ、ライドシェアサービスも自分で予約する必要があります。
 ところがMaaSが利用できるようになると、何時に出発してどこに寄って何時に帰りたいというような希望を入力すれば、時刻表などを示し、ライドシェアサービスも予約し、自宅に戻れば料金は自動支払いで完結という仕組みが期待されます。
 それがMaaSですが、これからのモビリティを支配するのは自動車製造会社ではなく、グーグルやアップルなど情報企業になる可能性があり、豊田社長が危機感を持ってモデルチェンジすると言っておられる真意は、そこにあります。

 このMaaSの最初のMを置き換えた概念が次々と登場し、それらをまとめてXaaSと表現するようになったのです。
 まず登場するのは情報サービスの分野です。
 これまでは商店が販売データなどを分析して次の商品の仕入れを決めようとすると、コンピュータに表計算や分析用のソフトウェアを入れて、計算に必要なデータも、計算した答えもコンピュータの記憶装置に蓄えておくのが一般でした。
 しかし、そのような計算サービスを提供するXaaSがいくつも登場しています。
 このような分析を簡単に処理してくれるサービスがAaaS(アナリティクス・アズ・ア・サービス)で、Aは分析です。
 これは巨大な記憶装置のクラウドからソフトウェアや販売データを自分のコンピュータに移し、計算した結果はクラウドに保管しておくサービスです。
 本店と支店との間でテレビジョン会議をしようとすると、これまでは回線の設定など手間がかかりましたが、インターネットで簡単にテレビジョン会議を実施できるのがCaaS(コミュニケーション・アズ・ア・サービス)です。

 情報社会のマイナス部分を象徴するようなXaaSも登場してきました。
 例えばインターネットを利用して特定の相手を攻撃する仕事を代行するのはCaaS(クライムウェア・アズ・ア・サービス)で、クライムウェアは悪意のある行為をするソフトウェアです。
 インターネット上で詐欺行為を提供するFaaS(フラウド・アズ・ア・サービス)も登場し、フラウドは詐欺やインチキという意味です。
 日本製はないかと探してみると、ZaaSがありました。Zは残業で、残業・アズ・ア・サービスです(笑)。

 これは最近の流行ですが、すでに60年前に現在を見通したアイデアを提供した人物がいました。
 1960年代に『グーテンベルグ銀河系』『人間拡張の原理』などを著し、世界規模でメディア社会に影響を与えたカナダの英文学者マーシャル・マクルーハンが、当時のコンピュータ企業について、それらの企業はコンピュータという計算機械を生産することが仕事ではなく、計算というサービスを提供する会社になるべきだと言っています。
 現在の言葉で言えばCaaS(コンピューテーション・アズ・ア・サービス)を70年前に提言していたことになります。
 これをいち早く取り入れたIBMはコンピュータという機械を販売するのではなく、レンタルで計算能力を提供することにし、世界を制覇することになったのです。
 このマクルーハンの先見の明と、これから本格的に始まるXaaS時代とは大きな違いがあります。

 現在のMaaSは自動車を製造していた会社が自動車をレンタルで提供したり、サブスクリプションという定額料金で貸し出したりするという段階ですが、モビリティという言葉を広く解釈すれば、タクシーも路線バスも、さらには鉄道も飛行機も含まれます。
 例えば、私がニセコへスキーに行く場合、自宅からモノレールの駅までタクシーで移動し、モノレールで羽田空港へ行き、新千歳空港からはJR北海道で小樽を経由してニセコまで行き、駅でタクシーを捕まえるというモビリティが必要です。
 現在は自分でモノレールや飛行機やJR北海道の時刻表を調べ、利用する手段を予約する必要がありますし、列車とバスの接続がスムーズではない場合もあります。
 しかし、MaaSでは、出発地点、目的地点、移動手段などを指定すれば、最適の経路を選んで予約もしてくれることになります。

 MaaS先進国のシンガポールでは「モビリティX」というアプリケーションがあり、鉄道やバスの複数の経路、それぞれの時刻、料金を示してくれるので、利用したい手段を選び乗車すれば、支払いもスマートフォンで決済できるというサービスが実現しています。
 このようなサービスが実現するためには、現在では相互に関係のない航空会社、鉄道会社、タクシー会社などが情報を共有できる制度が必要です。   
 日本ではタクシー会社の反対などもあり、個人がウーバーで乗客を運ぶことが制約されていますし、複数の路線バス会社が同一の路線で運行していても、統合した時刻表がない場合もあります。
 日本がXaaS社会に進出するためには、そのような既存の規制をどのように緩和していくかが重要な課題になると思います。





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