TOPページへ論文ページへ
論文

 IT社会の真っ最中です。これが我々に便利さをもたらしていることは否定できませんが、数多くの問題ももたらしています。
 今日は、その問題を考えてみたいと思いますが、問題の主要な原因は情報通信技術の普及速度が、これまでの技術と比較して異常に早く、個人も社会も対応する余裕がないことではないかと思います。
 四輪自動車は現在、世界に約11億台普及しており、人口あたり15%しか普及していませんし、二輪車は約3億台ですから普及率は4%です。
 ところが通信技術は桁違いで、携帯電話は2012年で世界に約60億台普及しており人口の85%、そのうちスマートフォンは14億台で人口の20%、インターネットは25億人が利用しており35%に普及しています。

 これだけでも自動車とは比較にならない普及ですが、普及の速度を調べるとIT社会の特徴が理解できると思います。
 自動車は本格的に利用されはじめてから100年かかって15%に到達しています。
 ところが携帯電話は登場してから20年で人口の15%に普及し、インターネットはサービス開始から12年で15%を越えています。
 その利用も爆発的で電子メールは世界全体で1日5000億通ほどがやりとりされていますから、一人一日200通の計算になります。
 郵便物は世界平均で一人一日0・3通ですから桁違いです。
 メール以外に利用が多いのがフェイスブックやツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)といわれる利用方法で、フェイスブックで13億人、ツイッターで2億5000万人が参加していると推計され、それ以外のSNSも合計すると18億人になる勢いです。

 ここから様々な問題が登場するのですが、第一は些細なことも短時間で世界に情報が浸透し、良い面もありますが、悪い場合はホームページやブログが「炎上」する事態になることです。
 最近では超スローボール問題がありました。
 一昨日行われた全国高校野球選手権の2回戦で東海大学付属第四高等学校は負けてしまいましたが、その西嶋亮太投手がスピードガンでは計測できない時速50kmほどの超スローボールを投げたところ、ある元アナウンサーがツイッターで「こういうことをやっていると、世の中をなめた少年になっていきそうな気がする」と批判しました。
 そうすると多数の反対意見が殺到して発言者のツイッターが炎上し、メジャーリーグでも一試合に一球ほど超スローカーブを投げているダルビッシュ投手までがアメリカから反論し、ついにはアメリカの新聞が取り上げるほどの話題になりました。
 結局、発言者が発言を削除し「使う言葉を決定的に間違えました」と謝罪して何とか治まりましたが、一人の発言が短期間で世界中に伝播してしまうという時代になってきたのです。

 このような炎上は芸能人のツイッターなどでは頻発していますし、企業の製品などで風評被害が発生すれば、会社の存亡にも影響します。
 そこで最近では「炎上保険」まで登場し、契約すると個人や企業についてネガティブな情報が発生していないかを24時間監視して毎週1回報告書を送り、発見した場合には対策を検討し、別料金で対策を実施してくれるというサービスです。

 第二の問題は情報の流出です。
 最近ではベネッセの会員情報の流出が規模でも影響でも群れを抜いていますが、この問題も頻繁に発生しています。
 この問題の深刻なことは、文書であれば取り戻すことができる場合もありますし、大量の情報であれば簡単に複写もできませんが、デジタル情報は膨大な情報を短時間で複写できますし、ネットワークに流れてしまえば、ほぼ回収は不可能になってしまうことです。
 さらに昨年発生したスノーデン事件が象徴するように、国家組織で盗聴が行われている現実の一部も明らかになりました。
 これはリアルタイムの電話の通話内容や電子メールのやり取りだけではなく、現在、携帯電話の交信記録、インターネットでのショッピング記録、ウェブサイトの閲覧状況などは相当期間記録されていますので、それらの記録が保管されているサーバーの情報も盗み見していることが明らかになり、世界に衝撃をもたらしました。
 現在では有線でも無線でも電気通信システムで情報をやり取りすれば、すべて記録され、場合によっては盗聴されるという時代になってしまったということです。 

 これも恐ろしいことですが、さらなる大問題が懸念されています。
 今年8月にアメリカのラスベガスで開かれた世界のハッカーが集まる情報セキュリティの国際会議デフコン(DefCon)で、自動運転車両が外部からの無線で操縦されてしまう危険があるというスパイ映画の場面のような話題が明らかにされました。
 世界の自動車会社のみならず、グーグルのような情報関係会社も自動運転車両の開発に努力し、自動的に衝突を回避できることなどを宣伝していますが、外部から操られてしまえば、大変な事態が予想されます。

 自動運転車だけではなく、これからはロボットの市場が急速に拡大すると期待され、経済産業省は現在1兆円程度の産業が、2035年には10兆円産業になり、そのなかでも圧倒的に需要が増加するのがサービス分野で、現在の1500億円から20年後には5兆円と30倍以上になると推定しています。
 このサービス分野の重要な仕事は高齢者の介護や自立支援です。
 歩行が困難な人をロボットが抱えて移動させるとか、手が不自由な人に食事を食べさせてあげるような分野ですが、そのようなロボットがハッキングされれば、特定のロボットを操縦して抱えている人を落としたり、殺してしまうというようなことさえ可能になります。

 ディズニーのアニメーション映画「ファンタジア」の中にミッキーマウスが登場する「魔法使いの弟子」という短編があります。
 ゲーテの詩をもとにフランスの作曲家ポール・デュカスが作曲した音楽を背景にした内容ですが、見習いの魔法使いが命令された水汲みの仕事を箒に魔法をかけてさせるのですが、まだ魔法の解き方を覚えていないために洪水になってしまうという物語です。
 現代の情報社会は問題の解決法を考える以前に技術だけが急速に発展していってしまい、危機に直面している側面もあるのではないかと心配します。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.