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論文

 先週、予備校の代々木ゼミナールが全国27カ所にある拠点のうち20カ所を来年3月一杯で閉鎖し、東京、札幌、名古屋、大阪、福岡など大都市にある7カ所だけに縮小すると発表しました。
 1957年に創立されて以来、拡大を重ね、ベ平連代表の小田実(おだまこと)、衆議院議員にも当選した林省之介など有名講師を輩出し、2007年には26階建ての「代ゼミのオベリスク」と言われる高層建物さえ建設した名門予備校も、60年足らずで縮小することになりました。
 理由は少子化の影響で、それほど熱心に試験勉強をしなくても大学に合格できるようになったこと、情報技術の進歩によってオンラインで授業が受けられるようになったことなどが挙げられます。
 しかし、この少子化、情報化の影響は教育分野だけではなく、様々な職業に栄枯盛衰をもたらすと予想されます。
 2011年、デューク大学のキャシー・デビドソンは「現在の子供が大人になったとき、65%は現在存在しない職業に就く」と語り、2012年にイスタンブールで開かれた国際会議で、未来学者のトーマス・フレイが「これから数十年で、地球上のすべての仕事の50%に相当する20億人分の仕事がなくなる」と発言しています。
 またオックスフォード大学は2013年に「雇用の将来」という報告書を発表し、702の職業について消滅する可能性の順位を示しています。

 本当に、そのような事態が発生するかと疑問視されるかも知れませんが、過去を眺めてみれば納得できます。
 1920年に日本で最初に実施された国勢調査で、国民が申告した職業は約3万5000種あったそうですが、そのうち約1500種を解説した『近代日本職業事典』を調べると、現在は消えてしまった職業が多数あります。
 例えば、電話交換手は明治時代には人力車で送り迎えされるほど、良家の子女が就職する花形職業でしたが、次第に自動交換になり、1979年に全国が自動交換になるとともに消滅しました。
 明治30年代に輸入された映画は初期には無声映画で、それに台詞をつける弁士として大辻司郎、徳川夢声など有名人が誕生しましたが、昭和になってトーキーが発明されると、急速に消滅しました。
 私の子供時代には、時々、鋳掛屋という職人が巡回してきて、穴の空いた鍋や釜の修理をしてくれましたが、モノの豊かな時代になって昭和30年代後半には消滅しました。

 このような盛衰を統計的に証明したのがイギリスの経済学者コーリン・クラークです。
 過去の産業分野ごとの就業者数を調査し、1941年に「国家が発展していくと、産業の中心は一次産業から二次産業、さらに三次産業に中心が移行していく」という「ペティ=クラークの法則」を発表しています。
 例えば日本では、1920年に54%であった一次産業の就業者比率は2010年には4%になり、二次産業は21%から最大の34%を経て現在では24%に縮小し、三次産業が24%から67%まで増加し、この法則が妥当であることを証明しています。
 当然、縮小した一次産業や二次産業では多くの職業が消滅したことになりますが、代々木ゼミナールが象徴しているのは、先進諸国では7割の人々が働いている三次産業の中でさえ淘汰が始まるということです。

 最近の興味ある事例をいくつか紹介してみたいと思います。
 昨日、この時間に出演された森田正光さんの職業は気象予報士です。
 これは1994年から登場した国家資格の職業ですが、毎年200人から300人が試験に合格して、これまでに9000人ほどが誕生し、テレビジョンに登場して人気者になった予報士も数多く誕生しています。
 ところがここ数年は受験者数が減少傾向で、合格者数も150人前後になっています。就職難になりつつあるからです。
 もちろん人数が増えたということも影響していますが、インターネットでレーダー雨量計の情報がリアルタイムで見ることができるし、予報も見ることができるようになり、決まった時間にしか放送されない天気予報の番組の意味が薄れてきたことが影響しています。

 テレビジョンの花形職業は女子アナウンサーですが、現在、お台場にある日本科学未来館に石黒浩さんが製作した人間そっくりのロボット、アンドロイドが展示されています。
 その中の一体はニュースを読み上げることのできるアンドロイド・アナウンサーですが、世界各国の言語を色々な声色で自由自在に読み上げ、しかも24時間365日、休み無く働くこともできます。
 時々、読み間違え、働く時間も限られている人間のアナウンサーと比較して、どちらが良いかは微妙な問題になってきます。
 機械では当意即妙の対応ができないと思われるかもしれませんが、最近の人工知能は急速に進歩しており、アメリカの最高に難しいクイズ番組で人間の優勝者に勝つほどの能力をもつコンピュータが登場していますから、そのコンピュータをアンドロイドに接続すれば、強力無比のアナウンサーが登場することになります。
 やや先のことかも知れませんが、自動操縦車が普及すればタクシーの運転手も不要になるかもしれません。

 このような流動的な社会を見ると、これから就職を控えている若い人々はどのような職業を選んだらいいか分からなくなるかも知れません。
 そこで2つのヒントを差し上げたいと思います。
 私が大学教授時代、就職担当を2年間したことがありますが、学生の希望が集中する業種は、前年までの業績が伸びている分野でした。
 丁度、その時期、企業の全盛期は30年という見解が話題になっていました。つまり、頂点の企業を目指せば15年もすると全盛ではなくなるということになり、中堅幹部になった頃には苦労するということになります。

 そこで第一の視点は現在、全盛期の産業分野は目指さないということです。
 第二はコモディティにならない職業を探すということです。
 コモディティとは同種の製品で、メーカーによる差異がなくなった商品のことを言います。
 職業についても、同業のどの企業に就職しても差異がない場合を職業のコモディティと言って良いと思います。
 もちろん転職して次々と新しい職業に就く能力があれば、どのような職業を選択しても問題ありませんが、その自信がない場合は、コモディティにならない職業で、現在はまだ全盛ではない分野を探し出すことが肝要だということです。





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