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論文

 このところ地方議会議員に関連する事件が数多く発生しています。
 人口3万5000人の青森県平川市では今年1月の市長選挙で、現職であった市長と元県議会議長が立候補したのですが、その選挙で両派に分かれた市議会議員の大半が買収に関与したという理由で、2月に5人の市議会議員が逮捕されて以来、次々と逮捕され、最終的には15人が逮捕されるという事件になりました。
 市議会議員の定数は20人ですから4分の3が逮捕されたことになり、議会を開催できる定足数10人に足りなくなるという異常事態になりました。
 以前から「津軽選挙」という言葉があり、買収が横行していた地域ではあるにしても、異常事態でした。

 号泣で有名になった兵庫県議会議員の事件もありました。
 記者会見も異常でしたが、政務活動費で県内に日帰り出張を195回行ったということや、大量に切手を購入していたことが明らかになり、しかもかなりは領収書がないということでした。
 別の兵庫県議会議員にも3年前に提出した政務活動費の領収書が偽造されたものだという疑惑が最近になり発生しています。
 それ以外にも政務活動費は問題が多く、7月には愛知県議会議員が本人の行うべき海外視察を知人の女性に依頼し、その費用として政務活動費から73万円を支出していたことが発覚し、さらに3年前の東日本大震災のときにも被害調査を同じ女性に150万円で委託していたことも明らかになりました。

 東京都議会では女性議員の質問中に発せられた品位のない野次が問題になったうえ、先月には、このような問題を含めて検討するために設けられた男女共同参画社会推進議員連盟の会長に就任した都議会議員が「平場であれば自分も同じようなことを言う」と発言し、火に油を注ぐような事件もありました。
 山口市では市議会議員が約2000円の商品を万引きして逮捕されたうえ、取り調べで山口県警が尿検査をしたところ覚醒剤の陽性反応が出たほか、自宅や事務所でも注射器が発見されるという事件もありました。
 この議員は今年4月に当選したのですが、初議会となる6月の定例議会は体調不良で1回も出席していなかったそうです。
 かつて国会での質問で「疑惑のデパート」という名文句が発せられたことがありますが、地方議会にも当てはまるのが現状です。

 このような問題を抱える地方議会ですが、別の深刻な問題も発生しています。議員のなり手が不足しているという問題です。
 平成の市町村大合併の直後には、合併した各自治体の議員の任期を最長で2年間延長するという在任特例のため、市区町村議会議員の合計人数が一時的に増えたことがありますが、その期間が終了した現在は大きく減少しました。
 朝日新聞の調査によると、平成の市町村大合併がほぼ終了した2002年末には定数の合計が5万9224人でしたが、昨年末には3万1741人と46%も減少しています。
 地方議員選挙は厳しい戦いになっていると想像されますが、意外にも無投票選挙、すなわち、立候補者が定員と同じか以下の地方公共団体が2割近くあるというのが現実です。

 この原因は、あらかじめ地区毎に候補者を調整してしまう日本特有の慣行も影響していますが、それほど報酬が得られないので、現在の仕事を辞めてまで応募するのは個人にとって経済的な負担が大きいということが影響しています。
 現在、日本の市議会議員の月額報酬平均は約41万円、町村議員は21万円で、収入だけから考えれば、それほど恵まれた職業とはいえないと思います。
 その結果、年金生活の高齢者の名誉職的な仕事になっていたり、兼業が可能なので実業家が思惑をもって立候補するという事態になっている側面もあります。

 地方自治法第2条14項に「地方公共団体は最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」と書いてあるので、それを背景に登場した第一の意見が立候補する住民も少ないのであれば定数を減らしたらどうかということです。
 2011年の地方自治法の改正により、現在、地方議会の議員定数には制限が設けられていませんが、財政の逼迫している地方公共団体の財政改善にも役立つから人数を減らそうというわけです。
 ところが、日本の人口あたりの地方議会議員は国際的に比較して、決して多くはないのです。人口100万人あたり、日本は500人ですが、スイスは7571人、ドイツ2500人、スウェーデン1608人、フランス866人、アメリカ586人となっており、日本はスイスの15分の1程度でしかありません。

 ところが、これらの数字にはカラクリがあるのです。
 スイスやスウェーデンやフランスの地方議会議員は大半が無報酬か日当が支払われる程度なので、人数が多くても財政には負担が少ないのです。
 そこで第二の意見は報酬を毎月定額支払うのではなく、議会の会期だけ日当で支払ったら良いのではないかという意見です。
 日本の都道府県議会の会期日数は平均84日、市議会は81日、町村議会は38日ですから、毎月給料として支払うのはどうかということです。
 それでは、立候補する人はさらに減ってしまうのではないかと心配になりますが、議会を夜間に開くというナイター議会、休日に開くサンデー議会にすれば、自分の仕事を続けながら議員の仕事もできるので、生活する地域の将来に関心のある人々が立候補する可能性があります。
 実際にスウェーデンやフィンランドでは定数の何倍もの応募者があり、2000年の数字ですが、フィンランドの首都ヘルシンキの市議会議員選挙では85人の定数に対して800人以上が立候補しています。

 ナイター議会やサンデー議会のもう一つの効用は関心のある住民が容易に傍聴できることです。
 CATVのある地域で議会の中継をすると視聴率は高く、あるコミュニティFM局が議会中継をしたときには聴取率が80%近くになったという事例もあり、休日や夜間に開かれれば傍聴して、居眠りしている議員や会期中一度も質問しない議員を監視することも可能です。
 住民の多くが選挙のときにしか議員に関心を向けず、当選後の地元議員には冠婚葬祭に出席してもらうこと程度しか関心を示さないのが、最初に御紹介した異常な事態の発生にも影響しています。
 一部には不要論さえ登場している地方議会が本来の役割を発揮するためには住民が関心を持つことのできる制度に変更していくことが必要だと思います。





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