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論文

 最近「エシカル」という形容詞がつく活動が静かな話題になりつつあります。
 例えば、エシカル・コンシューミング、エシカル・インベスティメント、エシカル・ファンドなどと使われていす。
 これはエシックス(倫理学)と関係のある言葉で、倫理的な消費、倫理的な投資、倫理的な基金という意味ですが、具体的には社会や環境に配慮した個人や企業の行動を意味しています。
 例えば、エシカル・コンシューミングは「エコバッグを使う」というような行動や、「環境や社会に配慮して製造された商品を購入する」という行動をすることですし、エシカル・インベストメントは年金基金などが投資をするときに、利益が出るという基準だけではなく、投資相手の企業が環境や社会に貢献しているかどうかを判断して投資することを意味します。

 このような社会の傾向を反映して、商品にも「エシカル・ジュエリー」「エシカル・コスメティック」「エシカル・ファッション」などが登場しています。
 過酷な労働条件で採掘されていたり、自然環境を破壊して採掘されているような宝石を使用しないで製造された宝飾品は「エシカル・ジュエリー」、実験動物で効果を実験していない化粧品は「エシカル・コスメティック」、適正な価格で取引されている天然素材を使用し、発展途上国で子供などを酷使して製造していない衣服は「エシカル・ファッション」という次第です。
 これらを総合した「エシカル・ウェディング」も登場しています。ドレスは「エシカル・ファッション」、指輪は「エシカル・ジュエリー」、食事や引き出物は「エシカル・プロダクト」となります。

 さらに最近では、より広く使用されるようになり、「エシカル・ハッカー」「エシカル・ヒーロー」「エシカル・ビューティ」など、人間の行動を評価する言葉としても使われています。
 例えば、エシカル・ハッカーは盗聴やサーバー攻撃のために高度な技術を使うのではなく、そのような行動を防ぐために活動するコンピュータ技術者を表し、エシカル・ビューティは整形や高額の衣服などによって美しくなっているのではなく、素材も装いも環境に配慮している人々を示しています。
 このような行動を個人の範囲に留めないで、エシカル・プロダクトを購入すると、その代金の一部を環境保護に寄付するとか、ある化粧品は売上全額を発展途上国の恵まれない人々に送るという活動にまで発展しています。

 このような活動の先駆けはイギリスの主婦アニタ・ロディックが1976年に創業し、現在では世界に2000店以上を展開している「ザ・ボディショップ」とされています。
 ここは天然素材のみを使用した化粧品を製造販売していますが、素材を発展途上国などから購入するときに、会社の都合ではなく販売する相手の都合で値段を決めるというフェアトレードを早い時期から始めた会社としても有名です。
 その精神は会社の5つの企業理念に明確に示されています。
  1)動物実験に反対
  2)公正な取引で地域社会を支援
  3)自分らしい生き方を推進
  4)人権を擁護
  5)地球環境を守る
 まさに現在の倫理的消費や倫理的企業の先駆といえます。

 このような動きが静かに広がりはじめたのは、最近の利益本意の資本主義経済の行き過ぎが社会に問題をもたらしているという認識があります。
 現在、アベノミクスの一環で法人税の引き下げが議論されています。
 数字だけで比較すると、確かに日本の法人税は先進諸国の中でもっとも高率で、カナダの1・6倍、ドイツの1・3倍、フランスの1・2倍です。
 ところが中央大学の富岡幸雄(ゆきお)名誉教授が書かれた『税金を払わない巨大企業』(文春新書)によると、2013年3月期から2014年3月期までの法人税の支払について、三井住友FGは税引後純利益が3370億円に対して法人税は600万円しか支払っておらず,実効税負担率は0・001%、ソフトバンクは3173億円に対して1000万円で0・003%、みずほFGは5236億円に対して5億1400万円で0・097%です。
 これらは脱税しているわけではなく、合法的な手段で節税しているということになりますが、エシカル・カンパニーとは程遠い実態です。

 このような傾向に反応しているのがノーベル経済学賞です。
 1997年にはマイロン・ショールズとロバート・マートンというデリバティブというバブル経済を加速した理論を発明したアメリカの経済学者に与えたりしていたこともありますが、翌年には飢饉の分析や厚生経済学に貢献したアメリカ在住のインドの経済学者アルマティア・センに与えています。
 センは『経済学と倫理学』という本で、経済に倫理を導入すべきと言っています。その見解に基づいて国際連合開発計画は人間開発指数を開発して、世界の生活環境を比較しています。
 今年受賞したフランスの経済学者ジャン・ティロールも、少数の大企業が市場を独占や寡占する現実を規制して、消費者の利益を守る制度の研究を評価されたものです。

 3週間前に御紹介した、コンピュータと高速通信回線を駆使して株式の売買をして儲ける超高速株取引(HFT)が象徴するような金儲け一直線の社会を見直そうという、一種の反動がエシカルに集約されているのではないかと思います。
 このような企業倫理は、かつては日本の社会に根付いていました。
 近江商人の心得である「三方よし」は、売手、買手だけではなく、世間も恩恵を受けることが商売の秘訣であることを示した言葉ですが、まさに企業倫理を説いた内容でした。
 茂木家の家憲の「徳義は本なり、財は末なり」で、徳義を倫理と理解すれば、金儲けよりも倫理が第一という意味ですが、これも同様です。
 そのような伝統をもつ日本の企業理念でしたが、最近は金儲け第一の企業が目立つようになっています。
 ぜひエシカルに対応する企業が活躍する時代を日本が先導することを期待したいと思います。





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