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論文

 ジェネリック医薬品といわれる薬があります。
 ジェネリックとはジェネラルと同じ語源で「一般的な」とか、さらに進んで「ブランドに囚われない」という意味で,ジェネリック・テクノロジーというと、様々な製品を開発するときに基礎となるメッキ技術や金型技術や計測技術を意味しますし、ジェネリック・プログラミングというと、どのようなデータの形式であっても処理できるコンピュータ・プログラムの方法を意味します。
 医薬品の場合、特許の有効期限が切れた医薬品を製薬会社が製造して、安く供給しているものを示します。
 やや詳しく説明しますと、医薬品には、有効成分についての「物質特許」、製造方法についての「製法特許」、効能効果についての「用途特許」、用法や用量についての「製剤特許」がありますが、最初の物質特許の有効期限が切れた医薬品を特許に縛られずに製造して供給しているものをジェネリック医薬品と言います。

 ところが最近、医薬品だけではなく、色々な分野にジェネリック製品が登場してきました。
 身近なところでは、複写機で使用されるトナーやコンピュータのプリンターのインクなどについて、純正品が高いので、純正品の容器を回収し、そこにトナーやインクを詰め替えたリサイクルトナーとかリサイクルインクといわれるジェネリック製品が発売されており、コンピュータショップなどに行くと数多くの製品が並んでいます。

 家具についても、ジェネリック家具が販売されています。
 デザイナーが設計したデザイナーズ家具といわれる商品について、日本では意匠権は特許権と同様に20年間が有効期限のため、それが切れた以後に生産される同じような形状の家具のことです。
 ジェネリック家庭電化製品も数多く登場しはじめました。
 大手家電メーカーの下請けなどをしていた中小企業が、一般の家庭電化製品よりも機能を減らし、一世代前の安価な部品を使用して、場合によっては海外の企業に委託生産した製品を示します。
 例えば、テレビジョン受像機では地上デジタル放送のみでBS放送やCS放送は見ることの出来ない製品、扇風機では風の強さが強中弱の3段階のみの製品、温める機能しか備えていない電子レンジなどがあります。
 最近はあまり使用しない機能を数多く揃えた過剰機能の商品が多いので、一人暮らしの学生や高齢者に人気があるようです。

 なぜジェネリック商品が登場し、注目されているかにはいくつかの理由がありますが、第一は当然、安いということです。
 ミース・ファンデル・ローエという20世紀を代表する建築家が設計した「バルセロナ・チェア」という椅子があります。
 正規の製品の値段は、日本で購入すると58万8000円ですが、ジェネリック家具であれば6万9300円と8分の1程度です。
 もちろん本物は背中のクッションの曲線が微妙で、流石に本物という雰囲気がありますが、もう少し高級な25万2000円のジェネリック家具であれば、普通の人には見分けがつかないほど本物に似ています。
 やはりデンマークの建築家のアルネ・ヤコブセンが設計した、身体がすっぽり包まれるような形をした「エッグチェア」も本物は64万7850円ですが、ジェネリック家具であれば3万98900円と16分の1です。
 これも本物の風格には及びませんので、少々近付けたいと思えば17万1600円のジェネリック製品もあります。
 家庭電化製品についても、風力が強中弱の3段階しかない扇風機は通信販売のみですが、税込みで3390円という信じられない値段です。
 除湿器についても,好みの湿度を設定できる製品が8600円程度で販売されています。

 日本は世界有数の経済格差の小さい社会で、格差を示すジニ係数はデンマークやスウェーデンと並んで世界最小ですが、それでも国税庁の調査によると、1998年には32%であった年収300万円未満の人数は2008年には40%近くまで増え、日本国内だけでは格差は拡大方向にあります。
 したがって、高級品だけではない多様な製品があることは、個人にとってありがたいことですが、ジェネリック医薬品の場合は国家にとっても重要な製品なのです。

 ジェネリック医薬品は薬代を減らしますから個人にとっても恩恵があり、ある診療所によると、花粉症の薬を1ヶ月処方してもらう場合、正規の薬とジェネリック薬品の差は6900円程度減り、個人負担も1250円程度減ると報告されていますが、これが国全体となると相当の額になります。
 昨年のOECDの調査によると、ヨーロッパでは相当に普及しており、ドイツでは数量で76%以上、 金額で35%、イギリスでは75%と28%、デンマークでは72%と25%と浸透していますが、日本では数量では薬品全体の23%、金額では9%にしか過ぎません。
 日本の公的保健財政は医療費の増大により維持が困難な状態に直面しており、総医療費は40兆円弱でGDPの8%にもなっていますが、10年後には50兆円になるという予測もあります。
 そのうち医師が調剤する医薬品の費用は16%の6兆円になっており、ジェネリック医薬品に転換可能な部分を最大限転換していけば、総医療費を7%、4000億円以上減らすことが可能と推定されています。
 疑問となるのは新しい薬を開発するのには300億円以上がかかり、研究開発期間も10年以上かかるものが少なくありません。
 そのような企業の努力は特許を申請してから20年間しか独占できませんから、製薬会社にとって報われないと思われるかもしれません。
 しかし、特許制度の成立には、人類に役立つ発明が独占できなければ人々が発明の努力をしない一方、長期間の独占期間を認めれば、その成果が社会に普及しないという両方の観点のバランスを取って一定期間にしたという背景があります。
 したがって、人間の健康や命に重要な関係のある医薬品は、その精神で社会が維持すべきであり、ジェネリック医薬品を推進すべきであると思います。





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