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論文

 今日は最近話題のキューバについて御紹介したいと思います。
 昨年12月17日にアメリカのオバマ大統領がキューバとの国交正常化交渉を始めると発表し、同時にキューバのラウル・カストロ国家評議会議長も同様の発表をし、世界の話題になりました。
 キューバについて多くの日本人の知識は最高級品では1本で1万円以上する葉巻(シガー)やハバネラやサルサに代表される音楽程度ですが、アメリカにとっては重要な意味のある国です。
 キューバは東西1200km、南北平均80kmの細長い島で、面積は北海道と青森、秋田、岩手の東北三県を合計した程度です。
 古くから先住民族が生活していたのですが、西欧人の視点からは1492年にコロンブスが発見した島ということになっています。
 そのような経緯で長年スペインの植民地でしたが、1898年のアメリカ・スペイン戦争でスペインが敗れたため、フィリピン、グアム、キューバがアメリカに割譲され、アメリカはキューバを文明化するという名目で実質的に保護国として1902年に独立させます。
 そのときアメリカが独立の条件としてキューバから永久租借した土地が島の東端にあるグアンタナモ湾で、アメリカ海軍基地があり、そこにアフガニスタンやイラクの囚人を収容している悪名高いグアンタナモ収容所があります。

 キューバは「アメリカの喉元に突きつけられたナイフ」と表現されることがあるように、フロリダ半島の先端からキューバのもっとも近い地点まで200kmくらいしかなく,アメリカの安全保障にとっては重要な場所だからです。
 そこでアメリカはキューバで権力を持っていたフルヘンシオ・バティスタを大統領とする傀儡政権を作りますが、1956年からフィデル・カストロ、その弟で現在の国家評議会議長ラウル・カストロ、そして日本でも人気のあったチェ・ゲバラなどがゲリラ戦争を開始し、ついに1959年に革命政権が成立します。
 アメリカの大地主を排除して農地改革をし、アメリカの企業を国有化した革命政府をアメリカが敵視したため、革命政府は社会主義宣言をし、ソビエトや東欧諸国と接近します。

 そこでケネディ大統領が1962年2月に経済封鎖を宣言したわけですから、今回のオバマ大統領の政策は52年ぶりの大変化となります。
 経済封鎖の直後の10月に、世界を震撼させた核戦争の危機が発生します。
 ソビエトがキューバにミサイル基地を建設し、船でミサイルを搬入しようとしたことが発覚し、一発触発の事態が発生したのです。
 これはケビン・コスナー主演の『13デイズ』という映画にもなっている「キューバ危機」ですが、一歩間違えば、アメリカとロシアが核弾頭を打ち合うという事態になりかねない状況でした。
 その極度の緊張を13日間の努力で解決するのですが、それまでアメリカから輸入する食料や商品で生活していたキューバは生活が成立しなくなります。
 当面はソビエトの支援で必需物資は供給されていましたが、それまでアメリカの政策でサトウキビしか生産しないモノカルチャー経済になっていましたから、小麦は100%輸入、豆は99%、コメは50%、バターは64%、魚でさえ44%が輸入という状態で、輸入先がアメリカからソビエトに代わったというだけの状態でした。

 ところが1991年にソビエト連邦崩壊という大問題が発生します。
 ソビエトとアメリカ以外から輸入すればいいのではないかと思われるかも知れませんが、アメリカが経済封鎖をしている国に他の自由主義諸国がモノを売るわけにはいかないということです。
 実際、アメリカは1996年にヘルムズ・バートン法を制定し、それを根拠にヨーロッパの企業に「キューバと商取引をすれば、アメリカから報復を受けるだろう」と警告していたという事実があります。

 そこでフィデル・カストロが立ち上がり、国民に「コメの備蓄はゼロ、豆は必要な量の50%、植物油は16%、バターは47%、粉ミルクは22%しか備蓄がない」という実態を知らせます。
 実際にソビエト崩壊以前は国民の37%が太り過ぎだったのですが、1994年には国民全体が9キロも体重が減るという状態になり、健康には良かったかも知れません(笑)。
 そこで始まったのが自給作戦です。まず空地は国有地であっても耕作をする人に貸出すことにし、あらゆる空地を農地に変えていきました。
 首都ハバナの官庁街の中庭さえ畑になったのです。
 余談ですが、困ればどこでも同じことをするという証拠写真があります。
 日本も終戦直後は大変な食料難でしたが、国家議事堂の周囲が畑になっていたのです。
 これによって人口200万人の首都ハバナの土地の4割が農地になり、野菜は100%自給になり、しかも化学肥料が輸入できないため、すべて有機栽培野菜になるというおまけまでつきました。

 薬品も経済制裁で輸入できないため、同じ社会主義の中国から漢方の医師を招き空地で薬草を栽培し、薬品の2割を漢方薬にしました。
 キューバの一人あたりGDPは世界89位ですが、医療体制は進んでおり、医師一人あたりの国民の人数は156人で世界1位、現在、日本が推進しようとしているホームドクター制を以前から実現しています。
 参考までに日本は476人に医師1人で世界の35番目です。
 医療技術も高度で、チェルノブイリ原発事故で被爆した子供たちの多数がキューバで治療を受けています。

 今回の発表でラウル・カストロは社会主義体制を変えないと明言していますし、アメリカは経済制裁を解除するとは言っていませんので、今後の展開は明瞭ではありませんが、キューバはニカラグア、ベネズエラ、エクアドル、ボリビアなど左翼政権の国々に影響力をもっているので、今後が注目される交渉です。
 キューバの殺人事件の発生件数は10万人あたり4.2件で、日本の0.3件に比べれば危険な国ですが、218の国や地域の順位では多い方から117番目ですから安全な方です。
 キューバは30日以内の観光目的の滞在にはビザが不要ですが、現状で唯一面倒な点はアメリカ経由では渡航できないので、メキシコなどを経由する必要があることです。
 しかし、キューバは外貨獲得の目的で観光に力を入れていますから、この半世紀ぶりの転換の時期に訪れる価値はあるかも知れません。





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