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論文

 昨年5月、アメリカのワシントン大学の研究所が世界の肥満について調査した結果を発表しました。
 肥満の判定に使われたのが「BMI(ボディ・マス・インデックス)」で、日本語では「体格指数」と言われます。
 計算は体重をキログラム、身長をメートルで表し、身長の2乗で体重を割った値です。
 例えば身長が170cm、体重が70kgの場合、1・7の2乗=2・89で70を割りますから24・2がBMIの数値になります。
 これはすでに180年前の1835年にベルギーの学者アドルフ・ケトレーが身長と体重の適正な関係を示すために工夫した指標ですが、1980年代に体脂肪率と相関関係が高いということが明らかになり、最近では肥満度を表す指数として利用されるようになっています。

 ワシントン大学は世界188カ国を対象にし、BMIの数値が30以上の人間を肥満と定義して計算したところ、6億7100万人になったのですが、肥満予備軍ともいえるBMIが30未満で25以上の人間も含めると21億人になり、現在の人類の30%になります。
 しかも6億7100万人の半分3億4000万人は10カ国に集中し、1位がアメリカで8690万人、2位が中国で6200万人、3位はインドが4040万人で,以下、ロシア、ブラジル,メキシコなどが続きます。
 当然、中国やインドのように人口が多く国は肥満も多くなりますから、人口に対する比率を計算すると、1位はアメリカで36%、2位がメキシコで30%、以下、ハンガリーが29%、ニュージーランドが28%などになります。

 日本は3.5%で先進国では最低ですから、ひとまず安心ですが、日本肥満学会ではBMIが25以上になると生活習慣病などになる割合が急増するということで、25以上を肥満として扱っています。
 そうすると女性はスタイルを気にする傾向にあるので、過去35年間、22%前後で安定していますが、男性は1976年の15%から2011年には30%と倍増しており問題とされています。

 このような状況の何が問題かというと、まず個人としては病気になって賃金が減る、治療費が増える、自動車のガソリン代が嵩むなでの経済的な損失が発生し、アメリカでは、BMIが30以上の肥満の人は肥満ではない人に比べて男性で年間2646ドル、女性で4879ドル余分に生活費用がかかるという計算もされています。
 これらの人々がBMI25以上30未満の肥満予備軍になるだけで、損失は女性で524ドル、男性で432ドルに減りますから、やはり肥満は損だということになります。
 それらを合計すると社会の損失にもなり、医療費の増加や病気になって仕事ができないための損失などを合計すると世界全体で年間220兆円にもなるという計算があります。
 これは世界の武力紛争で発生する損失230兆円に匹敵しますから、世界全体としては大問題です。

 そこで肥満を解消するダイエットが登場します。
 ダイエットは日本では健康法や体重を減らす方法のように理解されていますが、本来は「食事」の意味ですから、食生活によって健康になるという意味です。
 これについては様々な方法が提案されており、まず寒天ダイエット、トウガンダイエット、キャベツダイエット、玄米ダイエット、こんにゃくダイエット、おからダイエット、チョコレートダイエットなど食事を対象にするダイエット本来のものがあります。
 また水泳ダイエット、バランスボールダイエット、ウォーキングダイエット、骨盤矯正ダイエット、半身浴ダイエットなど運動を対象にするものもあります。

 今日は最後に「パレオダイエット」という興味深い方法を紹介したいと思います。
 「パレオ」というのはギリシャ語が語源の接頭辞で「古い」「原始的」というような意味で使われます。
 ここでは「パレオ・リシック」すなわち「旧石器時代」という言葉の前半を取ったものです。
 そこで「パレオダイエット」は旧石器時代の人間が食べていた食べ物を食べるのがもっとも健康に良いという考え方です。
 旧石器時代は農業や牧畜が発明される前の時代で、主要な食べ物は野生の動物の肉や魚、天然の木の実や果物でしたから、それらを食べ、農業を発明して以後のムギやコメや大豆などの栽培種は食べないという食事法です。
 それだけではなく、食事の時間も現在のように朝・昼・晩と決まった時間に食べていた訳ではないので、お腹が空いたら食べる。
 生活時間も暗くなったら寝て、明るくなったら起きていましたから、同じように睡眠時間を十分にとる。
 減量や健康のために運動をするのは止めて、狩猟のときに動物を追いかけていたように、短時間、激しい運動を時々する、という旧石器時代の生活を真似するというものです。

 その根拠は、最初の人類の祖先である猿人は600万年ほど前に登場しましたが、その子孫が農業を発明したのは1万年前です。
 したがって人類の歴史の99・8%の時間は、いまご説明をしたような生活と食事をしていたことになります。
 そこで人間は、その99・8%の時代に適合した身体になっており、最近の0・2%の時間で、自分たちが栽培する作物や飼育する動物の肉に適合した身体に変化していないからだというのが根拠です。
 もっとものようですが、最近の新しい研究では、最後の1万年でも、人間は牛乳を飲めるようになったし、ヒマラヤの高地に生活するなど、環境の変化に適応しているから、パレオダイエットが適切かどうかは疑問だという意見も出ています。
 世の中には非常に多くのダイエットと称する健康法があり、それらを信じて実行するかは考え方によりますが、肥満が万病の元であることは確実ですから、ぜひBMIを25以下にする努力は必要だと思います。





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