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論文

 今日は2045年問題という30年後の問題を紹介させていただきます。
 コンピュータの世界には何年問題といわれる騒動が何度も発生しています。
 かなり大騒ぎになったのは2000年問題でした。
 コンピュータのプログラムには時間を設定する命令が含まれていますが、かつて記憶装置が高価であった時代には、記憶装置を節約するために1900年は「00」、1950年は「50」というように下二桁の数字で表現していました。
 そうすると2000年になったときは「00」になりますが、1900年と区別ができないので、問題が発生するということになります。
 PCが計算を間違う程度ならまだしも、電力や水道の制御が混乱する、銀行や株式市場の取引が間違う、ミサイルが間違って発射されるなどの心配がありましたが、事前のプログラムの修正の効果もあり、それほど騒動は発生しませんでした。

 それ以後も、1970年1月1日0時0分から秒数で時間を計算しているシステムが2001年9月9日1時46分40秒に、秒数が9桁から10桁になる問題が心配され、実際に問題が発生しましたし、1912年を元年としている中華民国で100年経過した2011年に年数が2桁から3桁になるために発生すると心配された「民国100年問題」でも、高額の請求書が届くという問題が発生しています。

 しかし、今日ご紹介する「2045年問題」はまったく別の問題です。
 簡単に表現すれば、コンピュータの能力を駆使して人間と同じような判断をさせる人工知能という分野がありますが、その人工知能が急速に進歩して人間の能力を追抜くという問題です。
 科学の分野で、それまでの常識が通用しなくなる瞬間を「特異点(シンギュラリティ)」と言い、アインシュタインが一般相対性理論を発表したとき、その方程式を解くと時間と空間が始まった瞬間を知ることができるが、その瞬間に既存の物理法則が成立しなくなるので、実際は分からないという問題を予言し、それを「特異点」と唱えたのです。
 多くの学者は、それは理論上の話で現実には存在しないと無視していたのですが、1965年になってイギリスの物理学者ロジャー・ペンローズとスティーブン・ホーキングが存在することを明確に証明しました。

 その同じ1965年にイギリスの数学者アービング・グッドが論文で、コンピュータが進歩すれば、いずれ自分を制御しているプログラムを自分で改良することが可能になり、そのコンピュータは人間が発明する最後の機械となって、それ以後の発明はすべてそのコンピュータが行なうと発表しました。
 それを予言するような有名な作品が原作アーサー・クラーク、監督スタンリー・キューブリックの1968年の映画『2001年宇宙の旅』で、人間以上の能力をもつコンピュータ「HAL」が支配する冒険旅行により、ボウマン船長が新しい人類として生まれ変わり、特異点を通過した人類の誕生を表現しました。

 現在、2045年問題の急先鋒はアメリカの学者レイ・カーツワイルで、その意見の背景にある哲学は、コンピュータに関係する技術は1年で2倍、2年で4倍、3年で6倍というような等差級数で発展するのではなく、1年で2倍、2年で4倍、3年で8倍、4年で16倍というような等比級数で発展していき、まず2029年に人間と遜色ない知能を持ったコンピュータが出現すると予測しています。
 これは1950年にイギリスの数学者アラン・チューリングが提唱した判定方法による人工知能です。
 閉ざされた部屋に人間とコンピュータが存在し、外部から両者に同じ質問をし、戻ってきた答えを人間が見て、どちらが人間の答で、どちらがコンピュータの答か分からなくなれば、その時点でコンピュータは人工知能を獲得したと判定するというわけです。

 先週の土曜日(3月14日)にプロ棋士とコンピュータプログラムが対戦する第4回将棋電王戦の初戦が戦われ、今回は斎藤慎太郎5段が勝ちましたが、昨年はプロ棋士の1勝4敗でしたし、一昨年は1勝3敗1分けでした。
 このような規則のある分野だけではなく、2011年にはアメリカの有名なテレビジョンのクイズ番組にIBMのコンピュータが挑戦し、歴代チャンピオン2人と戦って勝利しています。
 日本でも国立情報学研究所が2021年までに東京大学の理系の入学試験に合格する人工知能を開発すると挑戦を始め、昨年は偏差値47になり、私立大学の82%、国公立大学の3%で80%は合格可能性のあるA判定を獲得するまでになっています。

 カーツワイルは、このような進歩を前提とすると、2045年には、その時点の地球の全人口の知能を越える人工知能が出現し、特異点を通過して新しい人間と機械の関係が登場すると主張しています。
 このような分野を研究するため、2008年にアメリカのシリコンバレーには「特異点大学」が創設され、IBMは従来のコンピュータとは原理の違うコンピュータを開発する「シナプス計画」、ヨーロッパでは1000億円の予算を投入する「ヒューマン・ブレイン・プロジェクト」が始まろうとしています。   

 誰もが一体どのような社会になるのか心配されると思いますが、4つの考え方がありそうです。
 第一はコンピュータが人間社会を支配するという暗い社会で、イギリスの作家ジョージ・オーウェルが『1984』で描いた世界の実現です。
 第二は現在の人類は肉体を失い、意識だけが巨大なコンピュータの中で生き続ける社会。ロボコップの主人公や攻殻機動隊の草薙素子のような状態です。
 第三は人類は現状のまま存続し、コンピュータが人間の知能を増強するという希望のある社会
 第四は開発に必要な資金が調達できなくて、そのようなコンピュータは実現しない社会
 どのようになるかは分かりませんが、30年後の社会を目指して、このような研究が進んでいることは知っておくべきだと思います。





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