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論文

 今週は外国人に評価される日本文化について紹介したいと思います。
 花見も終盤に入りましたが、今年の話題は外国人の急増です。
 上野公園には毎年200万人の花見客が訪れますが、上野観光連盟の推定によると今年は半分以上が外国人で、その中でも中国人が多かったそうです。
 これは花より団子で、花を見ながら食事や酒を楽しめる団子の魅力が効果を発揮している側面もありますが、それに加えて円安で安価に旅行できること、4月4日から6日が中国では国民の祝日になっている清明節の三連休であること、今年1月に中国人に対するビザの発給要件が緩和されたことが重なったという背景があるようです。
 発給要件の緩和は何回かにわたって行なわれてきましたが、2009年7月以前は団体観光客に限っていたものを、個人でも取得できるようにし、今年1月からは一定以上の所得があれば訪問地を制限しない有効期間5年の数次ビザを発給するように変更されました。
 その結果、5年前には35万であった発給数が昨年は220万を突破するほどになり、今年からビザを発給することになった上海の日本総領事館の発給件数は3月だけで14万6000件になり、笑話のようですが、ビザを印刷してパスポートに貼る用紙の在庫が無くなりそうになるほどの人気です。

 その中国人の三大関心事は「桜/ラーメン/温泉」だそうですが、このように日本人には常識になっている文化や風習が、突然のように外国で評価される例が増えてきています。
 有名な例は盆栽です。
 2011年に高松市で「アジア太平洋盆栽水石大会」が開かれたときには30カ国から7万6000人が参加し、さいたま市にある大宮盆栽美術館の訪問客の5%は外国人だそうです。
 そのような人気で、盆栽の輸出が急増し、2009年が45億円、10年が61億円、11年が67億円と順調に増加しています。
 庭に植える植木についても日本産に人気があり、2001年には6億3000万円ほどであった輸出が昨年の2014年には94億3000万円と15倍にもなっており、植木生産が日本一位の千葉県だけでも、2006年の4億5000万円から13年には42億円以上になっています。
 ユネスコの無形文化遺産になった和食も人気で、1980年代から外国人に評価され、アジアには寿司屋を含めた日本料理店が2万7000店、北米には1万7000店、ヨーロッパには6000店という勢いで増えています。

 このような日本への関心は英語になった日本語に反映しています。
 昨年、読売新聞が「オックスフォード英語辞典(OED)」という1884年から発売され、一揃いで23冊、ページ数にして約2万2800ページ、掲載されている単語が29万1500という世界最大の英語辞書に、日本語が語源の言葉がどの程度採択されているかを調べています。
 その結果、500くらいが日本語に由来する単語で「桜」も「ラーメン」も「温泉」も「盆栽」も入っていますが、最近の10年で採択された単語が19もあり、急速に日本文化が注目されていることがわかります。
 それらは「納豆」「枝豆」「焼きそば」「居酒屋」など食事に関係する言葉が多いのですが、「かわいい」「少女(漫画)」「少年(漫画)」「変態」「コスプレ」「絵文字」という若者文化を示す言葉も多数あります。 

 このような日本文化への関心を「クール・ジャパン」と表現していますが、もともとは1990年代のイギリスのブレア政権が進めた「クール・ブリタニア」を参考にし、以前、紹介させていただいたことがありますが、2002年にアメリカのジャーナリストが日本はGNPが象徴する経済大国ではなく、文化大国を目指すべきだという論文を書き、GNCと表現しました。
 GNCはグロス・ナショナル・クール、クールは格好いいという意味で、文化を示しています。

 このような戦略は日本を好意的に理解してくれるだけではなく、経済効果もあるという一挙両得です。
 クールビジネスの日本の産業規模は一昨年に64兆円と推定され、40兆円の自動車産業や13兆円の鉄鋼産業を上回っていますが、問題は輸出が1兆5000億円程度でしかなく、まだ貿易赤字になっていることです。
 そこで遅蒔きながら2010年に経済産業省がクール・ジャパン室を設立し、第二次安倍内閣ではクール・ジャパン戦略担当大臣を任命し、第3次安倍内閣においても任命し、推進しています。
 世界規模では、このようなモノではなくサービスを提供するクールビジネスは2009年に450兆円で世界のGNPの7%程度ですが、2020年には930兆円で12%になると推定されていますから、確かにGNCの増大によってGNPも増やすという戦略は適切だと思います。

 ただし、われわれは自分で目玉商品を発見する必要があります。
 1910年にドイツ人の美術評論家が写楽をルーベンス、ベラスケスと並ぶ世界三大肖像画家と評価するまで、日本人は写楽に無関心でした。
 桂離宮も1933年にドイツ人建築家が訪問し、日本を代表する建物だと絶賛するまでは人気のある建物ではありませんでした。
 和食の価値に気付いたのは1977年にアメリカが世界の食事を調査して、和食が健康にとって最適だと発表してからですし、GNCという概念もアメリカのジャーナリストが指摘してくれた結果です。
 もちろん、自動車や鉄鋼などモノの製造も重要ですが、サービスが経済を支えるという発想で日本文化の在庫目録を見直してみるべきではないかと思います。





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