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論文

 今日は環境問題後進国日本について考えてみたいと思います。
 先月23日にニューヨークの国連本部で開催された「気候行動サミット」で日本はまったく存在感がありませんでした。
 これまで2009年と2014年に開催された「気候変動サミット」から今回は「気候行動サミット」と名前が変更されました。
 そのため具体的な政策を発表できる国だけに発言の機会を与えるという進行になり、60カ国以上の首脳が演説をしましたが、アメリカのトランプ大統領は15分間ほど顔を見せたものの演説はせず、日本の安倍首相は日程調整ができないという理由で出席せず、さらに世界最大の石炭輸出国であるオーストラリアのモリソン首相も参加せず、これらの国は存在感がありませんでした。
 安倍首相の代理で出席した小泉環境大臣は記者会見で「今日から日本は変わる」とか「環境問題は楽しく、格好良く、セクシーに」という意味不明の発言をし、周囲から不思議がられる始末でした。
 さらに3日前の9月20日には世界160カ国以上の若者約400万人がそれぞれの国で気候ストライキをしましたが、日本は東京で参加した2800人を含め23都道府県で約5000人が街頭行進をした程度で、若者も関心が薄い国という印象でした。

 確かに今年の夏はフランスやスペインの一部で41度を超える高温になり、ヨーロッパ諸国の関心が高いのは理解できますが、日本でも新潟県上越市で40度になっており、他人事ではないにもかかわらず、あまり切迫感がなさそうです。
 この温暖化の主要な原因が化石燃料の使用で、とりわけ石炭が大きく影響するので、それへの対策を明確にしている国だけが演説を許されました。
 2015年の数字ですが、トランプ大統領が顔だけ出したアメリカは石炭の利用比率が33%、首相が会議を欠席したオーストラリアは62%、同様に首相が欠席した日本は32%で、解決策が発表できなかったのです。
 中国は石炭の比率が70%で、世界最大の二酸化炭素排出国ですが、王毅(わんいー)外相は再生可能エネルギーの大量導入に取り組むと発言する一方、先進国が温暖化ガスの削減を進めるべきだという見解を発表し、責任転嫁をしています。

 中国に比べると、日本はある意味で正直ですが、若者の気候ストライキをはじめとして、環境問題に積極的ではないと外から見られています。
 それを示す一つの例がESG投資です。
 Eはエンバイロメントで環境問題、Sはソーシャルで社会問題、Gはガバナンスで企業統治の頭文字を集めた言葉ですが、これからの社会では企業は利益を上げるだけではなく、環境問題を解決することを目指す(E)、LGBTをはじめダイバーシティや育児休暇などワークライフバランスを推進する経営をする(S)、そして企業の不祥事に迅速に対応し、独立した社外取締役が経営を監視するなど企業統治を確実にする(G)という意味です。
 そして、このような活動に熱心な企業に投資をするというのがESG投資なのです。
 世界持続投資協会(GSIA)が調査したESG投資の金額の統計によると、2014年には世界全体で1800兆円でしたが、2016年には2300兆円、昨年の2018年には3100兆円と年率16%で増加しており、世界の投資金額の4割近くが環境問題や社会問題を解決することに貢献している企業に投資されています。
 ところが日本は大きく出遅れて、2014年には世界全体のESG投資の0.04%、16年には2.1%、2018年には7.1%です。
 最近、急速に増加しているとはいえ、ヨーロッパの59%、53%、46%という比率と比較すると、GDPの規模に比例させてもまだまだという状態です。

 その背景はいくつかありますが、第一は先ほどもご紹介したように、ヨーロッパでは温暖化問題が切実な状態になっている現実があります。
 このサミットが開催される前日の9月22日に、スイスのアルプスの標高2600メートルほどのピゾール氷河を見渡す丘の上で黒い服を着た200人ほどの人々が集まり、ピゾール運河に別れを告げる会が開かれました。
 スイスでは、これまで記録されているだけで500以上の氷河が消滅しており、この氷河も120年前には厚さ100メートル以上あったのですが、現在では2メートルから5メートルほどになってしまし、間も無く消えてしまうことを国連の会議の前に訴えたという行事でした。

 第二は、このような選択的な投資をするということに、アメリカやヨーロッパでは日本よりもはるかに長い歴史があるということです。
 1920年代にキリスト教会が資産運用をするときにはタバコ、アルコール、ギャンブルなど教義に反する業種の企業を投資対象から外すと決め、これをSRI(ソーシャル・レスポンシビリティ・インヴェストメント:社会責任投資)と名付けたのが最初です。
 さらに1960年代になり、アメリカで公民権運動、ベトナム戦争への反戦運動、人種隔離に反対する反アパルトヘイト運動などが発生すると、ナパーム爆弾を製造している企業に製造中止を要求する株主提案が提出されるようにもなり、企業は利益をあげればいいという風潮に逆風が吹き始めました。
 そして1990年代になってESG投資が登場し、1997年に京都議定書が採択されたことにより、環境問題は一気に世界の最大課題になってきました。

 今回の気候行動サミットで演説した16歳のグレタ・トゥンベリさんは母親がオペラ歌手、父親が俳優、祖父が俳優兼監督という家族の影響もあり、やや芝居がかった演説であったことは確かですが、未来の中心となる世代から、これまでの中心であった世代への強烈な異議申し立てでした。
 これまで中心であった去りゆく世代は、この演説に対応する責任があると思いますが、その一つの手段がESG投資によって利益一本槍の経済活動を転換させていくことだと思います。
 最近、「気候正義(クライメート・ジャスティス)」という言葉が登場しています。世界の豊かな10%の人々が温室効果ガスの50%を排出し、貧しい50%に人々が温室効果ガスの10%を排出しているという非対称な関係にあり、この不公正を是正していくことが気候正義です。
 したがって豊かな10%の人々が責任を持って解決していく必要があるということになりますが、今回の気候行動サミットでの日本の立場やESG投資への反応の鈍さなど、日本はアメリカとともに世界の潮流から取り残されています。
 環境大臣をはじめ政治家に期待するのではなく、それぞれの決意で若者世代からの批判に応答する必要があると思います。





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