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論文

 5月29日に国際サッカー連盟(FIFA)の総会が開かれる直前の27日に、FIFAの幹部や元幹部9名と広告関係者や放送関係者5名が逮捕されるという衝撃の事件が発生しました。
 今日はその背景を考えてみたいと思います。
 9名のFIFA関係者の国籍は、ブラジル、ベネズエラ、ウルグアイ、パラグアイ、コスタリカ、ニカラグア、トリニダード・トバゴ、ケイマン諸島、もう1人はイギリス人ですが、ケイマン諸島サッカー協会の事務総長だった人です。
 国家ではないケイマン諸島が登場するのは、FIFAは国ではない地域の参加を認めており、現在の加盟団体は209で、国際連合加盟国193以上という背景があるからです。
 例えば、イギリスの正式国名は「グレートブリテンと北アイルランドの連合王国」で、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドから構成されていますが、FIFAにはそれぞれ加盟しています。
 それ以外にも、イギリスの海外領土のバミューダ諸島、デンマークの海外領土のフェロー諸島、中国の香港やマカオも別々に加盟しており、ケイマン諸島も同様の立場なのです。

 もう一つ知っておく必要があるのは、FIFAには6大陸のそれぞれに、アジアサッカー連盟、アフリカサッカー連盟、ヨーロッパサッカー連盟、オセアニアサッカー連盟、北中米サッカー連盟、南米サッカー連盟という6つの下部組織があることです。
 そうすると今回逮捕されたFIFA関係者は北中米サッカー連盟の関係者が5名、南米サッカー連盟の関係者が4名と2つの組織に集中しているのです。
 それらの参加組織のFIFAの順位を調べてみると、ブラジルが5位、ウルグアイが8位ですから、FIFAの幹部になっていたことは納得できますが、ケイマン諸島は189位、ニカラグアは151位、パラグアイが85位、ベネズエラが72位、トリニダード・トバゴが67位で、日本の52位より下なのに、なぜだ!と疑問になります。

 これは6連盟の選手人口を調べてみると力の背景が分かります。
 FIFAの発表によると、実数はアジア連盟が8500万人、ヨーロッパ連盟が6200万人、アフリカ連盟が4600万人であるのに、北中米連盟は4300万人、南米連盟は2800万人でしかありません。
 ところが人口あたりのサッカー選手の比率はアジア連盟が2.2%、アフリカ連盟が4.8%であるのに、北中米連盟と南米連盟は7.4%で1位なのです。
 とりわけ北中米連盟のコスタリカは人口の27%がサッカー選手で世界1位ですし、南米連盟のパラグアイは16%で6位です。
 人口460万人のコスタリカで4人に1人がサッカー選手という数字の信憑性は疑問ですが、昨年のワールドカップ・ブラジル大会ではウルグアイ(8位)、イタリア(13位)、イングランド(15位)と一緒の死の組といわれたDグループで、ウルグアイとイタリアを破り、イングランドと引き分けて堂々の1位通過をし、決勝リーグでも最初はギリシャをPKで破り、準々決勝ではオランダにPKで敗れたという強豪で、FIFAの順位は日本よりはるか上の14位です。

 さらにワールドカップ大会の歴史でも、1930年の1回目はウルグアイで開催され、以後、昨年の20回の大会まで南米で5回、北中米で3回と、4割が2つの連盟で開かれているのです。
 このような歴史と、多数のサッカー人口を抱えているという実力が重なってFIFAの上層部で2つの連盟が力を持っているわけですが、なぜそこで腐敗が発生しているかは、別の統計が答を示しています。

 「トランスペアレンシー・インターナショナル」というNGOが、毎年、世界各国の汚職や贈収賄などの腐敗を調査して順位を発表しています。
 175カ国を対象とした2014年版では、腐敗の少ない順番で日本は15位ですが、ベネズエラが161位、パラグアイが150位、ニカラグアが133位、トリニダード・トバゴが85位、ブラジルが69位で、もっとも少ないウルグアイでも21位と軒並み腐敗の多い国々から選出されている関係者なのです。
 また「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」という組織による167カ国の民主主義の水準を調べた結果では、ベネズエラが96位、ニカラグアが89位、パラグアイが62位という順番です。(日本は22位)
 これらの数字をながめれば、起こるべくして起こったということが出来ます。

 さらに今回の衝撃の逮捕がアメリカ主導で行なわれたことにも重要な意味があります。
 2013年の調査によるアメリカ人の一番好きなスポーツの順位は、アメリカンフットボールの45%、野球の16%、モータースポーツの8%、バスケットボールの7%で、サッカーは2%でしかありませんが、昨年のブラジル大会でアメリカチームが決勝トーナメントに進出するという活躍をしたため、テレビジョン放送の視聴者数がプロバスケットボール(NBA)の決勝戦や、プロ野球(MLB)のワールドシリーズ以上になったという人気になりました。
 しかも、それぞれの国の組織に登録されている選手の数は、アメリカは420万人とドイツに次ぐ世界2位で、9位の日本の105万人を大きく上回る、隠れたサッカー大国なのです。
 実は、アメリカでは19世紀からプロサッカーリーグが何度も結成されては解散されてきましたが、1994年にFIFAワールドカップ大会がアメリカで開催されたことを契機に、2010年の16チームから、今年は21チームになり、5年後には24チームにする構想で、本格的に乗出す方向にあります。
 そのためには元締めであるFIFAが不透明では困るというのがアメリカの意向で、今回の逮捕劇の背景になっているのではないかと考えられます。
 2006年のドイツ大会では3000億円程度であったFIFAの収益は2014年のブラジル大会で5400億円、2018年のロシア大会では6000億円になると予想されています。
 この巨大ビジネスに参入しようというアメリカが地ならしを開始した第一歩が今回の事件かもしれません。





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