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論文

 先々週になりますが、農林水産省が昨年度(平成26年度)の日本の食料自給率(カロリーベース)が39%であったと発表しました。
 1960年には約80%でしたから、半世紀で半減したことになります。
 食料ごとに見ると、自給できているのはコメとミカンだけで、大豆は自給率7%、大麦は9%、小麦は13%という状態です。
 そのため食料の輸入金額は昨年で7兆円にもなり、世界で4番目に輸入している国になっています。
 世界一の輸入大国はアメリカで14兆円ほどの輸入ですが、輸出も世界一ですから、差し引き輸入超過は数10億円程度です。
 一方、日本の食料輸出は5000億円程度ですから、差し引きでは世界一の輸入超過国であり、食料安全保障では問題です。

 これ以外にも日本の農業は深刻な問題を抱えています。
 農業就業者の減少と高齢化です。
 1990年には440万人でしたが、2000年に320万人、2010年に220万人となり、20年間で半減です。
 しかも若い世代の参入が少なく、65歳以上の就業者の比率は1990年には31%でしたが、2000年には49%、2010年には60%、で、平均年齢は59歳、61歳、66歳となり、現在の日本の農業は前期高齢者が支えている現状になっています。
 これは先進国に共有している特徴ではなく、やや古い2000年の数値ですが、65歳以上の比率はイタリアで20%、スペインで12%、フランスで10%ですから、日本の49%が突出していることが分かります。

 このような状況の対策としては様々な方法が考えられていますが、IT技術を駆使して人手不足を補うとともに、生産性を向上させようという「スマートアグリ」が注目されてきました。
 最初にスマートアグリの世界の先進国であるオランダのいくつかの数字を御紹介すると、その威力がご理解いただけるかと思います。
 スマートアグリの代表は植物工場ですが、オランダの植物工場と日本の植物工場の面積あたりの収穫を比較すると、トマトで6倍以上になっています。
 それは何故かというと、第一はオランダの植物工場は規模が巨大で、天井の高さが日本の2倍以上の6mはあり、トマトの木を高く伸ばすことが出来るので、面積あたりの収穫が増えるのです。
 しかし、より重要な差がスマートアグリの導入です。
 時系列で調べてみると、オランダではスマートアグリを導入する前の1970年代と、導入後の1990年代を比較すると、トマトの面積あたりの収穫が5倍も増加しているのですが、日本では1・2倍しか増えていませんから、威力が分かると思います。
 実際、日本の農業就業者の220万人に対してオランダは21万人で10分の1ですが、農業生産額は日本の4分の1ですから、生産性は2・5倍も高いということになります。
 そして農産品輸出は日本の30倍もあり、3兆円の貿易黒字をあげて世界一ですから、日本と対極にある国ということになります。

 日本にも植物工場は存在していますが、オランダの植物工場は桁違いで、計測している温度や湿度や日照や二酸化炭素濃度などの数値が500から1000種類くらいあるのに、日本では一桁でしかないからです。
 そして生産者は植物工場に行くことはほとんどなく、コンピュータルームで数値を管理しているだけで十分ですから、就業者が少なくなっても高齢化になってもそれほど影響を受けないことになります。

 そこで最近、日本のIT産業がスマートアグリに進出するようになりました。
 富士通は2012年から「akisai」という農業生産をビッグデータ技術の利用で管理するサービスの提供を始め、160社以上が利用していましたが、2013年には、静岡県沼津市にある工場の敷地に「あきさい農場」という実験施設を開設し自社でも植物工場を運営しています。
 気温、湿度、日射量、二酸化炭素濃度、土壌温度,土壌水分など、様々なデータを時々刻々収集して、それを基に野菜の生育に最適の条件になるように環境を制御するシステムを開発し、今年度中には2万以上の事業者に導入することを目指しています。

 パナソニックは2013年から福島工場に植物工場を建設して実際にレタスを育てて、福島県内の30の店舗に提供してきましたが、今年から本格的にシステムを提供するビジネスを開始することにしています。
 東芝も昨年、神奈川県横須賀市に存在したフロッピーディスクを生産していた工場を4階建ての「東芝クリーンルームファーム横須賀」に改造し、レタス、ホウレンソウ、ミズナなどを年間300万株生産する事業を開始しています。
 これら以外にもシャープ、トヨタ、日本GEなども参入し始めましたが、このような大企業だけではなく、IT企業の技術者がスピンアウトしてベンチャー企業を設立しており、二次産業が大挙して一次産業に進出してきたということになります。

 しかし、途中で御紹介したように、オランダとは大差がついていますが、その原因は2つあると思います。
 第一は日本の農業は厳しい価格競争のない国内市場だけでも、これまでは何とか維持できてきたため、先端技術の導入が重要な条件にはならなかったのですが、オランダはEU域内でスペインやポルトガルなど安価な労働力で生産する農業と対抗する必要があり、そのために効率向上が必須であったことです。
 第二はオランダのスマートアグリは生産者が独自に導入し始め、後から国が支援して発展してきたのですが、日本では農林水産省、経済産業省、農協などの現場を十分に理解していない役人が理念中心で検討し、補助金で支援しようとしてきたため、切実さがないという問題があります。
 しかし、就業者の減少と高齢化は極限まで来ていますし、食料自給率も世界最低の部類の日本にとっては、スマートアグリと農業ロボットは問題解決の重要手段ですから、生産者が中心になって発展させることが重要だと思います。





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