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論文

 先月末、イギリスで発行されている医学雑誌『ランセット』に、アメリカのワシントン大学などが世界188カ国の人口問題を調査した結果を発表しましたが、2013年に日本の健康寿命が女性で75.6歳、男性で71.1歳となり、ともに世界一になったということです。
 健康寿命はご存知の方も多いと思いますが、2000年に世界保健機関(WHO)が提唱した概念で「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されており、例えば、日常的に介護などに頼らずに1人で生活できる期間を意味します。
 一般的に話題になるのは平均寿命ですが、寝たままで生活している状態で長生きしても、本人も憂鬱でしょうし、周囲も世話をしなければならないので、自分で生活できる状態を長くすることが重要だという意味で提唱されたわけです。

 その論文には、1990年の数字も計算して発表されていますので、それによって過去23年間の変化を計算してみると、世界全体では平均寿命は65歳から72歳と7年増加し、健康寿命も57歳から62歳と5年増加しています。
 ここでお気付きの方もおられると思いますが、平均寿命から健康寿命を引いた自立して生活できない年数を仮に「不健康寿命」と名付けると、1990年には65歳から57歳を引いた8年でしたが、2013年には72歳から62歳を引いた10年に増えていることになります。
 つまり、23年間で世界全体では不健康寿命が2年増えているのです。

 日本について国立社会保障・人口問題研究所が推計した数字で調べてみると、この不健康寿命は女性の場合、1990年には1・3年でしたが、2000年には3・2年、2010年には5・2年と増加しています。
 男性についても、同様に0・7年、1・9年、3・6年と増えており、介護などを必要とする期間が増えています。

 これは個人にとっても問題ですが、社会にとっても重要な問題です。
 1週間前に厚生労働省が昨年度の医療費についての統計を発表しました。
 それによると、全国の医療機関に支払われた医療費の合計がほぼ40兆円になったということです。
 経年的に見てみると、医療費は増加の一途で、1980年には12兆円でしたが、1990年には21兆円、2000年には30兆円、2010年には37兆円となり、ついに昨年は40兆円に到達したわけで、毎年2.1%の比率で増加してきたことになります。
 このまま進めば10年後の2025年には50兆円に到達します。
 1人あたりの医療費を計算しても、1990年の17万円から2000年には24万円、2010年には37万円となり、このまま進めば2025年には42万円に増大します。

 この数字だけでも深刻ですが、この金額が国民所得に占める比率を調べると、さらに深刻な問題だということが分かります。
 1990年の5・9%から、2000年に8・1%、2010年には10・6%となり、国家経済の1割が医療に使われていることになります。
 この増加が先にご説明した平均寿命や不健康寿命に関係しており、この1年間に医療費の増加は1・8%でしたが、高度な医療技術や高価な医薬品の導入で増えた部分は0・6%で、残り1・2%は高齢人口の増加によって増えたのです。
 高齢者の増加がどれほど影響しているかを示す数字もあり、後期高齢者である75歳以上の人の医療費は1990年には約6兆円で全体の29%でしたが、2010年には13兆円で34%に増大しています。
 また1人あたりの年間医療費も75歳以上は93万円であるのに、75歳以下は21万円と4・4倍も差があります。
 しかも後期高齢者の窓口負担は1割で、5割は保険料、4割は税金で負担していますから、高齢者が増加し、しかも不健康寿命が増加していくことは医療財政にとって重要な課題になります。

 このような問題をどのように解決していくかの一つのヒントを紹介したいと思います。
 徳島県の山の中に上勝町という過疎地域があります。
 現在では人口1800人強で、65歳以上の高齢者の比率が50%、80歳以上だけでも400人強で22%という日本の将来を先取りしているような超高齢社会です。
 ここは2012年に映画『人生いろどり』のモデルにもなった、高齢の女性が中心で木の葉っぱを売るビジネスで大成功している「株式会社いろどり」のある場所です。
 これだけの高齢社会ですから一人あたり医療費は大きく、1996年には76万円でしたが、途中で多少上下はあるものの、2000年には69万円、2006年には63万円まで下がり、徳島県の市町村では最小になりました。
 完全な因果関係は分かりませんが、高齢者が毎日、山道を登って木の葉を採集に行くために健康になったと同時に、忙しくて病院になど行く暇がなくなったことだと言われています。

 実際、都道府県単位で高齢者の有職率と老人医療費の関係を調べてみると、有職率が1位で30%の長野県は老人医療費が60万円で全国最低ですし、2位の山梨県は28%で64万円ですが、一方で下位の北海道は有職率18%で93万円、長崎県も18%で88万円と明確に逆相関関係になっています。

 内閣府の「いつまで働きたいか」という調査でも「働けるうちはいつまでも」が1位で37%、「70歳くらいまで」が2位で23%となっています。
 株式会社いろどりを創業した横石知二社長が「年金より年収」という名文句を作っておられますが、高度な医療技術と手厚い医療制度で病気の人を救うことは重要ですが、高齢者が元気な間は働いて病気になる暇がない仕組を作ることも社会として重要だと思います。





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