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論文

 今回、本州の北半分を縦断した台風19号は死者と行方不明者が合計で90名近い大災害となりました。
 各地から送られてくる被害状況で目につくのが堤防の決壊とともに、川に架かっている橋が壊れている映像でした。
 これはもちろん洪水の威力が凄まじいことを示していますが、同時に多くの橋が老朽化しているということも示しています。
 日本には長さが2メートル以上の道路橋が約73万あり、そのうち建設から50年以上経過した老朽橋が現状では25%の18万程度ですが、10年後の2028年には50%の以上の36万になり、当然、大規模な補修や建て替えが必要になります。
 しかし、その85%は都道府県や市区町村の管理している橋で現在の財政状況では予算がなく、維持補修ができず、今回の被害の映像のような状態になる橋が数多く出現することになります。

 さらに1万以上ある道路用トンネルも現状では20%程度の約2000が建設から50年が経過し、15年後には50%の5000本が建設から50年以上になりますが、70%以上が都道府県や市区町村の管理するトンネルで、同様に予算が不足しています。

 また9月に房総半島を通過した台風15号の被害の写真で、衝撃的であったのは送電用の鉄塔が足元から折れて倒れている映像でした。
 想定以上の強風であったことも原因ですが、もう一つの原因が鉄塔の老朽化と言われています。
 現在、日本には25万基ほどの送電用鉄塔がありますが、そのうち7万基から8万基は1970年代に建設され、東京電力管内の鉄塔の平均使用年数は42年になっており、老朽化が心配されています。

 このように橋やトンネルや鉄塔だけではなく、もう一つ重要な問題を抱えている社会基盤があります。
 実は今日は約130年前の1887年(明治20)に、横浜で日本最初の近代水道が開通した日です。
 都市に上水を供給する水道は、すでに古代ローマ時代から建造され、日本でも江戸時代には江戸に「神田上水」「玉川上水」などが開削されています。
 それほど歴史があるのに、なぜ横浜の上水道が日本最初かというと、それまでの水道は川や池から水を引くだけだったのですが、横浜に建設された水道は水を濾過して、それを鉄管などに圧力をかけて給水する「近代水道」の第一号だという理由です。
 横浜は江戸末期に外国に開港していますが、海岸を埋め立てて町並みを作ったため、井戸を掘っても塩水しか出てこないので、飲み水に苦労していました。
 そこで当時の神奈川県知事がイギリス人技師のヘンリー・パーマーに水道建設を依頼し、相模川上流から水を引いて近代水道を建設し、それが1887年10月17日に開通したということです。
 それ以後、全国の都市で水道が建設され、戦後からしばらくした時期には水道の普及率は人口の30%程度でしたが、現在では国民の98%に水道が普及している状態になっています。
 世界では水道が利用できる人口の比率は90%程度ですから、日本は素晴らしい状況ですし、水道の蛇口から出てくる水をそのまま飲むことができる国は日本以外に、フィンランド、スウェーデンなど北欧の国々や、ドイツ、オーストリアなどヨーロッパの一部の国など合計15カ国程度ですから、日本の水道水の水質も素晴らしい状態です。

 しかし、この水道に深刻な問題が忍び寄っています。
 第一は人口減少の影響です。供給している水道水のうち料金を徴収できている比率を「有収水量」と言いますが、それが人口減とともに減っていき、水道事業の収支を圧迫していることです。
 水道の多くは地方自治体などが独立採算で維持し、水道料金で運営していますが、人口が減っていくため水を使用する量が2000年を頂点に、現在すでに90%くらいに減っています。
 このまま進めば30年後には60%くらいになってしまい、水道料金を大幅に値上げしないと維持できなくなります。
 それに追い打ちをかけるのが施設の老朽化が進み、その更新費用が捻出できないという問題です。
 水道管は耐用年数が40年くらいとされており、それを超える老朽水道管の比率は2006年には全体の6%程度でしたが、最近では14%を超えるようになっています。
 それでは実際にどれだけ更新されているかというと、毎年、0.7%でしかなく、このまま進んでいくと25年後には60%が老朽管になってしまい、水漏れとともに水質にも影響するようになります。

 使った水は下水道に流れ込んで処理されますが、その下水道にも同様の問題が発生しています。
 下水道管は全国で47万キロメートルほどあり、そのうち耐用年数の50年を超えた管路が現在は4%ですが、20年後には32%になります。
 その結果、時々、ニュースになりますが、下水道管からの漏水によって道路が陥没する事故が年間3000件から4000件発生しているという事態になっています。

 これらの社会基盤の維持が困難に直面している主要な原因は高度経済成長時代に今後の人口減少や経済停滞を十分に配慮せず、大量に社会基盤を構築してきたことです。
 しかし、その維持更新について、国土交通省は今後30年間で195兆円が必要だと推計しており、平均して毎年6兆5000億円が必要です。
 来年度の国土交通省の予算は合計で9兆円弱ですが、社会基盤の維持補修に使用できるのはわずかでしかありません。
 今回の巨大台風が地球温暖化の影響かどうかはわかりませんが、気象災害が増加傾向にあることは確実で、それを考えると維持補修費はさらに増加すると予想されます。
 これまで豊かであった時代には住民の要望や地元政治家への配慮などから必要以上に社会基盤を整備してきたツケが回ってきたことになります。
 9月の国連の「気候行動サミット」でスウェーデンの少女グレタ・トゥンベリさんは現代の世代が未来の世代の生活する環境にツケを回していると批判しましたが、日本の社会基盤も同じように、膨大な維持補修費というツケを孫子の世代に残している状態です。
 明治時代以来の150年間の国家経営の過程で溜まったツケを現在の世代の間に、どのように支払っていくかは重要な課題になると思います。





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