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論文

 またまた明日は何日になってしまいましたが、明日は「万国郵便連合記念日」英語では「ワールド・ポスト・デイ」です。
 10月9日は「道具の日」とか「東急の日」とか「塾の日」など、単なる語呂合わせで決められている記念日が多い中で、由緒ある記念日です。
 1874年の明日、国際郵便条約により万国郵便連合が設立されたことを記念して、1969年に設立された記念日です。
 この万国郵便連合は1865年に設立された国際電気通信連合に次いで、世界で2番目に古い国際組織で、世界各国で郵便制度が登場し、国境を越えて郵便物を配達する需要が発生したため、
 1)地球上のどこからどこへでも決まった料金で郵便物が送付できる
 2)国内郵便も国際郵便も同様の扱いで対応する
 3)国際郵便の料金は発送される国で徴収し、その国が使用する
ということを決めた国際郵便条約が成立した由緒ある日です。

 文書を届けるという仕組は、古代から権力者や金持は自分で行なっていましたが、1657年にイギリスで一般人が利用できる郵便配達事業が国営で始まりました。
 しかし、経営危機となり、1837年にローランド・ヒルが「郵便制度改革」という小冊子を発行し、その提案により1840年に現在の郵便制度の基本となる仕組が実現しました。
 その功績により、ヒルは郵政長官になるとともに、「近代郵便制度の父」と呼ばれるようになります。

 その近代郵便制度の最大の特徴は距離に関係なく郵便料金を重量区分ごとに一律にし、切手によって料金を前納すれば、郵便ポストに投函するだけで配達されるという仕組です。
 日本では葉書は52円、封書は25グラムまで82円など、国内であれば、距離に関係なく均一料金ですし、国際郵便でも世界を3地域に分けて、それぞれの地域内への料金は同一という制度になっていますが、この仕組をヒルが175年前に実現したのです。
 現在では均一料金が当たり前のように思っていますが、日本でも1871年に東京と大阪の間に郵便制度が実現してから3年間は均一ではありませんでしたから、イギリスで実現したことは画期的でした。

 この均一料金が実現した背後には、チャールズ・バベッジというイギリスの天才的数学者が存在しました。
 バベッジは一般には、現在のコンピュータに繋がるプログラム可能なコンピュータを1820年代に設計した科学者として有名です。
 当時は電気回路技術が存在していませんでしたので、多数の歯車を使い、電気の代わりに蒸気機関で歯車を回す機械でしたが、原理としては1940年代に実現する現代のコンピュータの仕組と似た機械でした。
 当時の機械技術の水準では実現しませんでしたが、この功績により「コンピュータの父」と呼ばれることもある人物です。

 バベッジは1830年代に郵便料金を距離別にすると、仕分けに時間と労力が必要になり、均一料金にしたほうが全体の経費が削減されるという計算をし、それが影響してヒルの均一料金制度が実現したと言われています。
 このような分野を現代では「オペレーションズ・リサーチ」、省略して「OR」と言います。
 これは経営計画、生産計画など企業の意思決定から、交通計画、道路計画など公共事業などについての意志決定をするための数学的な手法です。
 方程式を作って解けば回答が得られる場合だけではなく、統計数値を分析したり、色々なケースをシミュレーションしたりして、最適と考えられる戦略などを探し出す手法です。

 戦争のときの戦略を決定するために使われてきた例が多く、経営にも使用されているのが「ランチェスターの法則」です。
 これは第一次世界大戦が始まった1914年にイギリスの技術者フレデリック・ランチェスターが考案した戦略です。
 企業経営で説明すると分かりやすいのですが、自社が市場でシェア1位であれば、様々な分野に事業を展開して、それぞれの分野で2位以下の会社を弱体にすることが有利であり、自社が2位以下であれば、1位の会社の弱い分野に自社の資金や人材を集中投資して突破することがいいという結論になるという法則です。

 第二次世界大戦のときは本格的に応用されます。
 ナチスドイツが島国イギリスの周囲の海に多数の潜水艦を配置して経済封鎖をしたため、イギリスは物資不足になりました。
 そこで封鎖を突破して物資輸送をする船団を駆逐艦が護衛する必要があったのですが、船団を少数に分割して行動するのと、巨大な船団でまとまって行動するのと、どちらが有利かの議論になりました。
 なかなか結論が出ず星占いまで登場しましたが、数学者が集まって過去の統計を分析した結果、大規模船団を形成して駆逐艦を集中的に護衛に配備するほうが有利だという結論になり、それを実行して物資輸送に成功したという事例があります。

 現在、新国立競技場の工期が問題になっていますが、そのような大規模工事で作業を予定期間内に完成させるのに使われる「PERT(パート)」という手法もORの一種です。
 例えば、土台が完成しなければ上屋は建てられない、壁の下塗りが出来ていないと上塗りは出来ないというように、多数の種類の工事のそれぞれを何日までに仕上げないと、次の工事に進めないかを分析して、どの工事が遅れると全体の進行に影響するという関係を発見します。
 それらの全体に影響する仕事に資材や労力を集中投入して、目的日時までに完成させるという手法です。
 経営とか工事だけではなく、社会活動のほとんどの分野で合理的に資源を配分し目的を達成するのに有力な手法なので、万国郵便連合記念日に、なぜ郵便料金は均一になったかを思い浮べて、ORの利用を検討されるのもいいと思います。





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