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論文

 最近、レコードの人気が復活していると話題になっています。
 若い世代では、黒い円盤からどのようにして音が出てくるのかという、レコードの使用方法も知らないという人達もいるそうなので、簡単に歴史を紹介しておきます。
 音や声を記録するということは多くの発明家が目指しましたが、実際に録音し再生することに成功したのはエジソンで、1877年に円筒型のレコードを発明し、さらに10年後の1887年にアメリカの発明家エミール・ベルリナーが円盤型のレコードを発明しました。
 これは音の大小や高低に応じて、円盤に溝を付け、そこに針を置くと溝の形に応じて針が振動し、それを拡大して音にするという仕組です。

 エジソンは音楽を録音して再生することに、それほど期待せず、レコードの用途は語学の練習や速記の代替、遺言の記録などが主要な用途と考えていたようですが、実際に中心となったのは音楽の録音・再生で、大産業に発展しました。
 ところが日本では、1998年に60億円程度でしたが、2010年には2億円を切るまでになってしまいました。
 理由はお分かりと思いますが、CDの登場です。
 ところが、そのCDも10年前の2005年には売上が3600億円、枚数で3億枚でしたが、昨年は2000億円、1億7000万枚と低下してきました。
 これも理由は明瞭で、インターネット経由でiPodなどにダウンロードして聞く人が増えてきたことで、栄枯盛衰は世の習いを象徴するような歴史です。

 ところが最近、衰退したはずのレコードが復活を始めつつあるのです。
 2010年に2億円を切っていたレコードの売上が反転し、昨年は6億円になり、今年は9月までだけでも8億円を突破していますから、年間では10億円以上になる勢いで、15年間で5倍に成長しているのです。
 アメリカでも同様で、2005年にはどん底で売上枚数が90万枚程度でしたが、昨年は800万枚になり、10年間で9倍近くに増大したのです。
 世界全体でも2006年が最低で40億円でしたが、2013年には260億円で6.5倍になっています。

 いくつかの理由が考えられますが、CDは人間が聞くことの出来る周波数の2万ヘルツまでしか録音してありませんが、レコードの場合はそれ以上の周波数も記録されているので、それが身体などに伝わって温かい音に感じるという説があります。
 またレコード盤が衰退したので、再生装置が減り、高価な装置が主流になったので簡単に楽しめないという問題もありましたが、ターンテーブル、ピックアップ、スピーカーも内蔵して1万円程度の装置が何種類も発売され、気軽に聞くことができるようになったということも後押ししています。
 もう一つがレコードの入っているジャケットの魅力です。インターネットでダウンロードすると音だけしか送られてきませんが、レコードのジャケットはデザイナーが工夫した30cm角の美術品ですから、これを眺めながら音楽を聞くと耳だけではなく目でも楽しめるということです。

 このアナログの復活は写真の分野でも登場しています。
 かつての写真は光に反応する物質を表面に塗った銀塩フィルムを使って撮影し、それを現像してさらにプリントするという手間のかかる技術でした。
 ところが光の強弱を電気信号に変える撮像素子が開発され、その信号をデジタル情報にしてメモリーに記憶するデジタルカメラが出現し、これも2000年の4250億円程度から一時は1兆3000億円になりましたが、写真も撮影できるスマートフォンが登場し、その影響で最近は低下してきました。
 それでもデジタルカメラは昨年でも7000億円を維持し、フィルムカメラは一部の物好きな人々が使う道具になっていました。
 その結果、写真フィルムを生産している会社は、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、ロシアなどで、それぞれ1社しかないという状態になっていますし、生産中止になったフィルムや印画紙も続出です。

 ところが、ここにもアナログ技術の復権が始まっています。
 かつて「写るんです」というフィルムカメラを発売して一世を風靡した富士フィルムが、ポラロイドカメラと同様に、直接、印画紙に写真を印刷するカメラを発売したところ、これが最近になり人気になっているのです。
 富士フィルムは1990年代に「チェキ」というインスタントカメラを発売しました。
 なかなか伸びなかったのですが、2007年に韓国のテレビドラマで小道具として使用され、2010年には中国の女性タレントがSNSで紹介したところ火が付き、2008年には25万台であった販売台数が2014年には300万台になり、2年後には500万台を目標にするまでになっています。

 レコードやフィルムカメラを駆逐したのは、いずれもデジタル技術ですが、その本家はコンピュータです。
 1940年代にアメリカで世界最初のデジタルコンピュータが出現する前の1931年にはアナログ微分解析機も開発され使用されていましたが、デジタルコンピュータの急速な進歩でアナログコンピュータは博物館に展示される存在になってしまいました。
 ところが現在、アメリカの国防高等研究計画局(DARPA)で、画期的なアナログコンピュータが研究されています。
 その理由は世界全体の情報システムの電力消費の急増です。日本では今後10年で情報機器の使用する電力消費が2.5倍に増え、日本の発電能力の20%にもなると予測されていますし、世界では3倍になり、世界の発電能力の15%になるという予測です。
 この事態に対処するために一気に電力消費が減る新しい情報処理技術が必要というのがアナログコンピュータ開発の目的です。
 どのような技術にも一長一短があり、それが栄枯盛衰をもたらしていると考えると、アナログの復権で新しいビジネスのチャンス発見も可能になると思います。





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