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論文

 今週の月曜日の勤労感謝の日に東京の港区で「東京虫食いフェスティバル」という行事の第6回目が開かれました。
 私は講演を頼まれたのですが、ついでに第3回目となる「昆虫料理レシピアワード」に月尾賞を用意するから審査員もやれということになりました。
 主催者の昆虫料理研究家の内山昭一さんが以前からの知り合いである上に、講演が「昆虫が人類を救う」という偉そうな題名なので、断りきれず怖いもの見たさの気分で引受けることになりました。

 まず驚いたのは、狭い会場なのに60〜70名の観客の熱気で溢れ、しかも半分近くが妙齢の女性ということでした。
 さらに会場ではイナゴの握り、クロスズメバチ成虫の軍艦盛りなど「虫の寿司」が2貫で400円、デュビアと呼ばれるアルゼンチンゴキブリの串焼きが1匹500円、オオスズメバチのさなぎのしゃぶしゃぶが2匹で400円、カイコの糞で出したお茶が1杯100円というような料理を提供する店まで開かれていましたが、長蛇の列で、これも驚きでした。

 講演や対談が終わって、審査となり、昆虫の専門家や会場の観客による5名の審査員によるコンテストが始まり、事前に応募されたレシピから5種類の料理が選ばれ、1品ずつ順番に出されました。
 朝食時の方にはご迷惑かも知れませんが、けっしてゲテモノではなく、本格的な料理なので、内容を紹介させていただきたいと思います。
 まず月尾賞が3品で、最初は「南蛮G」と名付けられた料理、このGはゴキブリのGで、脱皮したばかりの柔らかいアルゼンチンゴキブリに片栗粉をまぶして湯通しし、タマネギなどとともに南蛮酢に漬けたもので、ゴキブリと知らなければ添えた野菜と調和して見事な味でした。
 第二は「カイコのさなぎと焼茄子のビシソワーズ」で、茹でたサナギを甘酒とヨーグルトに漬けて臭いを消し、カイコの糞で煮出したお茶と焼茄子、甘酒、ヨーグルトなどをミキサーにかけてスムージーにしたものです。
 料理人の説明を聞いてから試食するので、最初は恐る恐るですが、なかなかいい味で一気飲みでした。
 最後の月尾賞は「ミズアブの乾煎り」です。ミミズコンポストの中に湧いてくるアメリカミズアブの幼虫をフライパンで煎ったもので、ウジ虫の形のままで、パリパリとして酒のつまみとして絶品という味でしたが、出品者によれば、ラーメンの出し汁としても良いという説明でした。
 ただし、愛好家によると、煎ってしまうと美味しい中味が弾け散ってイマイチという評価もありました。

 もう一人の審査員で、宇宙で食べる昆虫の和食を研究しておられる山下雅道博士の「山下賞」は「蜂ラー油」です。
 これは蜂の駆除を仕事としておられる方が、駆除した蜂が溜まって困るので、処理する方法として、頭と胸は硬いのでミキサーで粉砕し、柔らかい腹部は素揚げにしてラー油に漬けたものでした。
 辛いラー油に漬けられているので、ハチの味は十分にしませんが、形の一部は残っており、視覚的にも刺激的でした。

 優勝は「イナゴのキッシュにタガメ風味のジャガイモのピュレを添えて」という本格的なフランス料理のような名前の付いた料理です。
 キッシュの生地の上に佃煮のイナゴや野菜などを乗せてオーブンで焼き、ピュレは高価な輸入品のタイワンタガメを茹でて身だけを取出し、茹でたジャガイモと混ぜたものです。これをキッシュにかけて味会うとなかなかの料理でした。
 ピーマンやホウレンソウの下からかすかに見えるイナゴが郷愁をそそり、内山審査委員長が日本伝統のイナゴの佃煮とフランス料理の代表のキッシュを一体にした日仏親善料理として絶賛され優勝になりました。

 物好きな人々のお遊びのように思われるかもしれませんが、昆虫食は世界の食料問題を解決するとして注目されているのです。
 この番組で2年前にも紹介しましたが、2013年に国連の食料農業機関が『食用昆虫・食料と飼料の安全保障の将来展望』という報告書を出し、今後、急増していく人口に対応して食料、とりわけタンパク源を供給する食材として昆虫が重要だと指摘した内容です。

 期待される理由はいくつもありますが、まず昆虫はすでに十分浸透している食材ということです。
 現在、世界では約20億人が日常生活で昆虫を食べ、その種類は1900に及ぶということです。
 三橋淳博士の労作『世界昆虫食大全』で数えると、アフリカ全体では464種類、メキシコでは339種類、タイでは292種類にもなり、日本でも歴史的には150種類以上食べていたそうです。
 その昆虫は地球の動物の種類の70%近くを占めており、地域ごとに調達が可能ということも重要です。
 さらに現在の主要な動物タンパク源である、ウシ、ブタ、ニワトリなどは生育効率が悪く、食べられる部分あたりの重量の何倍のエサが必要かを計算すると、ウシが25倍、ブタが9倍、ニワトリが5倍ですが、コオロギは2・7倍です。
 そしてウシなどの反芻動物のだすゲップに含まれるメタンガスは世界の温室効果ガスの15%になる上に、牧場のために広大な森林を伐採してきた歴史もあり、地球環境の視点からも問題とされています。

 食べ物は伝統や習慣が大きく反映しており、私は6年間ほど世界各地の先住民族を訪ねた経験がありますが、例えば、南米大陸のアンデス山脈に住むケチュア族の最高の御馳走はネズミの丸焼きですし、カナダの北極圏に生活するイヌイットは射撃したばかりのアザラシの目玉や内蔵をもっとも好んでいます。
 反対に日本人の好む「魚の活き造り」「シロウオの踊り食い」などは世界の奇食とされています。
 私の体験では、昆虫は調理を工夫すれば高級料理になる食材なので、将来の食料不足時代に備えて訓練しておかれるのも良いのではないかと思います。





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