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論文

 先週、厚生労働省が2030年の日本の労働力の状態を推計した結果を発表しました。
 現在の社会状態のまま推移すれば、現状の6600万人から800万人減って5800万人になるという内容です。
 仕事を探している求職者数と人材を必要としている求人数の比率である有効求人倍率は今年の9月で1.25と1を上回っています。
 1・25という数字はリーマンショック以後の0・45という時代からすれば、夢のような時代ですが、1を越えているということは採用する企業の立場からすれば労働力不足ですから、15年間で800万人も減っていけば、労働力不足は深刻になります。

 安倍内閣の新しい三本の矢の一つである、GDPを現在より100兆円増やして600兆円を目指せば、当然、労働力は不足します。
 それを補うためには、これまで「女老外(じょろうがい)」という言葉が使われ、女性と老人と外人で補完しようという考え方がありました。
 これらについては様々な意見が出ていますので、今日はもう一つの切札について説明したいと思います。

 ロボットです。
 かつてロボットは工場などで使われる産業ロボットが中心で、1985年には世界で使われている産業ロボットの3分の2が日本にあるというほどでした。
 最近では日本の比率は世界の4分の1程度に低下していますが、それでも国別では日本がもっとも多く使っており、ロボット大国の地位を保っています。
 ところが最近、ロボットの役割は方向転換しはじめています。

 第一は女性や高齢者が労働に参加するときの補助をする役割です。
 農業女子や林業女子という言葉も登場しているように、かつては男性中心であった産業分野に女性が参加しはじめていますが、それを後押ししているのが、自動で田植や種蒔きをするロボット、自動で薬剤散布をするドローンなど、力仕事を代行できるロボットです。
 一例として、日本のサイバーダインという会社が開発したロボットスーツを身体に装着すると、50kgのものを動かすことができる人が90kgのものを動かすことができます。
 そうすると女性や高齢者でも林業で材木を運ぶことが出来るので、林業女子が活躍できることになります。

 第二の分野は、農業や工業などモノを生産する分野で活躍する産業ロボットではなく、医療、介護、教育、小売などサービス産業の分野で働くサービスロボットです。
 例えば、理化学研究所で開発したRIBA(リーバ)という介護ロボットは61kg以内の体重の人間であれば、抱きかかえて安全に運ぶことが出来ます。
 経済産業省の推計では現在、日本のロボット全体のうちサービス産業の利用は23%ですが、10年後には50%になるという予測になっています。
 その中でも成長が大きいのが介護ロボットで、これも経済産業省の予測では、現在、170億円程度の規模である介護ロボットの売上は、10年後には1240億円、20年後には4000億円以上になります。
 それは介護を必要とする高齢者や認知症の高齢者が増加していくからで、現在、65歳以上の高齢者の17%、569万人が介護を必要としていますが、10年後には20%、700万人に増加します。
 認知症の高齢者も現在は14%の443万人ですが、10年後には16%の553万人になると推定され、そのためには現在120万人程度の介護職員が2025年には180万人が必要とされています。
 それらが介護ロボットで代替できれば、60万人程度の労働力を削減できるとともにロボット産業を拡大させることになります。

 小売業の分野でも販売に従事する人材が不足気味ですが、8年ほど前から、コンビニエンスストアやスーパーマーケットで「セルフレジ」が登場しています。
 買おうとする商品を持ってセルフレジに行き、商品のバーコードを装置にかざして、電子マネーで支払をする方法です。
 ロボットという言葉で想像する装置ではありませんが、人間の店員が行なっていることを代行するロボットです。
 同様にインターネット通販が急速に拡大したことにより、宅配便などで荷物を輸送する労働力も不足しています。
 アマゾンがドローンで配達しようとしているのは、その対策ですし、自動運転車が実用になれば、長距離輸送では人間の運転手が不要になります。

 人口が減っていく日本では、労働をロボットで代替することは重要ですが、日本には2つの有利な点があります。
 第一は、ロボットの技術で先端を行っていることです。人間が操作する介護装置ではスウェーデンやドイツに遅れていましたが、介護ロボットに移行しはじめたことにより先頭集団に参入する状態になりました。
 第二がさらに重要ですが、日本人はロボットに親近感を持つ国民性を備えているということです。
 鉄腕アトムなどのマンガの影響もありますが、もともと万物に魂があるという神道思想の影響もあり、ロボットに接することに違和感がない国民なのです。

 オリックスリビングが2013年に行なったアンケート調査で「あなたはロボットによる介護を受けたいですか?」という質問に、「受けたい」が9%、「受けても良い」が72%で、「受けたくない」の18%を大きく上回っています。
 確かに人間の介護士に階段から突き落とされたり、暴力を振るわれたりするよりはロボットの方が頼りになります。
 この技術の優位と機械に対して違和感が少ない国民性を利点として、ロボットを新しい労働力とする社会を実現すれば、人口減少を克服できる可能性があると思います。





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