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論文

 国際連合は世界全体に関心を持ってほしい課題について、1957年から国際年を定めていますが、今年は「国際豆年」です。
 初期には「国際難民年(59)」「国際協力年(65)」「国際人権年(68)」「国際婦人年(75)」など社会問題を採り上げることが多かったのですが、21世紀に入ってから食料問題を採り上げることが多くなっています。
 2003年の「国際淡水年」から始まり、04年の「国際コメ年」、08年の「国際ポテト年」、13年には日本では馴染のないキヌアという雑穀を採り上げた「国際キヌア年」とともに「国際水協力年」、昨年は農業の基盤である「国際土壌年」、そして今年が「国際豆年」という具合です。
 さらに05年から昨年まで10年間は「命のための水・十年」も制定されていました。

 21世紀になって水や食料など、人間の生存にとって必須の物質が頻繁に採り上げられるようになったのは、人口の増加によって、それらが世界全体で逼迫してきたからです。
 水については、世界の人口の7分の1に相当する11億人が毎日、安全な水が手に入らないという状態で、不衛生な水を飲んで死ぬ人が毎年数百万人にもなると言われています。
 食料についても人口の9分の1の8億5000万人が栄養不足の飢餓人口といわれ、毎年、1000万人以上が餓死していると推定されています。

 このような問題を世界の人々が実感し、解決策を見出そうというのが国際マメ年の趣旨ですが、世界三大穀物とされる小麦、トウモロコシ、コメのうち、まだ国際年に制定されていない小麦とトウモロコシを差し置いて豆が選ばれたのには理由があります。
 その前に豆という植物の概要を説明しておきたいと思います。
 現在の地球には約1万8000種の豆科の植物が存在していますが、人間が食料として利用しているのは70から100種くらいで、170ほどの国で生産されていますから、世界の大半の国で栽培されていることになります。
 主要な種類は、大別すると食用にするインゲン、エンドウ、ソラマメ、ササゲなどと、油を絞ることが主な目的である大豆や落花生があります。
 年間の生産量は三大穀物であるトウモロコシの84億トン、コメの67億トン、小麦の65億トンと比べると、油を得ることを目的とする大豆と落花生が合計3億トン、食用のマメは最大のインゲンでも2300万トンで、すべての食用マメを合計しても7000万トン程度ですから、三大穀物に比べれば一桁少ない生産量でしかありません。

 それでも国際年の対象になるのは、タンパク質の含有量が多いことです。
 10グラムあたりに含まれるタンパク質は、小麦が1・2グラム。トウモロコシが0・9グラム、コメが0・3グラム程度ですが、大豆は3・5グラム、落花生は2・7グラム、小豆は2グラムです。
 このタンパク質は次第に供給不足になると予測され、それを補うためには、昨年、御紹介した昆虫が優れた食品ですが、それは勘弁してほしいという方に取って、豆類は重要な作物になります。

 人間はタンパク質を原料として体内でアミノ酸を合成します。
 しかし、体内で合成できず外からの栄養として摂取する必要がある9種類のアミノ酸を必須アミノ酸といいますが、それを高度に含んでいるのが豆類です。
 一定の量の穀物に含まれている必須アミノ酸を計算したアミノ酸スコアという数字で比較してみると、マメの優れた特徴が理解できます。
 細かい数字になるので、一部のみ紹介しますと、リジンは大豆の含有率を100とすると、コメは46、小麦は30、トウモロコシは58ですし、トリプトファンは同様に、コメは74、小麦は77、トウモロコシは44というように、豆類は優れた食物なのです。

 日本にとっては、味噌、醤油、納豆、豆腐など、豆類の加工食品が伝統食として豊富に存在しているという別の重要な意味もあります。
 問題は、この重要な豆類を日本は自給できているかということです。
 残念ながら、ソラマメの自給率は1%、すなわちほとんど輸入に頼っていますし、エンドウが4%、インゲンが31%、小豆が68%という状態です。
 もっとも重要な大豆は自給率6%ですが、飼料用に輸入している脱脂大豆も計算に含めると4%でしかありません。
 食料全体の自給率が40%程度のなかで、豆類は平均以下ですが、それでもお金を支払って輸入できればまだしも、世界全体で食料が逼迫してくると、輸入もできなくなる可能性があります。
 昨年、世界全体の大豆の貿易量は9500万トンでしたが、その56%を中国が輸入しています。
 1990年まで中国の輸入はゼロでしたが、21世紀に入って所得の増大とともに国内需要が増加し、世界最大の輸入国になったのです。
 さらに5年後には60%にまでなると予測されています。
 日本の輸入量は全体の4%の380万トン程度ですが、値段は過去10年で2.6倍に上がっていますから、円安の時代には大きな負担になります。
 マメは主食ではないかもしれませんが、タンパク源としては貴重な食料ですし、それ以外の食料も人口の増加とともに品不足になっていきます。
 国際豆年を契機に日本の食料安全保障を一人一人が意識する必要があると思います。





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