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論文

 自然保護活動をしている国際自然保護連合(IUCN)という組織が、一昨年、ニホンウナギ、太平洋クロマグロ、カラス(フグ)などを絶滅危惧種に指定しました。
 指定されたからといって規制はありませんが、乱獲すれば国際社会では非難されますし、漁獲量を大幅に減らさなければ絶滅してしまいますから捕獲は困難になり、日本の食卓にも大きな影響を及ぼします。

 このIUCNが絶滅危惧種に指定している生物は大変な数になっています。
 2014年時点で、地球に棲息している哺乳類で人間が確認して名前を付けている5513種のうち絶滅危惧種になっているのは1199種ですから22%ですし、鳥類は1万425種のうち1373種で13%にもなっています。
 それ以外の動物も含めると、1万1818種が絶滅危惧種になっていますが、人間が確認している動物は95万3000種ほどですから1・2%です。
 植物については1万584種が絶滅危惧に指定されていますが、これは人間が確認している21万5000種ほどの植物の4・9%に相当します。
 日本についての数字も紹介しますと、日本列島に棲息する188種の哺乳類のうち22%の42種が絶滅危惧種、鳥類は250種のうち37%の93種、植物は5565種のうち35%の1903種などと、世界全体の比率を大幅に上回っています。

 多いと思われるか少ないと思われるかは立場によって違いますが、問題はIUCNが監視している動物や植物は6万種弱で、そのうちの2万2400種類が絶滅危惧に指定されていますから、38%にあたり、相当な比率ということです。
 さらなる問題は、先程から人間が確認して名前を付けている生物と繰返しているように、人間は地球の生物のほんの一部しか知らないのです。
 2011年にハワイ大学とカナダのダルハウジー大学が推定した数字では陸上に棲息している650万種の動植物のうち、発見されて名前が付けられているのは14%の約90万種、水中については220万種のうち9%の約20万種ですから、人知れず消えていっている生物も膨大になる可能性があります。

 しかし、地球の歴史では、さらに驚くような大量絶滅が発生しています。
 化石などから過去数億年の間だけで、5回の大量絶滅が分かっているのですが、第1回は4億4400万年前に、地球の生物の85%が消滅しました。
 原因は海面の急速な上昇と低下という説と、地球の比較的近い位置で超新星が爆発した影響という2説があります。
 2回目は3億7400万年前に発生し82%の生物が消滅しました。
 原因は寒冷化と海中の酸素の欠乏が原因とされています。
 3回目は2億5100万年前で、これは地球の歴史で最大の大量絶滅といわれ、90%から95%の生物が死滅したとされています。
 原因はスーパーブルームといわれる地球全体で火山活動が活発になり、二酸化炭素濃度が増え、大気中の酸素濃度が激減したことと考えられています。
 4回目は1億9960万年前で、76%の生物が絶滅したとされ、原因は前回と同様に火山活動が活発になり、空気中の酸素濃度が低下したことのようです。
 5回目は6550万年前で恐竜を筆頭に70%の生物が絶滅したときで、原因は中米のユカタン半島に隕石が衝突したことが有力とされています。

 これらに比べると、人間が確認している動物の1・2%や植物の4・9%が絶滅危惧という数字はささやかな感じがしますが、問題は消滅の速度です。
 アメリカの学者によれば、17世紀から19世紀までは4年で1種程度の絶滅でしたが、20世紀に入って一気に1年に1000種ほどが消滅し、最近では1年で4万種程度が絶滅しているという説や、これから100年で生物の種の半分が絶滅するという過激な説まであります。
 1年で4万種とすれば、100年で400万種になりますから、両者の説は符合します。

 もう一つの問題は、過去5回の大量絶滅の原因が完全には分かっていないのに対し、今回の絶滅は原因が明らかになっていることです。
 それは農業革命や産業革命によって、人間の自分の都合に合わせて自然を改造もしくは破壊し、異常に人口を増やしてきたことです。

 このように言葉で説明しても想像がしにくいと思いますが、過去2万年について、人間がどのようにして自然を改造し、生物を絶滅させてきたかを美しい映像で表現した映画が最近完成しました。
 『シーズンズ:2万年の地球旅行』という題名で、人間が多くの動物と同様に自然の一部として生活していた2万年前から始まり、1万年前に農業を発明して自然を破壊し、さらに数百年前からの産業革命で破壊を加速させ、生物を消滅させてきた状態を、すべて実写で構成した映画です。
 このようなドキュメンタリー映画はイギリスのBBCやアメリカのアニマルプラネットでも頻繁に放送されていますが、この映画は森の中をオオカミの群れが獲物を追って疾走する場面を間近から撮影し、クマが目の前を通りすぎていく場面を大写しで撮影するなど、どのようにして撮影したか分からないような迫力満点の映像の連続で、従来の映画を大きく引き離しています。
 また2006年から放送された、イギリスのBBCが中心になって、NHKとアメリカのディスカバリーチャンネルが共同制作した『プラネット・アース』のように、現在の地球の生物の状態を紹介するのではなく、2万年の時間の経過に添って映像が展開するという点でも新しい視点の作品です。
 日本語版のナレーションが稚拙なところは残念ですが、明日15日から国内の映画館で公開されますので、これからの地球環境問題を考える上で、ぜひご覧になることをお薦めしたいと思います。





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