TOPページへ論文ページへ
論文

 技術は本来、人間を手助けするために開発されてきたのですが、最近は人間の能力を追越してしまう技術が目立つようになっています。
 オセロやチェスでは素人はもちろん、世界チャンピオンでもコンピュータに勝てませんし、将棋も危うくなり、囲碁は辛うじてプロが勝てるという状況です。
 ゲームだけではなく、クイズ番組で人間の歴代チャンピオンに勝ってしまう人工知能も出現していますし、数年後には東京大学の理系の入学試験に合格する人工知能の研究も進んでいます。
 以前も御紹介しましたが、超高速取引(HFT)という1秒間に何百万回も自動で売り買いするプログラムを使用して、5年間の1238日の売買の成績が1237勝1敗という結果も報告されています。
 もはや経験豊富なトレーダーでも勝目はないという状態です。

 このような知能だけではなく、肉体を持ったロボットでも人間の能力では歯が立たない技術が次々と登場しています。
 東京大学で開発されたジャンケンをするロボットは、人間の指の動きを判断し、人間では判別できないほど一瞬の後だしで百戦百勝ですし、どのような投球も打ち返すロボットも開発されています。
 最近の自動車には障害物を見つけたら自動でブレーキをかける仕組が組込まれていますが、人間より反応速度が早く安全性を高めています。
 バックの車庫入れは、初心者には苦手な操作ですが、それを自動で行なってくれる自動車も出現しています。
 ドイツの企業が開発したピンポン・ロボットは、かつて世界のランキングで1位になったこともある32歳のドイツの卓球選手と対戦し、負けはしましたが11対9という結果でした。
 そのような機械剥き出しのロボットではなく、外見は人間と見分けのつかないロボットが百貨店の入口で案内係をしたり、展示場で説明をしたりもしています。

 過去を懐かしがるのもどうかと思いますが、19世紀後半にはなかなか人間味のある技術が開発されていました。
 例えば、1897年の自転車の展示会に出品された「自転車シャワー」は、大きなタライにお湯を貯めておき、その中に固定された自転車を置き、ペダルを回すとお湯が汲み上がって、頭の上から落ちてくるという仕掛けです。
 最近も、同じような発想の技術が開発されています。
 自転車に発電機を付けて、その電気でテレビジョン受像機を作動させるようにしておくと、テレビジョンを見ながら身体も鍛えることが出来、電気代も不要で、しかもつまらない番組を見ないようになるという一石三鳥の手作りの装置を使っている人もいます。  

 このような過去の開発ではなく、最近、技術と人間の関係を見直そうという技術開発を目指す研究者が登場しはじめました。
 例えば「ルンバ」のような人工知能を搭載したロボット掃除機は、障害物を避けながらゴミを吸い取り、蓄電池の電気が不足してくれば、自分でコンセントのところへ行って充電するという高度な能力を備えています。
 そうすると、人間は掃除するということに関心を持たなくなるし、技術と人間の関係が無くなってしまうと考えた豊橋技術科学大学の岡田美智男教授が開発された「社交的ゴミ箱(ソーシャブル・トラッシュボックス)」というロボットがあります。
 これは円筒形のゴミ箱の形をしていますが、床を動いてゴミを見つけると、自分で拾うのではなく、身体全体を揺すって、周りの人にゴミがあるということを伝えるだけです。
 そうすると人間が仕方ないなーと言いながら、ゴミを拾ってカゴの中に放り込むのですが、そうするとゴミ箱が嬉しそうに身体を振るわすという仕組です。
 面白いことに、床を動き回る駆動装置はルンバを使っているという落ちまであります。

 最近は買った後で「ありがとうございました」と礼を言う自動販売機がありますが、自動的な反応でしかなく、言われた人間もありがたいとは思いません。
 さらに、会話ができるロボットが登場し、人間に比べて遜色ない対話をするような知能をもつことに研究者は努力しています。
 しかし、岡田教授が開発された、サッカーボールに1本のツノが生えたような形で、真ん中に大きな目玉を持つ「む〜」というロボットは幼児のように、たどたどしい会話しかできませんが、逆に人を引きつけて対話が弾むという結果になるそうです。

 1月に警察庁が昨年の1月から11月までに約842万回の110番通報があり、その2割強の184万回は不要不急の内容で、「パソコンに文字が入力できない」「パチンコで勝てない」などの内容もあったそうです。
 また昨年5月の財政制度等審議会で、地方自治体がおこなっている救急車による救急搬送の一部を有料にすべきだという案が出されています。
 それは2013年の救急車の出動回数は全国で591万回でしたが、そのほぼ半数は「蚊に刺されて痒い」「海水浴で日焼けしてヒリヒリする」「病院でもらったクスリが無くなった」など、まったく救急搬送の必要がない内容で、救急車をタクシー替わりに使う傾向にあるから、有料にして抑制しようという訳です。

 人工知能やロボットと関係なさそうですが、私たちは技術だけではなく社会の制度も便利にするという方向を目指して努力してきましたが、現在の進んでいる方向が適切かどうか疑問になるという点では同じ内容です。
 それは人間疎外という精神的な問題をもたらしますし、財政破綻という経済的な問題の原因にもなりつつあります。
 便利な社会に潜んでいる長期的な問題を考える転換点にあるのではないかと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.