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論文

 今週の『ニューズウィーク(日本版)』の記事によると、2週間ほど前、人口180万人のドイツで二番目の大都市ハンブルグが、市役所をはじめ、市が維持管理している建物の内部で、カプセル式コーヒーサーバーの使用を禁止するという発表をしたそうです。
 カプセル式コーヒーサーバーというのは、アルミニウムとプラスチックの複合材料で出来た重さ3グラムほどの容器に3グラムほどのコーヒーの粉が封入されており、それを装置に挿入してスイッチを入れると、ヒーターで温めたお湯が通過して新鮮なコーヒーが数十秒で出来あがるという仕組です。
 コーヒーの粉は空気に触れると時間とともに品質が劣化していきますが、容器に封入されているので、いつも挽き立ての新鮮な味になりますし、使用後はカップごと捨てることができるので、使う人には便利だということで急速に普及してきました。
 私も簡単にエスプレッソコーヒーが作れるし、数十種類のコーヒーのカプセルが用意されているので、20年以上愛用してきましたが、意外なニュースでした。

 最初は30年前の1986年に、スイスに本社を置く世界最大の食品会社ネスレの子会社「ネスプレッソ」が開発したのですが、人気が出てきたので、アメリカのキューリグ社などが紅茶や緑茶にも対応する装置を発売するなど、いくつも製品が登場し普及してきました。
 カプセル1個で70円から80円と、それほど安くはないのですが、最近ではドイツで飲まれるコーヒーの12%がカプセル式、アメリカでは家庭の25%に装置が普及し、国民の13%が飲んでおり、イギリスでも20%以上の家庭で使用されているほどになり、世界全体のコーヒーの売上の3分の1になっています。

 そのような美味しく、便利で、人気のあるコーヒーマシンを、なぜドイツ政府が禁止するかというと、カップが複合材料で作られているうえに、使用済みのコーヒーの粉も含まれているので、リサイクルできず埋立廃棄物になるため、深刻な環境問題を引き起こすと考えているからです。
 1個3グラムの小さなカプセルが環境問題を引き起こすというのは大袈裟なようですが、アメリカで普及している「キューリグ社」が14年に販売したカプセルは140億個で一列に並べると地球を12周するほどの数になり、廃棄物の重量は8万4000トンになりますから、ささやかな問題ではないということがお分かりかと思います。
 装置の発明者ジョン・シルバンも自分の発明を悔いて、自分では使わないと言っているそうです。

 ハンブルグ市では、さらにペットボトル入のミネラルウォーターも公的建物内では使用禁止にしていますが、これは世界各地で進んでおり、ロサンゼルス市は1997年から、市の予算で購入するペットボトル飲料水を制限してきましたし、サンフランシスコ市は2007年から市の部局すべてでペットボトル飲料水の調達を禁止、イギリスでは2008年から政府の会議でのペットボトル飲料水の使用を禁止しています。
 いずれも理由は廃棄物処理が深刻な状態になっているからです。

 ところで日本はどうかということですが、今後、テレビジョンのニュースなどで官庁の会議の風景が映されたら御覧いただくと分かりますが、各委員の前にペットボトル入りのお茶が置いてあります。
 確かに湯沸かし室でお茶を用意して、何十人もの委員に配り、終了したら茶碗を洗うという手間や経費を考えると、合理的のようですが、廃棄物処理まで含めると必ずしも合理的とはいえないのです。

 技術というのは、目指す目的だけを考えると便利ですが、その副次作用や処理までを含めると必ずしも合理的とは言えないものが多数あります。
 インターネットは世界で30億人が利用しており、時間のかかる手紙に比べれば圧倒的に便利な通信手段で、現在ではインターネットのない社会は想像できないほどの貢献をしています。
 ところが、最近では情報が盗まれたり、詐欺が横行したり様々な犯罪の原因にもなっています。
 「シマンテック」というセキュリティ会社の推計によると、2012年の世界全体のインターネットが原因の被害総額は12兆円、ウィルスが侵入したコンピュータの復旧などにかかる費用が28兆円で合計40兆円になっています。
 これは世界のGDPの0・6%ですし、麻薬取引43兆円に匹敵する金額になるというわけです。
 その情報社会を維持するための電力は急速に増え、2025年には世界の総発電量の15%が必要とされています。

 乗用車と貨物自動車を合わせると、世界では12億台が利用されており、これが存在しない社会も想像できないほどです。
 しかし二酸化炭素排出量の20%近くは自動車の利用によるものですし、世界では年間125万人ほどが自動車事故で亡くなっていることです。
 比較するのが適切かどうか分かりませんが、2004年のスマトラ沖地震で亡くなった人は23万人、ベトナム戦争で亡くなった人は240万人ですが、1年では16万人ですから、自動車がもたらしている人的被害の巨大さが理解できます。

 簡単に美味しいコーヒーを淹れることができる技術も、持ち運び可能で、災害に備えて水を備蓄できるペットボトル入りの飲料水も素晴らしい発明ですが、あらゆる技術には利点と欠点が同居しているということを理解しながら技術を利用することが重要だと思います。





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